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第3章
マタ王国の内戦5
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◇◇
俺とティナはサム爺の店を出て、農村部から中心街の方へと移動していた。
「ねえ、ジェイ。どうするの?サム爺様のお願い」
ティナが俺の顔を覗き込むようにして聞いてきた。
俺はティナの顔の方は向かずに、前を向いて考えていた。
サム爺のお願いというのは、
「どうか、この国を救って欲しい」
という至ってシンプルなものだ。
しかしそれを成し遂げるのは、全くシンプルではない。
なぜならこの国の抱えている問題は人間同士の争いであり、単純に魔物を力づくでねじ伏せればよい、という訳にはいかないからだ。
農民と商人…どちらかに肩を持てば、それはそれで角が立つ。
そうなると俺たちに出来る事は限られていた。
それは…
争いの根源を糺(ただ)す
というものだ。
とは言え、その根源に関してサム爺が話してくれた内容としては、たったの二つの出来事だけである。
一つは前の国王が原因不明の病で急逝し、今の若い国王になった事。
この国王は八方美人で決断力に欠けており、周囲の言いなりとなって、良い格好だけをつけたがるような人物らしい。
自国の国王に対し、散々な言いようだが、事実なので仕方ないそうだ。
もう一つは、前の国王の時代から力をつけてきたパブロという宰相の男の存在だ。
彼は元は中心街の武器屋を営んでいたが、魔物の侵攻とともに、財力と権力を手にし始め、今では国の財政と軍隊を牛耳っているとのことだ。
彼が農民たちの締めつけ政策を推進していった為、農民と商人との軋轢が生じたらしい。
しかし彼らを実力で排除した所で国は混乱するだけだろうし、そんな事をしたら俺たちは英雄どころか大罪人として追われかねない。
おのずと答えは一つなのだが…
「お主の探している物…いや、人と言うべきかな?
国を救ってくれたあかつきには、その人の手がかりを教えてあげられるかも知れんのう」
と俺の心を見透かしたようなサム爺の一言が、頭の中からずっと離れないでいた。
サヤ…
もしサム爺の言っている人がサヤなら…
俺は迷う事はない。
「…やるしかないだろ」
俺は静かに決意を口にした。
それを聞いていたティナの顔がほころぶ。
ムニュ!
大きく水袋のような柔らかな感触が俺の右腕から伝わってきた。
「ジェイならそう言うと思ってた!私たちでこの国を救ってあげましょう!」
と、俺の腕に抱きつきながらティナは笑顔で俺の決断を歓迎してくれていた。
「…まずは…国王」
「うん!国王様にバシっと男らしく決断してもらいましょ!
差別はいかん!ってね!」
「…うむ」
いつの間にか中心街まで出てきた。
辺りは夕暮れ。
母親と思われる中年の女性たちが、夕飯の支度をする為に買い物から家路に急ぐ姿が目立っている。
ティナは抱きつきながら、耳元で甘くささやいてきた。
「今日はもう宿に行きましょう。そこで…ね」
俺は無言で先を急ぐ。
ティナはもう一度耳元でささやいた。
「今日は…一緒にお風呂に入りたいな…私がジェイの体を流してあげる」
その言葉に俺の顔は真っ赤になるのが自分でも分かった。
その様子を見て、悪戯な笑顔を向けるティナであった。
◇◇
チャプン…
適当な宿で部屋を取った俺は、一日の疲れをいやす為に真っ先に風呂に入り、湯船につかっている。
そこでこれから自分がすべき事を考えていた。
先ほど口にした通り、まずは国王だ。
というよりも国王さえどうにかしてしまえば、問題は解決するような気がしていた。
なぜなら彼の決断一つで、パブロは失脚し、農民への圧政は終了する。
問題は彼にその決断をどう促すか…という事だ。
その前に俺に会ってくれるのか…?それさえも怪しい。
すべき事はシンプルなようで、達成するまでの道のりは難しいように感じていた。
「…ふぅ」
俺は溜め息をついて目を閉じる。
しばらくのんびりとまどろもう…そう思っていた。
ガラガラ…
風呂場に誰かが入ってくる気配がした。
俺はゆっくりと目を開ける。
そこには…
ティナの美しい姿があった。
ザバッ…
彼女が湯船につかる前に風呂桶で体を流す。
その姿は女神が水浴びをしている様な、神々しい輝きを放っていた。
ザブン
「おまたせ、ジェイ」
湯船に入ると俺の正面にティナは座った。
俺はまともに見る事が出来ずに、目をそらした。
「ふふ、今更恥ずかしがらなくても…今は二人でのんびり過ごしたいの、ダメかな…?」
俺はその問いには答えずに、そっと彼女を抱き寄せる。
ティナは
「ふふ、それが答え…ってことね」
と微笑むと、そのままキスをしてきた。
この後、二人の時間をゆっくりと過ごした俺たちは、風呂からあがると完全にのぼせてしまっていた。
◇◇
翌朝…
俺たちはどうにかして国王に謁見出来ないかと思案を巡らせていた。
そんな時に思いがけない幸運が舞い込んでくる。
宿の食堂で朝食を取っていたところに、
「ごめん!ジェイ殿とティナ殿はこの宿におるか?」
と聞き覚えのある若い男性の声が聞こえてきた。
声の方を見ると、そこにはなんとラーミア国王の姿。
もちろん宿の主人を始め、従業員たち全員が床に伏せている。
そして彼は俺たちを見つけると、昨日と同じような爽やかな笑顔で言った。
「やあ!君たちのことは叔母様の手紙で良く分かった!
早速歓迎したいから、一緒に城まで来てくれるかい?」
俺は遠く離れたベトジアの街のおばば様に対して、感謝の気持ちでいっぱいであった。
俺とティナはサム爺の店を出て、農村部から中心街の方へと移動していた。
「ねえ、ジェイ。どうするの?サム爺様のお願い」
ティナが俺の顔を覗き込むようにして聞いてきた。
俺はティナの顔の方は向かずに、前を向いて考えていた。
サム爺のお願いというのは、
「どうか、この国を救って欲しい」
という至ってシンプルなものだ。
しかしそれを成し遂げるのは、全くシンプルではない。
なぜならこの国の抱えている問題は人間同士の争いであり、単純に魔物を力づくでねじ伏せればよい、という訳にはいかないからだ。
農民と商人…どちらかに肩を持てば、それはそれで角が立つ。
そうなると俺たちに出来る事は限られていた。
それは…
争いの根源を糺(ただ)す
というものだ。
とは言え、その根源に関してサム爺が話してくれた内容としては、たったの二つの出来事だけである。
一つは前の国王が原因不明の病で急逝し、今の若い国王になった事。
この国王は八方美人で決断力に欠けており、周囲の言いなりとなって、良い格好だけをつけたがるような人物らしい。
自国の国王に対し、散々な言いようだが、事実なので仕方ないそうだ。
もう一つは、前の国王の時代から力をつけてきたパブロという宰相の男の存在だ。
彼は元は中心街の武器屋を営んでいたが、魔物の侵攻とともに、財力と権力を手にし始め、今では国の財政と軍隊を牛耳っているとのことだ。
彼が農民たちの締めつけ政策を推進していった為、農民と商人との軋轢が生じたらしい。
しかし彼らを実力で排除した所で国は混乱するだけだろうし、そんな事をしたら俺たちは英雄どころか大罪人として追われかねない。
おのずと答えは一つなのだが…
「お主の探している物…いや、人と言うべきかな?
国を救ってくれたあかつきには、その人の手がかりを教えてあげられるかも知れんのう」
と俺の心を見透かしたようなサム爺の一言が、頭の中からずっと離れないでいた。
サヤ…
もしサム爺の言っている人がサヤなら…
俺は迷う事はない。
「…やるしかないだろ」
俺は静かに決意を口にした。
それを聞いていたティナの顔がほころぶ。
ムニュ!
大きく水袋のような柔らかな感触が俺の右腕から伝わってきた。
「ジェイならそう言うと思ってた!私たちでこの国を救ってあげましょう!」
と、俺の腕に抱きつきながらティナは笑顔で俺の決断を歓迎してくれていた。
「…まずは…国王」
「うん!国王様にバシっと男らしく決断してもらいましょ!
差別はいかん!ってね!」
「…うむ」
いつの間にか中心街まで出てきた。
辺りは夕暮れ。
母親と思われる中年の女性たちが、夕飯の支度をする為に買い物から家路に急ぐ姿が目立っている。
ティナは抱きつきながら、耳元で甘くささやいてきた。
「今日はもう宿に行きましょう。そこで…ね」
俺は無言で先を急ぐ。
ティナはもう一度耳元でささやいた。
「今日は…一緒にお風呂に入りたいな…私がジェイの体を流してあげる」
その言葉に俺の顔は真っ赤になるのが自分でも分かった。
その様子を見て、悪戯な笑顔を向けるティナであった。
◇◇
チャプン…
適当な宿で部屋を取った俺は、一日の疲れをいやす為に真っ先に風呂に入り、湯船につかっている。
そこでこれから自分がすべき事を考えていた。
先ほど口にした通り、まずは国王だ。
というよりも国王さえどうにかしてしまえば、問題は解決するような気がしていた。
なぜなら彼の決断一つで、パブロは失脚し、農民への圧政は終了する。
問題は彼にその決断をどう促すか…という事だ。
その前に俺に会ってくれるのか…?それさえも怪しい。
すべき事はシンプルなようで、達成するまでの道のりは難しいように感じていた。
「…ふぅ」
俺は溜め息をついて目を閉じる。
しばらくのんびりとまどろもう…そう思っていた。
ガラガラ…
風呂場に誰かが入ってくる気配がした。
俺はゆっくりと目を開ける。
そこには…
ティナの美しい姿があった。
ザバッ…
彼女が湯船につかる前に風呂桶で体を流す。
その姿は女神が水浴びをしている様な、神々しい輝きを放っていた。
ザブン
「おまたせ、ジェイ」
湯船に入ると俺の正面にティナは座った。
俺はまともに見る事が出来ずに、目をそらした。
「ふふ、今更恥ずかしがらなくても…今は二人でのんびり過ごしたいの、ダメかな…?」
俺はその問いには答えずに、そっと彼女を抱き寄せる。
ティナは
「ふふ、それが答え…ってことね」
と微笑むと、そのままキスをしてきた。
この後、二人の時間をゆっくりと過ごした俺たちは、風呂からあがると完全にのぼせてしまっていた。
◇◇
翌朝…
俺たちはどうにかして国王に謁見出来ないかと思案を巡らせていた。
そんな時に思いがけない幸運が舞い込んでくる。
宿の食堂で朝食を取っていたところに、
「ごめん!ジェイ殿とティナ殿はこの宿におるか?」
と聞き覚えのある若い男性の声が聞こえてきた。
声の方を見ると、そこにはなんとラーミア国王の姿。
もちろん宿の主人を始め、従業員たち全員が床に伏せている。
そして彼は俺たちを見つけると、昨日と同じような爽やかな笑顔で言った。
「やあ!君たちのことは叔母様の手紙で良く分かった!
早速歓迎したいから、一緒に城まで来てくれるかい?」
俺は遠く離れたベトジアの街のおばば様に対して、感謝の気持ちでいっぱいであった。
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