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第3章
マタ王国の内戦4
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「なんじゃ?今日は騒々しいのう」
ズカズカと大きな足音とともに、大柄な若い青年がカウンターの前まで小走りでやってきた。
精悍な顔つきであるが、頬は痩せすぎを象徴する様に少し窪みが目立つ。
ギョロッと俺たちを見ると、
「よそ者か…」
と吐き捨てるように言い、すぐにサム爺の方へ向き直った。
「おい!サム爺!ここにエミリーが入っていったのを、俺の仲間が見たんだ!早く差し出さないと、痛い目を見るぞ!」
猛々しく詰め寄る青年に、サム爺は全く動じていない。
「まあ、少しは落ち着いたらどうだ?トマソン。
もう彼女はここにはおらんよ」
そう言ってサム爺は、自身の背後を指差した。
「くそっ!逃げられたか!」
すぐに踵を返そうとするトマソンと呼ばれた青年。
それを見てサム爺が彼を呼び止めた。
「これこれ、エミリーの逃げ足の速さはお主が一番よく知っておるだろう。
それよりこの爺に教えてはくれぬか」
トマソンはもどかしそうにしながらも、その呼び止めに立ち止まった。
サム爺が続ける。
「エミリーをとっ捕まえて何をするつもりなのじゃ。
事によってはこの爺が許さんぞ」
ゾワッ…
何だ…?
思わず声が出そうになる程の殺気が、目の前の老人から発せらた。
俺はこの世界に来て初めて鳥肌が立つのを覚えた。
この老人は一体何者なんだ…?
面を食らったのはトマソンも同じな様で、完全に及び腰になって、弁解した。
「べ、別に何もしねえよ!変な勘違いするな!」
彼の声が上ずっている。
もっとも、あれだけの殺気を向けられて、平然としている人間がいたとしたら、それこそ怪しむべきであろう。
「じゃあなぜ捕まえようとしているのじゃ?」
「そ、それは…ちょっと問いただそうと思ってだな…」
「何をじゃ?」
「国外に出た事についてだよ!オーブリーの話だと、今日は門番と国王様に通してもらえなかったって話だぜ!」
トマソンの言葉に俺とティナは目を合わせる。
おそらくオーブリーというのは、俺たちがこの国に来た時に門番と言い争っていた男だ。
商人の娘であるエミリーと農村出身のオーブリーの扱い方の違いに、トマソンは不満を抱いているのであろう。
理不尽な差別に激昂しているトマソンとは対照的に、サム爺は表情を変えずに問いかけた。
「それがどうしたのじゃ?商人と農民の扱いの違いは今に始まった事ではなかろうて。今更小さな事に目くじら立てても仕方ないであろう」
「俺だって分かってるけどよ…悔しくねえのか!?サム爺は…」
「悔しいか、悔しくないかと聞かれれば、悔しいのう」
「だったらなぜ!?」
「お前さんたち若いものが、宰相のクズ野郎に踊らされて、身の破滅に近付いている事がのぅ」
サム爺の低い声にトマソンの顔が引きつる。
「お前さんも分かっているはずだ。農民の我らが騒げば騒ぐほど、我らの立場がドンドン悪くなっていく事を…」
「でもよ…」
トマソンの顔が曇る。その頬には悔し涙で濡れて始めていた。
「トマソンよ。聖女様の加護がある限り、必ず『悪』は討たれる。今は耐えるのじゃ。決して短気を起こしてはならん」
俺は彼の「聖女様の加護」という言葉に大きく動揺して、立ちくらみを覚えた。
その聖女こそ、討たれるべき『悪』なのだが…と、声を大にして熱弁したい気持ちに駆られたが、無論俺には何も口にする事は出来なかった。
ふとトマソンの方を見ると、彼はサム爺の言葉に渋々頷き、この場を後にしようとしていた。
「旅の方よ…見苦しい所を見せてしまって、すまなかったな。サム爺も迷惑かけた、すまん」
と、言い残すと店の外へと出ていった。
◇◇
エミリーとトマソンが去った後の店は、静寂に包まれた。
俺たちも長居するつもりはないので、トマソンを見届けてからすぐに店を後にしようとした。
「旅のお方よ…いや、わしの予想が正しければ『勇者』様よ…一つ爺の頼みを聞いてはくれまいか」
俺は驚きに目を見張る。ティナも言葉を失っているようだ。
その様子を見て、サム爺は笑顔を見せた。
「カカカ、言い当てられて驚いているようじゃのう」
「…なぜ分かった?」
俺が殺気を放って、サム爺を睨みつける。
普通の人間であればその場にいるだけでも苦しくなるような、強烈な殺気だ。
しかしサム爺は平然として笑顔を崩さずに、俺の問いかけに答えた。
「わしは代々勇者に仕える賢者の末裔の一人。
お主の手を触れた瞬間に、その魔力で気付いたのじゃよ」
勇者に仕える賢者の末裔だと…
こんな小さな店を構えて、俺の出現を待っていたと言うのか…
俺とティナは驚愕の事実にその場に立ちつくしたまま動けないでいた。
ズカズカと大きな足音とともに、大柄な若い青年がカウンターの前まで小走りでやってきた。
精悍な顔つきであるが、頬は痩せすぎを象徴する様に少し窪みが目立つ。
ギョロッと俺たちを見ると、
「よそ者か…」
と吐き捨てるように言い、すぐにサム爺の方へ向き直った。
「おい!サム爺!ここにエミリーが入っていったのを、俺の仲間が見たんだ!早く差し出さないと、痛い目を見るぞ!」
猛々しく詰め寄る青年に、サム爺は全く動じていない。
「まあ、少しは落ち着いたらどうだ?トマソン。
もう彼女はここにはおらんよ」
そう言ってサム爺は、自身の背後を指差した。
「くそっ!逃げられたか!」
すぐに踵を返そうとするトマソンと呼ばれた青年。
それを見てサム爺が彼を呼び止めた。
「これこれ、エミリーの逃げ足の速さはお主が一番よく知っておるだろう。
それよりこの爺に教えてはくれぬか」
トマソンはもどかしそうにしながらも、その呼び止めに立ち止まった。
サム爺が続ける。
「エミリーをとっ捕まえて何をするつもりなのじゃ。
事によってはこの爺が許さんぞ」
ゾワッ…
何だ…?
思わず声が出そうになる程の殺気が、目の前の老人から発せらた。
俺はこの世界に来て初めて鳥肌が立つのを覚えた。
この老人は一体何者なんだ…?
面を食らったのはトマソンも同じな様で、完全に及び腰になって、弁解した。
「べ、別に何もしねえよ!変な勘違いするな!」
彼の声が上ずっている。
もっとも、あれだけの殺気を向けられて、平然としている人間がいたとしたら、それこそ怪しむべきであろう。
「じゃあなぜ捕まえようとしているのじゃ?」
「そ、それは…ちょっと問いただそうと思ってだな…」
「何をじゃ?」
「国外に出た事についてだよ!オーブリーの話だと、今日は門番と国王様に通してもらえなかったって話だぜ!」
トマソンの言葉に俺とティナは目を合わせる。
おそらくオーブリーというのは、俺たちがこの国に来た時に門番と言い争っていた男だ。
商人の娘であるエミリーと農村出身のオーブリーの扱い方の違いに、トマソンは不満を抱いているのであろう。
理不尽な差別に激昂しているトマソンとは対照的に、サム爺は表情を変えずに問いかけた。
「それがどうしたのじゃ?商人と農民の扱いの違いは今に始まった事ではなかろうて。今更小さな事に目くじら立てても仕方ないであろう」
「俺だって分かってるけどよ…悔しくねえのか!?サム爺は…」
「悔しいか、悔しくないかと聞かれれば、悔しいのう」
「だったらなぜ!?」
「お前さんたち若いものが、宰相のクズ野郎に踊らされて、身の破滅に近付いている事がのぅ」
サム爺の低い声にトマソンの顔が引きつる。
「お前さんも分かっているはずだ。農民の我らが騒げば騒ぐほど、我らの立場がドンドン悪くなっていく事を…」
「でもよ…」
トマソンの顔が曇る。その頬には悔し涙で濡れて始めていた。
「トマソンよ。聖女様の加護がある限り、必ず『悪』は討たれる。今は耐えるのじゃ。決して短気を起こしてはならん」
俺は彼の「聖女様の加護」という言葉に大きく動揺して、立ちくらみを覚えた。
その聖女こそ、討たれるべき『悪』なのだが…と、声を大にして熱弁したい気持ちに駆られたが、無論俺には何も口にする事は出来なかった。
ふとトマソンの方を見ると、彼はサム爺の言葉に渋々頷き、この場を後にしようとしていた。
「旅の方よ…見苦しい所を見せてしまって、すまなかったな。サム爺も迷惑かけた、すまん」
と、言い残すと店の外へと出ていった。
◇◇
エミリーとトマソンが去った後の店は、静寂に包まれた。
俺たちも長居するつもりはないので、トマソンを見届けてからすぐに店を後にしようとした。
「旅のお方よ…いや、わしの予想が正しければ『勇者』様よ…一つ爺の頼みを聞いてはくれまいか」
俺は驚きに目を見張る。ティナも言葉を失っているようだ。
その様子を見て、サム爺は笑顔を見せた。
「カカカ、言い当てられて驚いているようじゃのう」
「…なぜ分かった?」
俺が殺気を放って、サム爺を睨みつける。
普通の人間であればその場にいるだけでも苦しくなるような、強烈な殺気だ。
しかしサム爺は平然として笑顔を崩さずに、俺の問いかけに答えた。
「わしは代々勇者に仕える賢者の末裔の一人。
お主の手を触れた瞬間に、その魔力で気付いたのじゃよ」
勇者に仕える賢者の末裔だと…
こんな小さな店を構えて、俺の出現を待っていたと言うのか…
俺とティナは驚愕の事実にその場に立ちつくしたまま動けないでいた。
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