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第3章
勇者とは?
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「遅い!なんでこんな時間まで寝てるんだよ!」
迷いの森を壊滅させた翌朝、俺はゲンの金切り声の罵声を浴びていた。
遅いと言われても、まだ朝日が顔を出してから、1時間とたっていない。
朝が早いおばば様を除いたら、街の中で起きているのは、目の前の少年より他はいないであろう。
しかし、どうやらゲンはおばば様の屋敷の中で、俺が起きてくるのを、深夜のうちから待っていたらしく、何時間も待たせれたイライラが爆発したようだった。
俺はゲンの身勝手な問いかけを無視して、おばば様がこしらえた朝食を、ありがたく頂戴していた。
それでも止まらないゲンの怒りに、ティナが痺れを切らして、
「なんで?って言われても…
愛し合ってたから…
って答えで、お子様のゲンくんには分かるかしら?」
とティナがいらぬ事をゲンに吹き込む。
ゲンは訳が分からないという表情で、
「もういいから、早く出発の支度をしろよな!」
と俺たちを追い込む様に促した。
既に朝食を終えた俺は、
「…準備は出来ている」
と答えた。
単純に準備をするような荷物もないので、起きて朝食を取れば、いつでも出発できる状態なのだ。
「よし、じゃあ行くぞ!」
ゲンはくるりと振り返り、俺たちに「ついてこい!」と言わんばかりに、号令をかけた。
「うん!道案内よろしくね!ゲン!」
とティナが彼の小さな背中に向かって、大きな声でお願いしていた。
と言うのも、これから俺たちはマタ王国まで行くのだが、ゲンがその道の案内役を買って出たのだ。
俺たちは断る理由もないので、その申し入れを受ける事にしたのである。
ゲンはそのまま大股で、意気揚々と屋敷を後にした。
俺とティナはおばば様に向き合った。
おばば様の方から口を開く。
「こたびは本当に良くやって頂いた。
あらためて、この通り感謝申し上げる」
と深々と頭を下げてくる。
それをティナ慌てて制して、おばば様の頭を上げる様に背中から支えた。
「おばば様!やめて下さい!
私たちは勇者として、当たり前の事をしたまでです。
ね?ジェイ」
「…ああ、その通りだ」
それでも恐縮しているおばば様に対して、ティナが続ける。
「むしろ美味しいご飯や寝床まで提供してくれて、こちらが感謝を言わなくちゃと思ってるわ!
ありがとうございました、おばば様!
おかけで愛も深まったし…ね?ジェイ」
俺はティナの悪戯っぽい目配せは無視して、
「…おばば様、ありがとう」
と感謝の気持ちだけを口にした。
「そう言ってもらえると嬉しいのう。
またいつでも来てくだされ。
街の皆が歓迎しますぞ」
「はい!ありがとう、おばば様!」
そこまで会話を交わすと、おばば様は俺たちに一歩近付いて、小声で言った。
「それに…わしは助産も出来るでのう。
その時が来たら、いつでも力になるぞい」
「もう!おばば様ったらぁ!私たちは、まだ…ね?ジェイ」
「カカカッ!隠さんでも良い!昨晩はお主たちの愛で、この屋敷がずっと揺れておったからのう!
わしもじいさんとの…」
「おい!何をぐちゃぐちゃ話しているんだよ!?」
すごく良いタイミングでゲンが扉から顔を出して、怒声を浴びせてきた。
俺たちはおばば様に軽く頭を下げると、そのまま屋敷を出る。
悪びれもせず、のんびりと屋敷を出てきた俺たちを見て、
「もう!ちんたらしてると、日が暮れちまうぜ!」
ゲンは早朝にも関わらず、そう文句をたれていた。
◇◇
「お兄ちゃ~ん!待ってぇ!!」
俺たちが街を出ようとしたまさにその瞬間、背後からパトラの声が聞こえた。
振り返ると、手に包みを持って必死に走ってくる彼女の姿が目に入った。
俺たちは足を止めて彼女を待つ事にする。
ゲンはなかなか進まない事にイライラしている様子だった。
程なくして彼女は俺たちの元へとやってきたが、懸命に走りすぎたのか、肩で息をして、なかなか言葉が出てこない。
そんな彼女の様子にゲンが痺れを切らした。
「おい!パトラ!こっちは先を急いでいるんだ!要件があるなら早く言えよ!」
パトラは息を荒くしたまま、俺に包みを差し出した。
「これ…お弁当です…」
俺がそれを受け取ると、次にパトラはティナにも包みを差し出した。
どうやら一人一人に作ってきたようだ。
彼女の優しさと几帳面さに、俺は感心していた。
そして最後にゲンにも包みを差し出した。
ゲンは嫌々な素振りでそれを受け取り、
「れ、礼だけは言ってやるよ…ありがとな…パトラ」
と、明らかに照れながら感謝を述べていた。
ようやく息が整ったパトラは俺の方を向き、深々と頭を下げた。
「どうか道中お気をつけて。
それから…ゲンくんをよろしくお願いします」
「ちょっと待てよ!俺が兄ちゃんを送っていくのに、何でそうなるんだよ!?」
パトラは頭を上げて、ゲンを見つめる。
「分かってるわよ!ゲンくんも気をつけてね!
勇者様を送り届けたら、無事に戻ってきてよ!」
「ああ、約束だ」
そうゲンがパトラに約束の握手を求めるように、手を差し出す。
しかしパトラはその手を無視すると、
チュッ!
とゲンの頬にキスをした。
真っ赤になって固まるゲン。
同じく真っ赤になってゲンを見つめるパトラ。
二人の間が暖かな恋の優しさに包まれた。
その様子をちらりと確認し、お互いの顔を笑顔で見合わせた俺とティナは、ゲンを置いて歩き出した。
「おい!待てよ!置いていくなよ!」
背中から金切り声で俺たちに向かって叫ぶゲンの声が聞こえる。
「いってらっしゃ~い!」
そのゲンの背中に向かって、送り出すパトラの声は、愛情に満ちていた。
◇◇
マタ王国は、ベトジアの街から迷いの森を抜けたすぐ先だそうだ。
俺たちが前の日に壊滅させたその森は、まだ火がくすぶっている。
前日まで森を覆い尽くしていた高い木々…正確にはトレントだったわけだが…それらは全てなくなり、視界は拓けていた。
さらに濃い霧も、アルラウネの死とともに晴れわたっている。
そして魔物の気配は一切感じられず、順調に俺たちは先を進んでいた。
そして遠目にマタ王国と思われる建物が見えると、俺はゲンの案内を終えるように指示したのだった。
時間はまだ昼前だ。
「もうお別れなんだな…?」
ガラでもなく、ゲンはしおらしい声で俺たちに問いかけた。
「またいつか会えるわよ!」
ティナが明るく答える。
しかしゲンの表情は曇ったままだ。
この情の深さも彼の魅力の一つと言える。
俺は彼の未来へ力になりたいと思い、腰に着けていた一振りの短剣を彼に差し出した。
「これを…おいらに?」
俺はコクリと頷く。
これの剣は俺がこの世界に召喚された時から身に付けていた物だ。
今はアステリア王国で購入した長剣を中心に使っているため、その短剣を渡すことにためらいはなかった。
「…今度は折るなよ」
「兄ちゃん…ありがとう」
ゲンは先程までの曇った表情を晴れやかにした。
そして真剣な眼差しで俺を見つめる。
「おいらも兄ちゃんみたいな勇者になりてえ。
だから一つ聞かせてくれ」
「…なんだ?」
ゲンは大きく息を吸い込むと
「勇者ってどんな人なんだ?」
俺はその問いに
「…約束を守り通せる人だ」
と答えて、ゲンの頭をなでた。
「ありがとう、兄ちゃん!
じゃあ一つ約束してくれないか?」
「…なんだ?」
「魔王をぶちのめして、このせかいを平和にしてくれ!
約束出来るかい!?」
「…ああ、約束だ」
その約束なら果たす。
なぜなら俺には、魔王を倒した後に訪れる「見せかけの平和」など通過点にすぎないと思っているからだ。
「…ゲンも約束しろ」
「な、なんだよ?俺は魔王とか無理だからな!」
「…ベトジアの街を守れ」
「ああ、そんな事か…
おう!約束してやるよ!街は俺が守る!」
そう宣言すると、ゲンは高々と俺が差し出した剣を掲げた。
「…頑張れ…勇者ゲン」
俺の言葉に一瞬固まるゲン。
俺はその様子を見て、ティナとともにマタ王国へと歩き出した。
「兄ちゃん!負けるなよ!俺も負頑張るからな!」
俺の背中を押す様なゲンの言葉は、力強く、希望に溢れたものだった。
迷いの森を壊滅させた翌朝、俺はゲンの金切り声の罵声を浴びていた。
遅いと言われても、まだ朝日が顔を出してから、1時間とたっていない。
朝が早いおばば様を除いたら、街の中で起きているのは、目の前の少年より他はいないであろう。
しかし、どうやらゲンはおばば様の屋敷の中で、俺が起きてくるのを、深夜のうちから待っていたらしく、何時間も待たせれたイライラが爆発したようだった。
俺はゲンの身勝手な問いかけを無視して、おばば様がこしらえた朝食を、ありがたく頂戴していた。
それでも止まらないゲンの怒りに、ティナが痺れを切らして、
「なんで?って言われても…
愛し合ってたから…
って答えで、お子様のゲンくんには分かるかしら?」
とティナがいらぬ事をゲンに吹き込む。
ゲンは訳が分からないという表情で、
「もういいから、早く出発の支度をしろよな!」
と俺たちを追い込む様に促した。
既に朝食を終えた俺は、
「…準備は出来ている」
と答えた。
単純に準備をするような荷物もないので、起きて朝食を取れば、いつでも出発できる状態なのだ。
「よし、じゃあ行くぞ!」
ゲンはくるりと振り返り、俺たちに「ついてこい!」と言わんばかりに、号令をかけた。
「うん!道案内よろしくね!ゲン!」
とティナが彼の小さな背中に向かって、大きな声でお願いしていた。
と言うのも、これから俺たちはマタ王国まで行くのだが、ゲンがその道の案内役を買って出たのだ。
俺たちは断る理由もないので、その申し入れを受ける事にしたのである。
ゲンはそのまま大股で、意気揚々と屋敷を後にした。
俺とティナはおばば様に向き合った。
おばば様の方から口を開く。
「こたびは本当に良くやって頂いた。
あらためて、この通り感謝申し上げる」
と深々と頭を下げてくる。
それをティナ慌てて制して、おばば様の頭を上げる様に背中から支えた。
「おばば様!やめて下さい!
私たちは勇者として、当たり前の事をしたまでです。
ね?ジェイ」
「…ああ、その通りだ」
それでも恐縮しているおばば様に対して、ティナが続ける。
「むしろ美味しいご飯や寝床まで提供してくれて、こちらが感謝を言わなくちゃと思ってるわ!
ありがとうございました、おばば様!
おかけで愛も深まったし…ね?ジェイ」
俺はティナの悪戯っぽい目配せは無視して、
「…おばば様、ありがとう」
と感謝の気持ちだけを口にした。
「そう言ってもらえると嬉しいのう。
またいつでも来てくだされ。
街の皆が歓迎しますぞ」
「はい!ありがとう、おばば様!」
そこまで会話を交わすと、おばば様は俺たちに一歩近付いて、小声で言った。
「それに…わしは助産も出来るでのう。
その時が来たら、いつでも力になるぞい」
「もう!おばば様ったらぁ!私たちは、まだ…ね?ジェイ」
「カカカッ!隠さんでも良い!昨晩はお主たちの愛で、この屋敷がずっと揺れておったからのう!
わしもじいさんとの…」
「おい!何をぐちゃぐちゃ話しているんだよ!?」
すごく良いタイミングでゲンが扉から顔を出して、怒声を浴びせてきた。
俺たちはおばば様に軽く頭を下げると、そのまま屋敷を出る。
悪びれもせず、のんびりと屋敷を出てきた俺たちを見て、
「もう!ちんたらしてると、日が暮れちまうぜ!」
ゲンは早朝にも関わらず、そう文句をたれていた。
◇◇
「お兄ちゃ~ん!待ってぇ!!」
俺たちが街を出ようとしたまさにその瞬間、背後からパトラの声が聞こえた。
振り返ると、手に包みを持って必死に走ってくる彼女の姿が目に入った。
俺たちは足を止めて彼女を待つ事にする。
ゲンはなかなか進まない事にイライラしている様子だった。
程なくして彼女は俺たちの元へとやってきたが、懸命に走りすぎたのか、肩で息をして、なかなか言葉が出てこない。
そんな彼女の様子にゲンが痺れを切らした。
「おい!パトラ!こっちは先を急いでいるんだ!要件があるなら早く言えよ!」
パトラは息を荒くしたまま、俺に包みを差し出した。
「これ…お弁当です…」
俺がそれを受け取ると、次にパトラはティナにも包みを差し出した。
どうやら一人一人に作ってきたようだ。
彼女の優しさと几帳面さに、俺は感心していた。
そして最後にゲンにも包みを差し出した。
ゲンは嫌々な素振りでそれを受け取り、
「れ、礼だけは言ってやるよ…ありがとな…パトラ」
と、明らかに照れながら感謝を述べていた。
ようやく息が整ったパトラは俺の方を向き、深々と頭を下げた。
「どうか道中お気をつけて。
それから…ゲンくんをよろしくお願いします」
「ちょっと待てよ!俺が兄ちゃんを送っていくのに、何でそうなるんだよ!?」
パトラは頭を上げて、ゲンを見つめる。
「分かってるわよ!ゲンくんも気をつけてね!
勇者様を送り届けたら、無事に戻ってきてよ!」
「ああ、約束だ」
そうゲンがパトラに約束の握手を求めるように、手を差し出す。
しかしパトラはその手を無視すると、
チュッ!
とゲンの頬にキスをした。
真っ赤になって固まるゲン。
同じく真っ赤になってゲンを見つめるパトラ。
二人の間が暖かな恋の優しさに包まれた。
その様子をちらりと確認し、お互いの顔を笑顔で見合わせた俺とティナは、ゲンを置いて歩き出した。
「おい!待てよ!置いていくなよ!」
背中から金切り声で俺たちに向かって叫ぶゲンの声が聞こえる。
「いってらっしゃ~い!」
そのゲンの背中に向かって、送り出すパトラの声は、愛情に満ちていた。
◇◇
マタ王国は、ベトジアの街から迷いの森を抜けたすぐ先だそうだ。
俺たちが前の日に壊滅させたその森は、まだ火がくすぶっている。
前日まで森を覆い尽くしていた高い木々…正確にはトレントだったわけだが…それらは全てなくなり、視界は拓けていた。
さらに濃い霧も、アルラウネの死とともに晴れわたっている。
そして魔物の気配は一切感じられず、順調に俺たちは先を進んでいた。
そして遠目にマタ王国と思われる建物が見えると、俺はゲンの案内を終えるように指示したのだった。
時間はまだ昼前だ。
「もうお別れなんだな…?」
ガラでもなく、ゲンはしおらしい声で俺たちに問いかけた。
「またいつか会えるわよ!」
ティナが明るく答える。
しかしゲンの表情は曇ったままだ。
この情の深さも彼の魅力の一つと言える。
俺は彼の未来へ力になりたいと思い、腰に着けていた一振りの短剣を彼に差し出した。
「これを…おいらに?」
俺はコクリと頷く。
これの剣は俺がこの世界に召喚された時から身に付けていた物だ。
今はアステリア王国で購入した長剣を中心に使っているため、その短剣を渡すことにためらいはなかった。
「…今度は折るなよ」
「兄ちゃん…ありがとう」
ゲンは先程までの曇った表情を晴れやかにした。
そして真剣な眼差しで俺を見つめる。
「おいらも兄ちゃんみたいな勇者になりてえ。
だから一つ聞かせてくれ」
「…なんだ?」
ゲンは大きく息を吸い込むと
「勇者ってどんな人なんだ?」
俺はその問いに
「…約束を守り通せる人だ」
と答えて、ゲンの頭をなでた。
「ありがとう、兄ちゃん!
じゃあ一つ約束してくれないか?」
「…なんだ?」
「魔王をぶちのめして、このせかいを平和にしてくれ!
約束出来るかい!?」
「…ああ、約束だ」
その約束なら果たす。
なぜなら俺には、魔王を倒した後に訪れる「見せかけの平和」など通過点にすぎないと思っているからだ。
「…ゲンも約束しろ」
「な、なんだよ?俺は魔王とか無理だからな!」
「…ベトジアの街を守れ」
「ああ、そんな事か…
おう!約束してやるよ!街は俺が守る!」
そう宣言すると、ゲンは高々と俺が差し出した剣を掲げた。
「…頑張れ…勇者ゲン」
俺の言葉に一瞬固まるゲン。
俺はその様子を見て、ティナとともにマタ王国へと歩き出した。
「兄ちゃん!負けるなよ!俺も負頑張るからな!」
俺の背中を押す様なゲンの言葉は、力強く、希望に溢れたものだった。
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