出遅れ勇者の無双蹂躙~世界滅亡寸前からの逆襲~

友理潤

文字の大きさ
上 下
56 / 79
第3章

迷いの森救出戦7

しおりを挟む
「…ゲン!行くな!」

俺の必死な呼びとめにも、今の彼には全くの無駄であった。

「うおぉぉぉぉ!!」

勇ましい雄たけびをあげて、猛牛のごとく無謀な突進をするゲン。

「ゲンくん!来ちゃダメ!!」

パトラもゲンの命がけの突進を必死に引き留めようとしているが、彼がそれに耳を貸す事はなかった。

「キヒヒヒ!新たなおもちゃくん!ようこそ!」

ピュン!

ゲンの横から一本のツルがムチのように伸びてくる。

パァン!

それが綺麗にゲンの右頬を直撃して、張り手のような音を周囲に響かせた。

「ぐはっ!」

ゲンはよろける。

「まだよ、キヒヒヒ!」

パァン!

今度は左頬をツルではたいた。

ゲンの顔は両頬が真っ赤に腫れあがって、膨らんだフグのようだ。

「負けるかぁ!」

それでも突進を諦めないゲン。

パァン!
パァン!
パァン!
パァン!
パァン!
パァン!

何度も何度も続くアルラウネの執拗な攻撃。
それでもゲンはめげる事はなく、一歩また一歩とパトラとの間をつめていった。

その様子を最初は楽しそうに見ていたアルラウネであったが、徐々に気味悪いものを見る様な冷たいものに変わっている。

ドゴン!

ひときわ太いツルが、ゲンのみぞおちを直撃した。

「…!!!?」

すでに叫ぶ声も出ない。
喉がつぶされているのかもしれない。

さすがのゲンもその場にうずくまってしまった。

「ゲン!!!」
「ゲンくん!!!」

いつの間にか合流していたティナとパトラがゲンに呼びかける。

その様子を見ていた俺は、ゲンを助けようとその場から動こうとした。


しかし


ゲンは俺を見て


首を振った。


こっちへ来るな…
これは俺が果たすべき『約束』なんだ…

と…

キリっとアルラウネを睨みつけると、再び立ちあがった。

「ゲンくん…もうやめて…」

パトラは泣いて彼に懇願していた。

「こ…今度は…おいらが…約束を守る番だから…」

ズリッ…ズリッ…

少しずつ、ゆっくりと近付いていくゲン。
とっくに身体の傷は、彼が前に動く為の限界は超えているに違いない。
しかし彼の崇高や精神が肉体を凌駕していた。

それを忌々しい目で見ていたアルラウネは
「いいわ。私も約束してあげる。私の事を少しでも傷つける事が出来たら、パトラを解放してあげるわ」

ゲンはアルラウネを睨みつける。

「約束…だからな…」

「あなたも簡単に死んじゃ嫌よ~」


その後もアルラウネのツルによる攻撃は苛烈を極めた。
それでも負けないゲン。

「ジェイ!!何とかならないの!?」

ティナは涙を流して俺を問い詰めた。

「…ならない」

俺は絞り出すように答える。
俺の噛み締めた唇から血が滲む。
何も出来ない自分が歯がゆくて仕方なかった。
ティナもそんな俺の様子を見て、祈るようにその場に座り込んでいた。

しかしゲンは負けなかった。
そしてとうとうアルラウネの目の前までやってきた。

アルラウネはパトラをツルに巻きつけたまま、ゲンの目の前に彼女を差し出した。

「よく頑張ったわぁ。さあご褒美よ。その手にしたナイフで切りつけてご覧なさい」

ゲンは震える手でナイフを両手に持つと、ツルに向かって振り下ろした。


「うおおおお!!」

ゲンの渾身の一撃…

だが…


カキーン…

乾いた音とともに弾かれてしまった。

愕然とするパトラ…
心の底から嬉しそうなアルラウネ…

「キヒヒヒヒ!ざぁんねぇん!!私の身体は鋼鉄より硬いのよぉ!!キヒヒヒヒ!」

この場にいる誰もが諦めていた。
もうパトラもゲンも助からない…
救出作戦は失敗したのだと…

ただ一人を除いて。


「うおおおお!!」

カキーン!
カキーン!

ゲンは何度も何度もナイフを振り下ろす。
その度にナイフを持った彼の小さな体ごと大きく弾かれていた。

ゲンは叫ぶ。

「諦めていい約束なんざないんだ!!こんな事で俺は…俺は約束もパトラも諦めるもんか!!」

その声はその場の空気だけではなく、俺たちの心も震わせた。
アルラウネだけはその様子を冷ややかに見ている。

そして…

とうとう…

本当の絶望の時が訪れた。

パキーン…

ナイフが根本から折れた瞬間であった。

スローモーションに世界が動く。
ゲンが手にしたナイフの刀身は、その根本から綺麗な弧を描いて飛んでいった。

「そんな…」

誰からともない呟きがその場の静寂の中に虚しく響いた。

「残念ね…ぼうや。あなたの約束、守れそうにないわね…キヒヒヒヒ!」

しかし…

ゲンは諦めていなかった。

いや、既に気を失っているのかも知れない。
彼は目に光を宿したまま、刀身のないナイフを振り上げた。

「ええい!鬱陶しい!!いつまで続けるのか!!?」

「約束…守るまで…」

アルラウネの顔が激怒に変わった。
俺は飛び出す。
彼女の攻撃は予想外に速い。
俺がゲンの元にたどり着く前に彼の体を貫くだろう。

もうダメだ…

そう思った瞬間…

ピカァァ!!!

ゲンの手にしたナイフから光が放たれた。

「な、なんなのよ!?」

アルラウネは突然の事にビックリして、攻撃を止めた。

「…あの光は…まさか…バカな…」

アルラウネよりも俺の方が驚愕に震える。
あの光は…間違いない。

聖女の光だ。

ゲンはナイフを両手で振り上げる。
ないはずの刀身が白い光でかたどられていた。

一気に振り下ろされるナイフ。

スパッ!!

パトラに巻きついたツルが綺麗にバラバラになる。

勢いで倒れてきた彼女をゲンがしっかりと抱きとめた。

「ゲンくん!!」

あらためて泣きつくパトラ。
ゲンは立ったまま、気を失っていた。


その様子を面白くない表情で見ていたアルラウネが吐き捨てる。

「ええい!忌々しい!」

ビュン!

アルラウネのツルが二人を切り裂かんと襲いかかった。

「キャア!」

パトラの短い悲鳴。

しかし…

バシッ!!

ツルは彼女たちに届く事なく、俺の手に収まった。

アルラウネが赫怒する。

「き、きさまぁ!!」

俺は殺気を込めてアルラウネを睨みつける。

「…約束は守るものだ」

グシャッ!!

そして掴んだツルをそのまま握りつぶした。

「…少年に勝負で負けた気分はどうだ?」

「ぐぬぬぅ!殺してやる!殺してやるわぁ!キヒヒヒヒ!」

俺はニタリと笑う。

「…それはこっちのセリフだ、クズめ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...