出遅れ勇者の無双蹂躙~世界滅亡寸前からの逆襲~

友理潤

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第3章

迷いの森救出戦2

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ようやく空が白み始めた頃。

俺は目を覚まし、外に出た。
冷んやりした空気が心地よい。
寝静まった街には静けさに包まれている。

こうして朝早く起床して一人で散歩するのが、俺の日課となっていた。

ふと目の先に空気を震わす音が聞こえる。
俺は気になってそちらの方へ足を向けた。


「シュッ!シュッ!」

そこには一心不乱に剣を振るティナの姿があった。
わずかに顔を覗かせた朝日を浴びて、その汗がキラキラと輝いている。

こちらの世界では『女神のようだ』と呼称されるのは、今のティナの神々しい姿のことを指すのだろう。

俺の知っている女神は、新鮮な空気に溶け込むような美しいティナの姿とはかけ離れた、もっとドス黒いものなのにな…
俺は思わず苦笑が漏れる。

俺は彼女の稽古の邪魔になってはマズイと思い、そっとその場を去ろうと背を向けた。

「ジェイ!」

歩き始めたその時、ティナは俺に気付いたのか、背後から声をかけてきた。

俺はティナの方を向き、謝った。

「…すまん、邪魔したな」

ティナは汗に輝く笑顔を俺に向けて、
「ううん、ちょうど稽古を終えて屋敷に戻ろうとしていたところよ」
と手を振った。

俺の元へ駆け寄り、横に並ぶティナ。

「どうだった?私の素振りは?」

「…どうとは?」

俺が聞き返すと、ティナはぷくーっと頬を膨らませ
「剣の達人の勇者として、私の剣はどうなのか?って聞いてるの!」
と理解力に乏しい俺を責めるように問いかけた。

俺は剣の達人でもなんでもない。
誰から教わった事もなく、いわゆる我流、言い換えれば素人だ。
ただひたすら相手を殺す為に、何回も何回も繰り返して身に付けた、効率だけを求めたものである。
そんな俺が他人の剣の指南をするなんて、恐れ多い。

「もぅ!なんか言ってよ!」

俺が答えに窮していると、ティナはせかすように詰めてくる。
仕方ないので、俺は何も考えずに自分が感じた事を口にしようと、無心にかえった。

そして俺が自然と口にした事は…


「…美しかった」

という、なんとも恥ずかしい一言だった。
ティナは予想外の俺の一言に大きく瞳を見開き、俺の横顔を穴があくほど見つめている。

しばらくすると、一気に頬を紅潮させて
「な、なに朝から恥ずかしい事言ってくれるのよ!?」
と文句をつけてきた。

しかしそれも束の間、ガシっと俺の左腕とティナの右腕を絡ませると、そのまま寄りかかってきた。
彼女の胸の柔らかな感触と汗の冷たい感触が俺の心をくすぐる。
もちろん表情には出さないが…

「もう…不意打ちは卑怯なんだぞ」

と嬉しそうな顔をしながら、ティナはボソリとつぶやいた。

◇◇
屋敷に戻った俺たちを待ち受けていた一人の少年。

「やい!勝手に出発しちゃったかと思っただろ!二人で朝っぱらから何やってるんだよ!」

俺たちに指差して文句をつけてきた少年は、今日『迷いの森』へ同行する少年ゲンであった。

「何って…激しい運動よ…ね?ジェイ」

卑猥な意味にも捉えられかねない微妙な言い回しに、俺は言葉につまる。
しかしゲンには何の事か全く伝わっていないようで、じっとこちらを睨んだままだ。

その様子にティナはガッカリして
「もう…これだからお子様は…」
と漏らすと、俺を連れてそのままおばば様の屋敷へと入っていった。


俺たちは朝食を手早く済ませると、ゲンも含め今回のパトラ救出戦の作戦を練る事にする。

まずは、おばば様から『迷いの森』の事を聞く。
彼女いわく、元は魔物が棲む森ではなく、森の大きさもこじんまりしたものだったそうだ。
魔王軍による侵攻が本格化した数年前から、森に魔物が出没するようになり、人間が足を踏み入れる事がなくなったとのことである。
そしてなぜか森の大きさが大きくなっていき、今では街のすぐ手前までその範囲が広がってきたそうだ。
『迷いの森』の由来は、高い木に囲われている為、森の中が暗く方向が分かりづらくなる為につけられたとのことだが、魔物が棲みついてからは進めども進めども森を抜ける事が出来ないようで、気付けば街の前まで戻されてしまうという不思議な現象が起こるとのことだ。

次に今回の魔物のボスであろうアルラウネについて聞く。
その点については、全く知らないとのことだ。
目にした人間はおらず、トレントウォーリアーの独り言がなければ、彼女すらその存在を知る事はなかっただろうとのことである。

不思議な森の事と正体不明な魔物…作戦を立てるにはあまりに乏しい情報しかない。
そうなるとすべき事は一つ。
正面突破だ。
ティナは俺の表情でそれを感じたようで、
「じゃあ、早速行きましょうか?パトラちゃんを助けに」
とパンと自分の膝を叩いて、立ち上がった。

俺はこの場で言っておかねばならない事を最後に告げる事にした。
口下手な俺でも言えそうな事を…

俺はゲンの方に向き直り、口を開いた。

「…ゲン、パトラは救ってやる」

俺の突然の一言にゲンは少し面食らった様子だ。

「お、おう。約束だからな!」

俺はゲンの言葉に頷くと続けた。

「…お前も約束しろ」

「な、なんだよ…?」

俺はじっとゲンを見つめて言った。
ゲンも俺を見つめ返す。その瞳はこれから待ち受ける困難に負けるものかという決意に溢れている。

「…パトラと生きて街に戻れ」

「おう!男の約束だ!」

ゲンはそう言うと拳を俺の前に出してきた。
俺も拳を固めると、ゲンの拳に対して「コツン」と軽く当てた。


「…行くぞ」

街の中からでも見える不気味な森に向けて、俺たちは歩きだした。

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