出遅れ勇者の無双蹂躙~世界滅亡寸前からの逆襲~

友理潤

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第3章

ベトジア掃討戦2

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コウヤの里からベトジアの街までは、ティナ曰く約2日の道のりだそうだ。

幸い魔物にも出くわさずに順調に道なき道を進んでいった。
そして夕暮れが近付いてきた所で、ちょっとした草むらにテントを張る。

俺たちは一つしかないテントで一緒に寝る事にした。
サヤとも同じように過ごしていたが、彼女の場合は恐縮して俺から少し離れて寝ていたので何の問題もなく快適に過ごせた。
しかし、ティナは遠慮なく俺の腕に彼女の大きな胸をおしつけて寝そべってくる。

「ねえ…ジェイ…これからは毎晩一緒だね」

と上目使いで覗き込んでくると、そのまま俺に覆いかぶさった。

「サヤちゃんの事…今は忘れて…ね…」

ティナは耳元で甘い吐息を吹きかけてきて、そのまま二人の夜は始まった。

しかし、流石の彼女も今日は歩き疲れた様で、この日の夜は『1回戦』だけで寝入ってしまったので、俺は大いに安心して深い眠りについたのだった。
明日からはさらに剣の稽古を増やして、もっと疲れさせようと、俺は密かに企んでいた。

◇◇

翌日、半日ほど歩いた所でベトジアの街に到着した。

街の門番が俺たちを見てひどく驚いている。

「これはビックリだ!まさか魔物が外をうろついているご時世に旅人がくるなんて!」

確かに道中、時折魔物が出現したが、レベルは軒並み低く俺の相手ではなかった。
それでも平均すれば60程度はあるかと思われたので、普通の人間であれば、即座に殺されてしまうような凶悪な相手ではある。
俺は適度に弱らせて、ティナが止めを差すという方法をとり、ティナのレベルアップを手伝う事にしていたのである。
そのおかげでティナはレベル30程度であったのが、今では50程度まで上がっている。
それでも里を襲ってきたメディーナが92であった事を考えると、魔王軍の軍団長レベルと対峙するにはまだまだ足りないと感じていた。

ティナが門番に向かってズイと顔を近づけた。
門番の男は美女の急接近にまごついている。

ティナは悪戯な笑顔を見せ、
「実は私たちは『勇者』のパーティーなの!こちらにおあす方こそ、世界の希望!勇者のジェイです!」
と門番に誇らしく胸を張った。

ティナの言葉に開いた口が塞がらない様子の門番。
しばしの沈黙の後、突然目が回り出し
「た、たいへんだぁ~!!」
と彼は叫ぶように驚くとそのまま街の中へと消えていってしまった。

街の門はも抜けの殻になる…無防備もいいところだ。

「…入っていいのか?」

俺は溜め息をついて、ティナを見た。

「あはは!もともとこの街は旅人にも部外者にも寛容な街なの。出入りは自由よ」

ティナはウインクをして俺に笑顔で答えた。

街の中は穏やかで、あちらこちらに畑が点在している。
道にはニワトリや牛などの家畜が道を歩き、大きな木に巣を作った小鳥たちが歌うように羽ばたいている。
人々の住む家は木造の平屋作りで、のどかな風景が広がっていた。

「この街は農耕で自給自足をしている街なの。私はコウヤの里で採れた魚を塩漬けにしたものを持ち寄って、お野菜とかこの街で作られた服とかと交換していたのよ」

とティナは歩きながら丁寧に教えてくれた。
街の中には八百屋や肉屋などの生活に欠かせない物を揃えている商店は存在しているようだが、武器や防具を置く店はなさそうだった。

「…地図はどこにあるんだ?」

「えーと、町長さんなら持っているんじゃないかな?」

「…では町長に会おう」

俺の提案に笑顔で頷いたティナは、ひときわ大きな木造平屋の屋敷の方へと足を向けた。

◇◇

街のペースに合わせるようにのんびりと街中を歩いた俺たちは、町長の屋敷の前までやってきた。
そこには直立不動の門番の姿がある。
彼は緊張の面持ちで俺たちを迎えた。

「よ、ようこそ!ベトジアの街へ!ちょ、町長様がお待ちです!どうぞ!」

門番は俺たちを屋敷の中へと案内してくれた。

屋敷は入ってすぐに応接間があるという、変わった作りになっていた。
町長とおぼしき老女が大きな木の椅子に腰かけている。

「これはこれは…あなたがトラジの言う勇者様ですかな?」

いきなり「勇者が来た」と他人から言われても、早々信じられる事ではない。
俺の事を見極めるように、老女は座ったまま、俺の目を覗き込むようにして問いかけた。

「…そうだ。名前はジェイ」

俺は素直に答える。しかしいつまで経っても自分の事を「勇者」と名乗ったり、認めるような返事をしたりするのには慣れない。
俺は少しばつが悪そうな顔だったに違いない。
しかし隣のティナは全く違っていた。

「おばば様!そうなんです!この人こそが『勇者』様なんです!!」

ふんす!と胸を張るティナ。
その様子を見た老女が
「おお!よく見れば、そなたはティナか!!よう、生きておった…最近は顔出さないから、てっきり…」

「ちょっと!おばば様!勝手に私を殺さないでください!魔物が出てきたので、行く事が出来なかったんですよ!」

「そうか、そうか…よう大きくなったのぅ。特に胸と尻が」

「もう!おばば様のエッチ!そんな事より頼みがあるの!」

完全に空気と化した俺は、おばば様と呼ばれた町長とティナのやりとりを、ただ傍観していた。

町長はティナを我が孫を見るかのように慈しんで
「おうおう、ティナの頼みであれば、何でも言うてみい」
と頷いている。

「おばば様、世界地図はあるかしら?そしてこのベトジアの街がどこにあるのか教えて欲しいの」

「ふーむ、世界地図のう…残念じゃが、この街にはないのじゃよ…」

「そっかぁ…残念…」

明らかに落胆する二人。

すると町長はティナを励ますように
「しかし、マタの国にならあるのではないかのう!?」
と提案した。

「マタの国?」

「そうじゃ、街の外にある『迷いの森』を抜けた先の国じゃ」

そう町長が言った時だった。

バタバタと外で音がした。

「ちょ、町長さまぁ!!!たいへんだぁ!!」

トラジと呼ばれた門番の青年が青い顔をして部屋に入ってきた。

「なんじゃ!?トラジ!騒々しい!」

ティナとの時間を邪魔された事に腹を立てたのか、ひどく立腹な町長。
そんな町長を無視するように、トラジは唾を飛ばすように続けた。

「て、て、敵襲です!!」


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