出遅れ勇者の無双蹂躙~世界滅亡寸前からの逆襲~

友理潤

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第3章

ベトジア掃討戦1

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「ところでジェイ、次の目的地はどこなの?」

コウヤの里を出てすぐしたところで、ティナが俺に問いかける。
俺は答えに窮した。この場所がどこかも分からず、どこにサヤがいるかも分からない。
そんな状況なので、取りあえず海岸線沿いにでも進もう、どこかの浜にサヤがいるのではないか、くらいにしか考えていた。

俺が無言な様子を見て、
「呆れたわ…あんなに戦いは強いのに、無計画なのね…」
とティナは首を振っている。

「…地図はあるか?」

俺はティナが場所の手掛かりを知っているかも知れないと思い、聞く。
しかしあっさりと俺の期待は裏切られる。

「持ってないわよ、コウヤの里が世界のどこにあるかも知らないわ」

「…役立たず」

おれのボソッとしたつぶやきに、むーっとして頬をふくらませるティナ。

「でも近くの街の場所なら分かるわよ!
最近は魔物が出現するから行けなかったけど、少し前まではよくお買い物に行っていたから」

「…案内してくれ、助かるよ」

そう俺が感謝するとティナが前に出てきて指を立てた。

「その前に!ジェイの次の目的を聞かせて!」

俺は何と答えようか迷ったが、
「…サヤに会う」
と端的な一言しか出てこなかった。
そしてその一言はティナの俺への疑惑を確信に変える決定的なものだったようだ。

「ほーら!やっぱり普通の奴隷と主人のカンケイじゃないんだわ!汚らわしい!」

ティナは自分の鼻をつまんで手を振っている。

「…誤解だ」

「何が誤解なのよ!?本当はどんなカンケイなのか教えなさいよ!」

俺はまた答えに窮していた。
自分でもなぜサヤに会いたいのか、全く分からないのだ。
ただそうしなければならない焦燥感に駆られている事は確かであった。

なかなか話そうとしない俺を見て、イライラしてきたティナは、水晶を俺にヒョイっと投げた。

「もう!ジェイは口下手なんだから!もう聞くのは面倒だから、その水晶に映して!あなたがこの世界で体験してきた事を」

「…どうすればいい?」

「その水晶を両手で握りしめて、単に過去の事を思い出せばいいだけよ!ほら!早く!」

俺はティナに命じられるがままに水晶を握りしめた。
そしてこの世界に召喚されてからの事を思い出していた。

召喚されてすぐにゴブリンの一団を壊滅させた事。
サヤとの出会い、そして初めて共にした二人の夜。
ムクロとの一戦で取り戻した王国兵の尊厳。
サヤと二人での出立。
ポートの街での事件。
サヤの愛に応えた夜。
クラーケンとの激戦とサヤとの別れ…

自分でも思い返すと、戦いかサヤか、俺のこの世界の経験はこの二つしかない事に、少し恥ずかしささえ感じた。

俺が水晶に投影した記憶を食い入るようにして見るティナ。
俺の短いこちらの世界での出来事にさぞかし呆れている事だろう…そんな風に俺自身卑下していた。
しかし彼女の反応を俺の予想とは大きく異なるものだった。

なんとティナは瞳いっぱいに涙を溜めて
「ぐすっ…サヤちゃんは可愛くていい子ね。私も彼女と早く合流したいわ」
と感動しているようだった。
どこにそんな泣く要素があったのか、さっぱり分からないが、どうやら彼女の涙腺を刺激する何かがあったようだ。
俺はこれ以上道草を食っている訳にもいかないので、先を促す事にした。


「…では、街まで案内してくれ」

「分かったわ!私に任せて!!サヤちゃんは私が見つけてみせる!!」

とティナは拳を固めて、高らかと宣言した。

そしてズンズンと進み出した。
何はともあれ道に迷わずに進めそうな事に、俺は安堵した。

サヤ…待ってろよ。必ず見つけてやる。

俺はあらためて心の中で誓った。

…と先を行くティナが急に足を止めた。
そしてズンズンと反転して俺の方へ近づいてきた。

「一つ言っておきますけど、私はサヤちゃんの可愛さは認める。でもジェイは私のものだからね!」

チュ!

俺に口づけをしたティナの顔は、悪戯好きな少女そのものであった。

◇◇
「アルラウネ様、どうやら勇者が近くに現れたようです」

キノコの形をした魔物が、大きな花弁の上に上半身が若い女性の姿をしたアルラウネと呼ばれた魔物に報告していた。

「ご苦労様、マタンゴクイーンちゃん。ちなみにどちらに向かっているか分かるかしら?」

アルラウネはマタンゴクイーンと呼ばれたキノコの魔物に問いかける。

「どうやらコウヤの里からベトジアの街に向かっているようです」

「そう…それは素敵な情報だわ。まずは彼の実力を図りたいわね。トレントウォーリアーくんに木人種軍を率いて、ベトジアを襲わせなさい」

「はい!アルラウネ様!」

そう返事をして立ち去ろうとするマタンゴクイーンをアルラウネが呼びとめる。

「そうそう、トレントウォーリアーくんに伝えてあげて。人は殺しても構わないけど、畑は荒らしちゃダメよってね。
私たちと同じ植物ちゃんは大切にね」

「かしこまりました」

そう短く返事をすると、マタンゴクイーンはアルラウネの元を去った。

「さぁて、楽しみになってきたわ。まずは私のこの『迷いの森』まで丁重に迎えてあげなくちゃ。忙しくなるわぁ」

魔王直属第17軍団、植物族軍団の軍団長アルラウネは心の底から楽しむ様に笑っていた。


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