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第2章
里からの旅立ち
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「ティナ!」
里の人々がティナに気付くと、一斉に彼女の名を口にした。
「みんな!会いたかったぁ!うぅ…」
その場で泣き出すティナ。
先程までの妖艶な大人の女とは違って、今の彼女は俺が水晶で見た少女の姿そのものであった。
そんな彼女の周りに人々が集まる。
そして皆彼女を励ました。
「お前さんの稽古、毎日見ておったぞ。よく頑張ったのぅ」
と彼女の剣術の師匠の老人。
「えへへ…お師匠様に誉められちゃった。
でも、まだまだお父さんや師匠には遠く及ばないから、もっと素振りしなくちゃ」
「おい!ティナ!お前はいくつになっても泣き虫だな!もう泣くなよ!」
と少年の姿のままの幼馴染み。
「ふふ、あなたはいくつになっても小さいままね」
「私の可愛いティナ。髪を整えてあげるから来なさい」
と優しい彼女の母。
「お母さん、ティナはもう自分で髪をとかす事が出来ます。安心して下さい」
「ティナ。里の誇りを忘れずによく頑張った。お父さんもお前とメディーナの戦いを見ていたぞ」
「あはは、恥ずかしいところを見せちゃったわね。私はもっと強くならなきゃ。お父さんみたいに…」
彼女と里の人々との触れあいを、しばらく俺は静かに見守っていた。
なぜならこれが『最後』になるのだから…
そんな俺の様子に気づいたロキが、ティナにさとすように告げる。
「ティナ…残念だがそろそろ時間だ」
「え…そんな…どういう事?」
「お父さんたちはもうこの世から去らなくてはならない」
父の告白に悲痛な面持ちで首を横に振るティナ。
「いや!私も連れていって!!」
そんな彼女の懇願にロキは冷たく突き放した。
「ダメだ。お前はこの里の希望だ。
この里の人々の想いを背負って、これからも誇り高く生きていかねばならない。分かるね?」
彼女は涙に濡れたままうつむく。
そんな彼女に優しく、慈愛に満ちた声でロキは励ます。
「ティナ…お前も旅立たねばならない時を迎えたのだよ。
私たちがそうする様にね。
でも大丈夫。私たちが常にお前を今までの様に見守っているから…
それにお前はもう一人ではないだろう?」
ちらりとロキは俺を見た。
俺はここで観念した。この後に起こるであろう事を…
その俺の様子に安心した様に笑顔を見せるロキ。
深い眠りにあったティナを起こして、ここに来させたのはロキだったのかも知れない、そう俺には思えた。
ロキは俺に向かって告げた。
自分たちの最期の時を…
「勇者様…では始めて下さい」
俺は静かに頷いた。
ティナは諦めた様に、その場に座り込んでいる。
そして俺は魔法を唱える。
「聖なる女神よ、我の願いを叶えたまえ!
このさまよえる魂を対価とし、死せる肉体に新たな生を与えん事を!『レザレクション』!」
この魔法は肉体が死んだ魂を対価として、別の肉体を甦らせる魔法だ。
ただし対価となる魂の『許し』がないと成立しない為に、その成功はまれな魔法であった。
次々と姿が消えていく里の人々。
「ティナ!基本を忘れてはならぬぞ!」
「ティナ!お前はおっちょこちょいだから、失敗するするなよ!」
それを涙で見送るティナ。
そして彼女の母親の番が来た。
「ああティナ…
朝ご飯はしっかり食べられるかしら?
髪の毛だって少しは女の子らしく整えられるかしら?
出来ればあなたの幸せをこの目で見たかった…
こんなお母さんを許してくれるかしら…?」
「お母さん!私は…私は大丈夫だから。
きっと幸せになってみせるから!
だから安心して…」
「ティナ…私の娘で生まれてきてくれて、ありがとう…安心なんて出来ないけど、私はあなたを信じてる…だから…さようなら」
「おかあさぁん!」
笑顔のまま消えるティナの母親。
そして最後はティナの父親…ロキの番だ。
「勇者ジェイ様…どうか娘をよろしくお願いします」
ロキはティナではなく、最期の言葉を俺に向けた。
俺は無言でロキを見つめた。
そこに言葉は必要なかった。
「ありがとうございました。勇者様とティナに栄光あれ!」
そう叫ぶとロキもその姿を消していった。
姿を消した魂たちは流星の様に大木に向かって落ちていき、吸い込まれていく。
その姿は幻想的で、俺は二度と忘れる事はないと感じていた。
無論、それは横にたたずみ、その様子を覚悟を決めた表情で見つめるティナも同じだったに違いない。
そして全ての魂が大木に吸い込まれた時、遠い海面から太陽が顔を出しはじめていた。
「これから始まるのね…この里も…私も…」
そんな風にティナは誰に当てる訳でもなく呟いた。
俺はそんな彼女に背を向ける。
そして彼女に対して、
「…行くぞ」
と促した。
「え…?それって…」
彼女の驚く様子が背中から伝わる。
「…二度は言わない。ついてくるなら早く来い」
タタッ!
ティナは駆け足で俺を追い抜き、目の前に立ちはだかった。
そしてその場で綺麗な土下座をして、
「勇者様。戦士の末裔として恥ずかしくない働きをいたします。
どうぞこれからよろしくお願いします」
と深々と頭を下げた。
俺はそんな彼女をちらりと見ると、それに答える事なく彼女の横を通り過ぎた。
それは「いいからついて来い」という無言の意思表示であった。
タタッ!
ティナは再び俺に駆け寄ると、今度は後ろから抱きついてきた。
「…ちょっ…お前!」
「ふふ、『娘をよろしく』ってお父さんに言われてたでしょ!
どういう意味かは分かってるわよね?」
「…知らん」
「あはは!も~、照れ屋さんなんだから!」
こうして俺は新たな仲間とともに里を後にした。
俺とティナは最後に里の方を振り返る。
何かに気づくティナ。
「ジェイ、あれって…」
ティナが驚いた様に声を出し、その瞳に拭ったはずの涙をいっぱいに溜めた。
「…里の命だ」
そこにはあの大木から出た小さな小さな芽が、朝日に照らされ、この里とティナの行く末を祝福しているかの様に輝いていた。
ティナが溜めた涙を拭うと、大声で叫んだ。
「私頑張る~!!
だからみんなも頑張って大きくなるんだぞ~~!!!」
その横顔は勇者につかえる戦士の顔として相応しい、決意と情熱に燃えていた。
第二章…完
里の人々がティナに気付くと、一斉に彼女の名を口にした。
「みんな!会いたかったぁ!うぅ…」
その場で泣き出すティナ。
先程までの妖艶な大人の女とは違って、今の彼女は俺が水晶で見た少女の姿そのものであった。
そんな彼女の周りに人々が集まる。
そして皆彼女を励ました。
「お前さんの稽古、毎日見ておったぞ。よく頑張ったのぅ」
と彼女の剣術の師匠の老人。
「えへへ…お師匠様に誉められちゃった。
でも、まだまだお父さんや師匠には遠く及ばないから、もっと素振りしなくちゃ」
「おい!ティナ!お前はいくつになっても泣き虫だな!もう泣くなよ!」
と少年の姿のままの幼馴染み。
「ふふ、あなたはいくつになっても小さいままね」
「私の可愛いティナ。髪を整えてあげるから来なさい」
と優しい彼女の母。
「お母さん、ティナはもう自分で髪をとかす事が出来ます。安心して下さい」
「ティナ。里の誇りを忘れずによく頑張った。お父さんもお前とメディーナの戦いを見ていたぞ」
「あはは、恥ずかしいところを見せちゃったわね。私はもっと強くならなきゃ。お父さんみたいに…」
彼女と里の人々との触れあいを、しばらく俺は静かに見守っていた。
なぜならこれが『最後』になるのだから…
そんな俺の様子に気づいたロキが、ティナにさとすように告げる。
「ティナ…残念だがそろそろ時間だ」
「え…そんな…どういう事?」
「お父さんたちはもうこの世から去らなくてはならない」
父の告白に悲痛な面持ちで首を横に振るティナ。
「いや!私も連れていって!!」
そんな彼女の懇願にロキは冷たく突き放した。
「ダメだ。お前はこの里の希望だ。
この里の人々の想いを背負って、これからも誇り高く生きていかねばならない。分かるね?」
彼女は涙に濡れたままうつむく。
そんな彼女に優しく、慈愛に満ちた声でロキは励ます。
「ティナ…お前も旅立たねばならない時を迎えたのだよ。
私たちがそうする様にね。
でも大丈夫。私たちが常にお前を今までの様に見守っているから…
それにお前はもう一人ではないだろう?」
ちらりとロキは俺を見た。
俺はここで観念した。この後に起こるであろう事を…
その俺の様子に安心した様に笑顔を見せるロキ。
深い眠りにあったティナを起こして、ここに来させたのはロキだったのかも知れない、そう俺には思えた。
ロキは俺に向かって告げた。
自分たちの最期の時を…
「勇者様…では始めて下さい」
俺は静かに頷いた。
ティナは諦めた様に、その場に座り込んでいる。
そして俺は魔法を唱える。
「聖なる女神よ、我の願いを叶えたまえ!
このさまよえる魂を対価とし、死せる肉体に新たな生を与えん事を!『レザレクション』!」
この魔法は肉体が死んだ魂を対価として、別の肉体を甦らせる魔法だ。
ただし対価となる魂の『許し』がないと成立しない為に、その成功はまれな魔法であった。
次々と姿が消えていく里の人々。
「ティナ!基本を忘れてはならぬぞ!」
「ティナ!お前はおっちょこちょいだから、失敗するするなよ!」
それを涙で見送るティナ。
そして彼女の母親の番が来た。
「ああティナ…
朝ご飯はしっかり食べられるかしら?
髪の毛だって少しは女の子らしく整えられるかしら?
出来ればあなたの幸せをこの目で見たかった…
こんなお母さんを許してくれるかしら…?」
「お母さん!私は…私は大丈夫だから。
きっと幸せになってみせるから!
だから安心して…」
「ティナ…私の娘で生まれてきてくれて、ありがとう…安心なんて出来ないけど、私はあなたを信じてる…だから…さようなら」
「おかあさぁん!」
笑顔のまま消えるティナの母親。
そして最後はティナの父親…ロキの番だ。
「勇者ジェイ様…どうか娘をよろしくお願いします」
ロキはティナではなく、最期の言葉を俺に向けた。
俺は無言でロキを見つめた。
そこに言葉は必要なかった。
「ありがとうございました。勇者様とティナに栄光あれ!」
そう叫ぶとロキもその姿を消していった。
姿を消した魂たちは流星の様に大木に向かって落ちていき、吸い込まれていく。
その姿は幻想的で、俺は二度と忘れる事はないと感じていた。
無論、それは横にたたずみ、その様子を覚悟を決めた表情で見つめるティナも同じだったに違いない。
そして全ての魂が大木に吸い込まれた時、遠い海面から太陽が顔を出しはじめていた。
「これから始まるのね…この里も…私も…」
そんな風にティナは誰に当てる訳でもなく呟いた。
俺はそんな彼女に背を向ける。
そして彼女に対して、
「…行くぞ」
と促した。
「え…?それって…」
彼女の驚く様子が背中から伝わる。
「…二度は言わない。ついてくるなら早く来い」
タタッ!
ティナは駆け足で俺を追い抜き、目の前に立ちはだかった。
そしてその場で綺麗な土下座をして、
「勇者様。戦士の末裔として恥ずかしくない働きをいたします。
どうぞこれからよろしくお願いします」
と深々と頭を下げた。
俺はそんな彼女をちらりと見ると、それに答える事なく彼女の横を通り過ぎた。
それは「いいからついて来い」という無言の意思表示であった。
タタッ!
ティナは再び俺に駆け寄ると、今度は後ろから抱きついてきた。
「…ちょっ…お前!」
「ふふ、『娘をよろしく』ってお父さんに言われてたでしょ!
どういう意味かは分かってるわよね?」
「…知らん」
「あはは!も~、照れ屋さんなんだから!」
こうして俺は新たな仲間とともに里を後にした。
俺とティナは最後に里の方を振り返る。
何かに気づくティナ。
「ジェイ、あれって…」
ティナが驚いた様に声を出し、その瞳に拭ったはずの涙をいっぱいに溜めた。
「…里の命だ」
そこにはあの大木から出た小さな小さな芽が、朝日に照らされ、この里とティナの行く末を祝福しているかの様に輝いていた。
ティナが溜めた涙を拭うと、大声で叫んだ。
「私頑張る~!!
だからみんなも頑張って大きくなるんだぞ~~!!!」
その横顔は勇者につかえる戦士の顔として相応しい、決意と情熱に燃えていた。
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