出遅れ勇者の無双蹂躙~世界滅亡寸前からの逆襲~

友理潤

文字の大きさ
上 下
40 / 79
第2章

コウヤの里の生き残り5

しおりを挟む
「天空流!一の太刀!地空真波斬!!」

ゴウッ!

ティナが振り下ろした剣から衝撃波が生じる。
あの水晶に映し出されていた、彼女の父が放ったものと全く同じキレと速度。
何度も繰り返してきた素振りの集大成がそこにあった。
しかしそんな彼女のひたむきな努力を嘲(あざけ)り笑うように、目の前の悪魔はあまりにも簡単にそれを破った。

カキン!!

乾いた金属音がこだます。
メディーナの鎌がティナの刀を受け止めた。

「ば…バカな…!?一撃必殺の技が…」

「お父さんに比べて、あんたの剣は軽いのよねぇ。もう少し力をつけなきゃ」

大技を放ったティナに隙が生まれる。
その隙をメディーナは見逃さなかった。

そのままティナとの距離をグンと詰めると、左足で彼女の横腹に鋭い回し蹴りを飛ばした。
渾身の必殺技を簡単に受け止められたティナは反応できない。

「ぐはぁっ!」

あまりの痛みに腹を抱えてうずくまるティナ。
がら空きになった彼女の右側頭部をメディーナは鎌の柄で容赦なく殴りつけた。

ゴン!

鈍い音がすると頭から血を流しながら彼女は横に倒れかかる。

「簡単には寝かさないよぉ!」

メディーナは楽しそうに言うと、倒れかかったティナを今度は右足で強烈に蹴りあげた。

ドン!

力なく空中に舞ったティナはそのまま大の字になって地面にたたきつけられた。

「うぐっ!!」

痛烈な連続攻撃にピクリとも動かなくなるティナ。
そんな彼女の様子を見てメディーナがニタリと笑いながら、彼女の元へと歩いていく。

「あらぁ?死んじゃったかなぁ?」

メディーナがティナの顔を覗き込もうとした瞬間、

シュッ!

鋭い突きがメディーナの顔めがけて放たれた。

メディーナの反応が驚きとともに少し遅れる。
なんとか顔をそむけてかわすが、頬に傷が走る。
彼女の頬に血がツーっとたれてきた。
逆にメディーナの顔色からは血の気が失せていく。
そしてティナを睨みつける眼光が鋭く光った。

「うぜえんだよ!!」

メディーナは激怒し、鎌の柄でティナを殴打する。

ドゴ!バキ!ドン!ドゴン!!

それは数回続いた後に、ティナを地面に叩きつけて終えた。

今度はうつ伏せになって動かなくなるティナ。
その頭をメディーナはグリグリと踏みつけた。

「わたしの顔を傷つけるなんてぇ、ただ殺すだけじゃ足りないなぁ」

どうやらこの魔物は顔を傷つけられることに対し、激怒しているようだ。
ティナの顔を地面にこすりつけるように、メディーナの執拗な踏みつけは続いた。

しかし完全に気を失っていたと思われていたティナはその足を掴むと、ググっと持ち上げる。
メディーナに驚きの表情が現れる。

「あんた…まだこんな力が残ってたのぉ?」

「私は…私は…負けない…私は…勇者の戦士の末裔…里の誇りにかけて…お前を討つんだぁ!!」

ティナはメディーナの足をそのままグイっとさらに持ち上げ、立ち上がりながら乱暴にそれを投げた。

メディーナはバランスを崩すが、倒れることなくティナと再び対峙した。

フラフラなティナの顔は、泥と傷と血で酷い有様だ。
しかしその目だけはギラギラと目の前の魔物を威圧するように光っている。

「もう…私には何も残っていない。立っているのがやっとだ…でも…魂だけは、この心だけは絶対に負けない!」

「あはは、醜いわ…その顔。そのセリフ。私は醜いのが嫌いなの。だからぁ…」

メディーナが大きく鎌を振りかぶる。
そしてそれをティナに向けて振り下ろした!

「もう死んじゃえ!」

ティナは覚悟を決めて目をつむる。

シュン!!

空気を切り裂くような鎌の音は、抜群の切れ味を想像するに易かった。
次の瞬間には首がはねられているのだろう…
ティナがそう感じたその瞬間…


パシ…


誰かが何かを掴む音がした…


そしてティナは自分に鎌が振り下ろされなかった事を実感し始める。

彼女はゆっくりと瞼を開いた。腫れている為に全てを開く事は叶わなかったが、目の前の出来事に驚くには十分であった。


「ま…まさか…」


そこにはジェイが、復讐すべき憎き相手が、自分の前に立って魔物の鎌を左手でいとも簡単に抑えている光景が映し出されていた。

ジェイは背中を向けたまま、ティナに言った。

「…お前にはまだ残っている」

しかし彼女はすでに立っているだけで限界の状態。
それなのに目の前の男はまだ彼女に戦いを強要するかの様な残酷な言い草だ。
もちろん、彼女だって本当は戦いたいのだが、もうメディーナに対抗するだけの力は残っていない。

「私には…もう何もない…何の力も残ってないのよ…」

彼女の諦めを表すかの様な弱気な口調。

すると勇者がティナの方を向いた。
そして無表情のまま告げた。

「…俺の左腕…お前にはこの腕が残っている」

ティナの瞳が大きく見開かれる。
絶望しか感じられなかったその顔に、希望が少しずつ現れ始める。
思わず感謝の言葉が口をついて出てきた。

「ジェイ…ありがとう…」

「…あとは任せろ」

勇者は再びその顔をメディーナの方へ向け、掴んでいた鎌を離した。
その左手にはかすり傷一つ負っていない。

ティナは力が抜けたようにその場で座りこんでしまった。
目の前の全てを預けられる大きな背中は、この絶望に溢れた世界の中にあって、希望の象徴のように彼女には思えた。
これが世界中の人間が待ちわびた勇者なのだ…と。

そしてジェイはメディーナに向けて静かに通告した。

「…蹂躙の時間だ。覚悟しろ、クズ野郎」



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...