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第2章
魔王と勇者の執念
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◇◇
サウスオーシャン海戦の翌日、魔王は戦闘の報告をアルミラから受けていた。
その表情には喜怒哀楽は感じられず、ただただ静かに目をつむって堂々と腰をかけているだけであった。
アルミラは不思議でたまらなかった。
海を支配していたクラーケンの一団が壊滅的な被害を被り、勇者には致命的な一撃を与えた、そんな両極端とも言える悪い報告と良い報告にも関わらず、目の前の男は眉一つ動かさないのだ。
彼女にちょっとした悪戯心が湧き上がる。
どうにかしてこの男の表情を変えられないものかと…
アルミラは努めて声色を変えずに、
「これで勇者の件は片付いたかと思われますわ」
と報告の最後に加えた。
少しだけ飛躍した内容。
魔王は静かに片目を開けてアルミラを見つめた。
彼の視線を感じたアルミラは、緊張とともに女性としての喜びがこみ上げてくる。
その様子を確認した魔王は、再び目を閉じて彼女に語りかけた。
「アルミラよ…勇者は生きておる」
アルミラの目論みとは逆に、彼女の表情が驚きに変わる。
「魔王様…お言葉ですが、船が大破し海に投げ出された人間が生き伸びるというのは…」
魔王の口から言葉が続けられる。
「勇者とて普通の人間…首を絞められれば窒息するし、食べ物がなければ飢える」
「であれば、なおさら!」
「しかし、常人とは大きく異なる点が一つだけある」
「そ、それは…?」
「執念だよ、アルミラ…それは使命を果たす為の執念。その執念が消えぬ限り、彼は生を求め続けるであろう」
「その使命とは、魔王様を亡きものにする事でらっしゃいますか?」
魔王の口元が笑いに少しだけ歪む。しかしそこには強い感情は感じられない。
「いや…私など通過点に過ぎぬ」
「つ、通過点!!?魔王様が…!?」
思わずアルミラの声が大きくなる。
「驚く事ではない…かつての勇者も皆そうであったのだから…」
「し、しかし…魔王様が通過点など…あってはなりません!」
「アルミラよ…そう声を荒げるな。私とて老いてはいるが、そうそう負けん。なぜなら私にも執念があるからな」
「執念…?」
「勇者を止めるという事と…」
魔王の顔が少し歪んだ。今度は苦痛に…
アルミラは感じていた。
自分の愛する男を苦しめる、憎き女の影を。
その時、二人の会話に割って入るように一人の少女が、魔王のいる謁見の間に入ってきた。
「ごきげんよう、魔王おじさまにアルミラお姉さま」
そこには屋内にも関わらず日傘を差した可憐な少女。
真黒なドレスに紫色をした大きなツインテール。
「ごきげんよう、プリシラ。何か魔王様に用かしら?」
「はい、お姉さま。おじさまと少しお話しても?」
丁寧に礼をするプリシラと呼ばれた少女。
そこには見た目の年齢には似合わない落ち着きがある。
「申せ、プリシラよ」
「ありがとう、おじさま」
そう言うとプリシラは魔王の前にひざまずいた。
「昨夜、ようやく天にいるパパと交信が出来ましたわ」
「ふむ」
「およろこびください、魔王様…聖女は…聖女テレシアは、この天界にはいないようです」
魔王の目が見開く。そしてその顔にアルミラでは果たせなかった感情が溢れてきていた。
喜びの感情だ。
「つまり…」
「つまり、聖女テレシアはこの世界のどこかにいる、という事ですわ」
ガタ!!
突然、魔王は立ち上がった。
そして今までにない高揚した声色でプリシラに指示した。
「でかした!プリシラよ!引き続き聖女のあぶり出しに注力せよ!なんとしても探し出せ!」
「はっ!かしこまりました!このプリシラ、魔王軍第3軍団、ヴァンパイア軍の軍団長の名に恥じぬ働きをお見せいたしますわ」
そう言うとプリシラは謁見の間を後にした。
魔王は再び腰をかける。
「勇者よ…宿命を断ち切るのは、この私だ」
と魔王は虚空を見つめてつぶやいていた。
サウスオーシャン海戦の翌日、魔王は戦闘の報告をアルミラから受けていた。
その表情には喜怒哀楽は感じられず、ただただ静かに目をつむって堂々と腰をかけているだけであった。
アルミラは不思議でたまらなかった。
海を支配していたクラーケンの一団が壊滅的な被害を被り、勇者には致命的な一撃を与えた、そんな両極端とも言える悪い報告と良い報告にも関わらず、目の前の男は眉一つ動かさないのだ。
彼女にちょっとした悪戯心が湧き上がる。
どうにかしてこの男の表情を変えられないものかと…
アルミラは努めて声色を変えずに、
「これで勇者の件は片付いたかと思われますわ」
と報告の最後に加えた。
少しだけ飛躍した内容。
魔王は静かに片目を開けてアルミラを見つめた。
彼の視線を感じたアルミラは、緊張とともに女性としての喜びがこみ上げてくる。
その様子を確認した魔王は、再び目を閉じて彼女に語りかけた。
「アルミラよ…勇者は生きておる」
アルミラの目論みとは逆に、彼女の表情が驚きに変わる。
「魔王様…お言葉ですが、船が大破し海に投げ出された人間が生き伸びるというのは…」
魔王の口から言葉が続けられる。
「勇者とて普通の人間…首を絞められれば窒息するし、食べ物がなければ飢える」
「であれば、なおさら!」
「しかし、常人とは大きく異なる点が一つだけある」
「そ、それは…?」
「執念だよ、アルミラ…それは使命を果たす為の執念。その執念が消えぬ限り、彼は生を求め続けるであろう」
「その使命とは、魔王様を亡きものにする事でらっしゃいますか?」
魔王の口元が笑いに少しだけ歪む。しかしそこには強い感情は感じられない。
「いや…私など通過点に過ぎぬ」
「つ、通過点!!?魔王様が…!?」
思わずアルミラの声が大きくなる。
「驚く事ではない…かつての勇者も皆そうであったのだから…」
「し、しかし…魔王様が通過点など…あってはなりません!」
「アルミラよ…そう声を荒げるな。私とて老いてはいるが、そうそう負けん。なぜなら私にも執念があるからな」
「執念…?」
「勇者を止めるという事と…」
魔王の顔が少し歪んだ。今度は苦痛に…
アルミラは感じていた。
自分の愛する男を苦しめる、憎き女の影を。
その時、二人の会話に割って入るように一人の少女が、魔王のいる謁見の間に入ってきた。
「ごきげんよう、魔王おじさまにアルミラお姉さま」
そこには屋内にも関わらず日傘を差した可憐な少女。
真黒なドレスに紫色をした大きなツインテール。
「ごきげんよう、プリシラ。何か魔王様に用かしら?」
「はい、お姉さま。おじさまと少しお話しても?」
丁寧に礼をするプリシラと呼ばれた少女。
そこには見た目の年齢には似合わない落ち着きがある。
「申せ、プリシラよ」
「ありがとう、おじさま」
そう言うとプリシラは魔王の前にひざまずいた。
「昨夜、ようやく天にいるパパと交信が出来ましたわ」
「ふむ」
「およろこびください、魔王様…聖女は…聖女テレシアは、この天界にはいないようです」
魔王の目が見開く。そしてその顔にアルミラでは果たせなかった感情が溢れてきていた。
喜びの感情だ。
「つまり…」
「つまり、聖女テレシアはこの世界のどこかにいる、という事ですわ」
ガタ!!
突然、魔王は立ち上がった。
そして今までにない高揚した声色でプリシラに指示した。
「でかした!プリシラよ!引き続き聖女のあぶり出しに注力せよ!なんとしても探し出せ!」
「はっ!かしこまりました!このプリシラ、魔王軍第3軍団、ヴァンパイア軍の軍団長の名に恥じぬ働きをお見せいたしますわ」
そう言うとプリシラは謁見の間を後にした。
魔王は再び腰をかける。
「勇者よ…宿命を断ち切るのは、この私だ」
と魔王は虚空を見つめてつぶやいていた。
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