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第2章
サウスオーシャン海戦6
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「兄貴!サヤさんが…サヤさんが倒れた!!」
ザンザの叫ぶような訴えに、俺は即座に反応した。
「サヤ!!」
俺は魔方陣の方へと急いだ。
あいつ…嘘をついたな…
そして彼女の嘘を見抜く事が出来なかった自分を責めた。
魔方陣の横でぐったりと横たわるサヤ。
俺は彼女を抱きかかえた。
彼女の鼻と口から血が流れている。
限界以上に魔力を消費して体に大きな負担がかかった、明らかな証拠であった。
「おい!?サヤ!」
俺の呼びかけにうっすらとサヤがうっすらと目を開ける。
「ご…ご主人さま…ごめんなさい…サヤ…約束守れなかった…」
彼女は自分の身がボロボロになりながらも、魔方陣を保てなかった事を悔やんでいるようだ。
俺はそんな健気なサヤを見て、胸がぎゅっと掴まれる。
「…無茶しやがって…」
おそらく最初に『結界を15分は保てる』と言ったのは、俺が安心して戦場に降り立つ為の大きな嘘だったのだろう。
俺はそれをまともに受け『結界を10分だけ保つ』ように指示をしたのだったが、彼女の魔力からすれば、それも最初から不可能だったのだ。
俺は魔法の詠唱を始めた。
「闇の精よ、我が力を求める相手に、この力を与えん事を許したまえ!『ドレイン・キス』」
そう…テレシアが俺にほどこした、あの魔法…
チュ…
俺は優しくサヤにキスをした。
「ん…んん…」
サヤは親鳥に餌を求める雛鳥のように、俺の口から与えられる魔力を吸っている。
その表情にはどこか満足げな喜びに満ちたものだった。
しばらくすると、彼女の顔が離れた。その表情には活気が戻っている。
俺はその様子を見て、安心した。
サヤは顔を赤らめながら上目づかいで
「ご主人さま、ありがとうございました。あの…その…」
と感謝の言葉を述べるとともに、何か言いづらそうにしている。
「…どうした?」
「ご主人さまの…愛を…愛をサヤは感じました!」
と言うと、サヤは俺に抱きついてきた。
ドキン!
俺の顔が一気に赤くなるのが自分でも分かった。
俺は言葉を失い、その場で硬直してしまった…
その様子の一部始終を見ていたザンザが
「兄貴…うらやましすぎだぜ…」
と漏らしていた。
ただ…俺は一つの違和感をこの時覚えていた…
それは…
魔力が回復していない事…
それは、レベルアップしていないからだ…
あれだけの魔物を倒したのだ。
レベルアップしていないのは明らかにおかしい。
それが意味する事は、ただ一つだ。
「…終わっていない」
しかし周囲の海には魔物の影はない。
となると…
俺は何かを感じるより先に言葉が出ていた。
「…物陰に隠れろ!!」
俺の言葉とほぼ同時に…
上空から槍のように尖った水の塊が、無数に落ちてきた。
ドドドドドド!!
「ぐわぁぁぁ!!」
甲板にいた何人かの乗組員が逃げる間もなく、水の槍に貫かれる。
水の槍の勢いは強く、甲板に無数の穴を開けていた。
俺はサヤを抱えて剣でその槍をさばいていた。
ザンザは甲板にある大きな大砲の影に隠れてやり過ごしている。
「…くそっ!」
俺は上空を睨みつける。
そこにはガーゴイルの軍勢に抱えられて空から、魔法攻撃をしかけてきたマーマンたちの姿があった。
そして魔物たちは徐々に高度を下げて、船の甲板の上に降り立った。
そして一体のマーマンがズイと前に出てきて言い放つ。
「私はマーマンキャンサー!勇者よ!この戦い、まだ終わりなどではない!同胞たちの敵!ここに討ってくれる!」
「…ぬかせ」
そこには一様に杖を手にしたマーマンたち。恐らく魔法を主体に戦ってくる魔物たちなのであろう。
そして片手剣を持ったガーゴイルたち。
合わせて目測で100体はいると思われる。
戦いの再開は、甲板での白兵戦か…
「…サヤ…ザンザ」
俺は甲板にいる二人に声をかける。
「はい、ご主人さま」
「おう兄貴、何だ?」
「…乗組員たちを頼む」
俺はそう指示して魔物たちに対峙した。
「…かかってこい…クズども!」
ザンザの叫ぶような訴えに、俺は即座に反応した。
「サヤ!!」
俺は魔方陣の方へと急いだ。
あいつ…嘘をついたな…
そして彼女の嘘を見抜く事が出来なかった自分を責めた。
魔方陣の横でぐったりと横たわるサヤ。
俺は彼女を抱きかかえた。
彼女の鼻と口から血が流れている。
限界以上に魔力を消費して体に大きな負担がかかった、明らかな証拠であった。
「おい!?サヤ!」
俺の呼びかけにうっすらとサヤがうっすらと目を開ける。
「ご…ご主人さま…ごめんなさい…サヤ…約束守れなかった…」
彼女は自分の身がボロボロになりながらも、魔方陣を保てなかった事を悔やんでいるようだ。
俺はそんな健気なサヤを見て、胸がぎゅっと掴まれる。
「…無茶しやがって…」
おそらく最初に『結界を15分は保てる』と言ったのは、俺が安心して戦場に降り立つ為の大きな嘘だったのだろう。
俺はそれをまともに受け『結界を10分だけ保つ』ように指示をしたのだったが、彼女の魔力からすれば、それも最初から不可能だったのだ。
俺は魔法の詠唱を始めた。
「闇の精よ、我が力を求める相手に、この力を与えん事を許したまえ!『ドレイン・キス』」
そう…テレシアが俺にほどこした、あの魔法…
チュ…
俺は優しくサヤにキスをした。
「ん…んん…」
サヤは親鳥に餌を求める雛鳥のように、俺の口から与えられる魔力を吸っている。
その表情にはどこか満足げな喜びに満ちたものだった。
しばらくすると、彼女の顔が離れた。その表情には活気が戻っている。
俺はその様子を見て、安心した。
サヤは顔を赤らめながら上目づかいで
「ご主人さま、ありがとうございました。あの…その…」
と感謝の言葉を述べるとともに、何か言いづらそうにしている。
「…どうした?」
「ご主人さまの…愛を…愛をサヤは感じました!」
と言うと、サヤは俺に抱きついてきた。
ドキン!
俺の顔が一気に赤くなるのが自分でも分かった。
俺は言葉を失い、その場で硬直してしまった…
その様子の一部始終を見ていたザンザが
「兄貴…うらやましすぎだぜ…」
と漏らしていた。
ただ…俺は一つの違和感をこの時覚えていた…
それは…
魔力が回復していない事…
それは、レベルアップしていないからだ…
あれだけの魔物を倒したのだ。
レベルアップしていないのは明らかにおかしい。
それが意味する事は、ただ一つだ。
「…終わっていない」
しかし周囲の海には魔物の影はない。
となると…
俺は何かを感じるより先に言葉が出ていた。
「…物陰に隠れろ!!」
俺の言葉とほぼ同時に…
上空から槍のように尖った水の塊が、無数に落ちてきた。
ドドドドドド!!
「ぐわぁぁぁ!!」
甲板にいた何人かの乗組員が逃げる間もなく、水の槍に貫かれる。
水の槍の勢いは強く、甲板に無数の穴を開けていた。
俺はサヤを抱えて剣でその槍をさばいていた。
ザンザは甲板にある大きな大砲の影に隠れてやり過ごしている。
「…くそっ!」
俺は上空を睨みつける。
そこにはガーゴイルの軍勢に抱えられて空から、魔法攻撃をしかけてきたマーマンたちの姿があった。
そして魔物たちは徐々に高度を下げて、船の甲板の上に降り立った。
そして一体のマーマンがズイと前に出てきて言い放つ。
「私はマーマンキャンサー!勇者よ!この戦い、まだ終わりなどではない!同胞たちの敵!ここに討ってくれる!」
「…ぬかせ」
そこには一様に杖を手にしたマーマンたち。恐らく魔法を主体に戦ってくる魔物たちなのであろう。
そして片手剣を持ったガーゴイルたち。
合わせて目測で100体はいると思われる。
戦いの再開は、甲板での白兵戦か…
「…サヤ…ザンザ」
俺は甲板にいる二人に声をかける。
「はい、ご主人さま」
「おう兄貴、何だ?」
「…乗組員たちを頼む」
俺はそう指示して魔物たちに対峙した。
「…かかってこい…クズども!」
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