出遅れ勇者の無双蹂躙~世界滅亡寸前からの逆襲~

友理潤

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第2章

出航

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なんと街の男の全員が俺たちの船の建造に携わる事になった。

自分たちの国を救った勇者の役に立ちたいという事で、皆手伝いを名乗り出たのだ。

それでも完成までは1週間必要らしい。
しかし普通であれは数ヶ月かかるものを、街の男たちが総出でそこまで短縮してくれるのだ、文句を言う訳にはいかなかった。
男たちが汗をかき、女たちはその世話をする。
そんな単純な事だけで、街はみるみる活気付いてきた。
際どい服を着た若い女性が接待していたあの酒場も、今では酒と食事を出すだけに忙殺され、活気と男臭さに溢れる普通の酒場に変わっていた。

俺たちはただ待つだけなのも芸がないので、王国までの街道に出没する魔物を退治する事にしていた。
もちろんそれはサヤのレベルアップを兼ねてのことだ。
ちなみに魔物退治と言っても、ゴブリンの残党狩りで、その数も強さもさほどなものではなかった。


サヤが木の杖をゴブリンに向けて構える。
そして、魔法を詠唱した。

「火の精よ!球となりて我に力を!『ファイアボール』!」

ボン!!

木の杖の前に一抱えくらいの大きさの火球が現れる。

「いけぇ!」

サヤが木の杖を振るうと、火球は真っ直ぐにゴブリンに飛んで行った。

勢いよく放たれた火球は綺麗な軌道でゴブリンの胸のあたりに直撃。

「ギャア!」

短い絶叫とともにゴブリンは絶命した。

「やったぁ!」
とサヤが飛び上がって喜んでいる。

「…良くやったな」
と俺はサヤの頭を撫でた。

「へへぇ~、ご主人さまに褒められてサヤは嬉しいです!」
とサヤがとろける様な表情でデレる。

「ふん!サヤちゃんばかりズルい!私だって!」

タタタッ!と残りのゴブリンに駆け出すレイナ。

「やぁ!!」

と細身の剣をゴブリンに振り下ろした。

ズバッ!

「グワァ!」

レイナは一刀の元、ゴブリンを両断した。

「どう!?私だって頑張ってるでしょ!?」
とレイナ誇らしげに俺に向かって親指を立てる。
そして、
「私も褒めても良いのよ!?」
と頭を少し俺に向けて突き出してきた。

「…やるな」
と俺はレイナの頭もなでる。

「ふふ~、レイナ嬉しい!」
とあからさまにサヤの真似をして喜んでいた。

ぷくーっと頬を膨らませるサヤ。
そんな彼女には魔法を使う素質があった。
俺は予め買っておいた杖をサヤに持たせていた。
彼女のレベルアップと魔法の上達は思ったよりも早く、あっという間に一人でレベル30前後のゴブリンなら討伐出来るまでに成長していた。

一方のレイナは執務の合間を縫っては、俺たちに付き添っていた。
そのレイナも剣に魔法に抜群のセンスがあり、すぐに一人で戦えるまでになった。

二人の戦いに対するセンスの良さに俺は驚きよりも嫉妬の方が強かったかもしれない。

ちょうど1週間後のある日、あらかたゴブリンの残党を片付けたところで、俺たちの船が完成したとの連絡を受け、造船所にそれを見に行くことにしたのだった。

◇◇
「すごいです!ご主人さま!」

完成した船を見て、サヤが目を輝かせて喜んでいる。
それもそのはずだ。
俺たちの船は豪華客船を思わせる大きさで、とても二人で旅するものとは思えない程、華やかなものだった。
海の魔物に出くわす事を想定して、いくつもの大砲が備えつけてあり、ここでは仕舞われているが、巨大な帆にはアステリア王国の国章が描かれているらしい。

非常に素晴らしい船だ。

あっけに取られている俺たちを見て、レイナも満足そうだ。
するとそこに線の細い男が俺たちに腰を低くして近付いてきた。
見た目は20代だろうか…
色白で金髪の整った顔をしている。
しかしその顔には見覚えがあった。
そうエリーの毒牙にはまった一人だったのだ。

「勇者様、私はケントと申します。
実はお願いがあるのですが、お話してもよろしいでしょうか?」

俺は正直全く興味はなかったのだが、レイナが横から
「うむ、話せ」
と勝手に話を進める。

ケントは緊張した面持ちに笑顔をのぞかせて続けた。

「ありがとうございます。実は私は貿易商を営んでおりまして…
ご存じの通り、海には魔物が溢れて仕事になりません。
私だけならまだしも、私の元で働いている船乗りたちにもつらい思いをさせております。
そこで勇者様。
勇者様の船の乗組員として、私の乗組員を雇ってもらえないでしょうか!?」

てっきり自分を旅に連れていけとお願いされるのかと思っていた俺は、面食らった。
それはレイナも同様なようで、
「お前はどうするつもりなのだ?」
と問いかけた。

ケントは恥ずかしがって頭をかきながら答える。

「私はこの街に妻を置いていく訳にはいきません。
今回の件で最もつらい思いをさせたのですから…
この地で泥水をすすろうとも、生き恥をさらそうとも必死に生きていくつもりです」

レイナはポンと手を叩くと、
「うむ!よく言った!よし!決まりね!ケントの乗組員たちはこれより勇者の元で働くよう指示しておきなさい!」
と勝手に話を進めた。
しかし他に乗組員のあてがあるわけではないし、彼らを雇うお金に困っているわけでもないので、俺は素直にその提案を受ける事にした。

「ありがとうございます!どうか勇者様にご加護がありますように」

とケントは泣きだしそうな顔で何度も俺に頭を下げていた。

◇◇

旅の荷物はほとんど『メニュー』に収まっているため、船が完成すれば、すぐにでも出航できる状況だ。
最終的な船の点検を手際よく進めるケントの乗組員たち。
あっという間に俺たちが船に乗り込む時間を迎えた。

「しばしのお別れね…」

泣き出しそうな顔のレイナ。
サヤも別れが辛そうにレイナの手をギュッと握っている。

「サヤちゃん、ジェイの事をよろしく頼むわね」

むしろ俺がサヤの面倒を見ている気がするのだが、突っ込むのは野暮なのでそっとしておく。

「はい…レイナも頑張って下さい!」

とサヤはレイナを励ます。
それにレイナはコクリと頷く事で応えていた。

「…いくぞ」

俺はサヤを促すと船の方に向かおうとした。

「ジェイ!待って!」

俺はその声に振り返る。

チュ!!

レイナは俺にキスをした。
それは今までにないほど長く熱いキス。
レイナの情愛と悲哀が伝わってきた。

しばらくすると離れるレイナ。
見ると涙が頬を濡らしている。
俺は優しく彼女の頬をなでる。

「…泣くな」

レイナは嬉しそうにはにかみ笑顔を見せると
「必ず戻って来てよね」
と言い、俺に抱きついた。

「…ああ」

「途中で死んだら許さないんだから」

「…ああ」

「戻ってきたら…その時は私のナイトに正式になってよね」

俺は無言で彼女の背中に手を回した。
レイナの抱き締める手が強くなる。

「ほんの少しだけ、今だけ…甘えさせて」

『レイナ裁定』で見せたような威風堂々とした振るまいの印象が強い彼女だが、今こうして想い人に甘える少女の一面も持ち合わせているのだろう。
しかし俺がここを発てば、彼女はもう甘える事はなくリーダーとして強くなくてはならない。
俺たちの出航は、彼女にとっても未来への出航を意味していたに違いない。
この抱擁はその出航への不安を払拭するためであり、少女であり続けたいという甘えの最後の抵抗であった。

しばらくその様子を見ていたサヤが
「レイナ…そろそろ…」
と優しくたしなめた。
それは巣立ちを促す親鳥のそれに似ているように俺には思えた。

「ハハ、サヤちゃんは相変わらず厳しいな…でも今の一言で覚悟が出来たわ」

とレイナは俺から離れた。
俺たちは再び船に向かうと振り返る事なく乗り込んだ。

「…出航だ」

俺が号令をかける。

出航する船を町民全員が見送りにきた。
そこには宿屋の女将のサファイアさんや、メイドのアリア、元町長のジムの姿もあった。

そしてレイナが号令をかけた。

「我が国の英雄、勇者ジェイの旅立ちに…皆のもの!拍手せよ!!」

ウワァァァァ!!
パチパチパチ!!!

港が歓声で揺れる。
その様子にもうかつての腐敗臭はない。
あるのは港町特有の塩の匂いだけだった。


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