出遅れ勇者の無双蹂躙~世界滅亡寸前からの逆襲~

友理潤

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第2章

ポートの流行病5

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俺はゆっくりと呻き声のする部屋の扉を開ける。

その部屋には血まみれのトニーと思われるモノが苦しそうに立っていた。
悪魔になってもメガネをかけているのが不釣り合いだ。

「グハハハ!素晴らしい!力が溢れてくる!」

両手を広げて愉悦に浸るトニー。
その様子に対し、興味なさげな無表情を向ける俺。

「…くだらん」

「くだらないだと?グハハハ!このこぼれるような圧倒的な力を?お前も体感したんだろ?それなのに、そんなちんけな感想しか出てこないのか!?」

どうやらトニーは俺が流行病を発症したと本気で思っているらしい。
とことんおめでたい男だ。この様子だと今回の件はエリーから持ちかけられたに違いない。
そう思うと少しこの男が哀れにも思えてきた。

「…来い、貴様がくだらない男だと思い知らせてやる」

「グハハハ!後悔するなよ!!死ね~!!」

ダッ!

トニーが一気に差を詰めてくる。その速度は人間のそれとは大きく異なった目にも止まらぬものであった。
しかし俺にとってはスローモーションに毛が生えた程度にすぎない。
トニーの突進をひらりとかわした。

ドカン!

壁に激突するトニー。綺麗に飾られていた額縁や整頓された本だなの本がバラバラと音を立てて落ちていく。

「こしゃくな!!」

部屋の乱れなど気にせずに激昂したトニーは再び俺の方へと蹴り出した。

ドカン!
ドカン!
ズドーーン!

ひらひらと舞う蝶のように、いとも簡単にトニーの突進をかわす俺。
一方のトニーは赤いマントに突っ込んでいく猛牛のように何度も俺に突進しては、壁という壁に穴を開け、家の中の物を散乱させていった。

「クソ!かわすのだけは得意なようだな!しかしいつまで続くかな!?」

俺は乱れ切った部屋を出ると2階の別の部屋に潜り込む。
それを追うトニー。
新たな部屋でも先ほどと同じ光景が繰り広げられた。

そしてそれは2階の全ての部屋だけではなく、1階のリビングにまで及ぶ。
俺は玄関へと続く廊下の方へと駆けだした。

「グハハハ!鬼ごっこもここまでのようだな!もう逃げ場はないぞ」

「…確かに…俺の負けだな」

俺は玄関を背に観念したように肩の力を抜いた。

「グハハハ!観念したようだな!」

「…最後に一つだけ聞きたい」

「フン!まあいいだろう。慈悲深い俺に感謝するんだな」

トニーは襲いかかろうとする構えのまま、俺の質問を許容した。

「…どちらの手だ?」

「何がだ!?」

「…どちらでサヤを殴った?」

「グハハハ!あの女の事か!?俺様の右手だよ!お前をぶっ殺した後にあの女を気持ちよくするのもこの右手さ!!グハハハ!」

「…ありがとう…」
「じゃあ!死ね!!その右手でお前を冥土に送ってくれるわ」

俺が謝意を述べると同時にトニーは襲いかかってきた。
そして彼の異常に肥大化した固い拳が俺の頭に向かって振り下ろされた。

グシャッッ!

何かがつぶれる鈍い音。
同時に鮮血が勢いよく巻き散り、俺とトニーの視界を遮った。

「グハハハ!つぶれちゃったかなぁ!?」

彼は俺の頭がつぶれたものだと思っているようだ。
しかし、それは盛大な勘違いである事を教えてやらねばならない。

噴き出した血が廊下に流れ落ちるとともにクリアになる二人の視界。
そしてその視界に入ってきたのは…


握りつぶされて無惨な姿になったトニーの右拳であった。

「グギャァァァァ!!いたい!いたい!いたい!」

涙を流し痛がるトニー。
俺は彼の拳を握りつぶしたまま、無詠唱で小さな火を起こす。
彼の拳の肉が焦げる臭いが目にしみる。

「ギャァァァァ!あつい!あつい!あつい!」

「罪を犯したのはこの手か!!!」

俺は火を起こしたまま、強く彼のつぶれた右拳を握った。

「ギャアアアア!いたい!あつい!やめて!やめてくれ!!」

泣き叫び、無様に懇願するトニー。

「…罪のない街の女たちの恐怖を」

俺はさらに強く握る。すでに骨という骨が飛び出している。
かなりの激痛なはずだ。

「やめてくれ…」

「…その身を持って思い知れ!!クズが!」

グチャ!!!

「ギャアアアア!」

完全に彼の拳はつぶれてしまった。
それと同時に俺は手を離す。

「ひ、ひぃ~!!!」

トニーは俺に背を向けて玄関から自宅の中の方へ逃げるように戻っていく。

「…鬼ごっこだ。鬼の交代で再開だな」

俺は先ほどとは比べ物にならない速度でトニーを追った。
リビングで彼に追いつく。

ドゴン!!

今度は俺の右拳がトニーに振り下ろされた。
無論、彼はそれを受け止める事が出来ずに、彼の背中に重い一撃が加えられる。

「ぐはぁ!!」

そのまま前のめりにソファに倒れ込むトニー。
俺は彼を仰向きにすると、そのままマウントポジションをとった。

「…どうだ?凌辱される気分は?」

「た、助けて…」

「…女たちの命ごいにお前は何と言った?」

トニーは弱々しい命乞いを止め、顔をそむけた。
俺はその顔をグイッと俺の顔に向け直す。

「何と言った!!?答えろ!!」

「ず…ずびばぜんでぢだ…」

めそめそと泣きじゃくる悪魔の姿のトニー。
俺は完全に興ざめしていた。

「…つまらん…」

俺は彼を解放し、そのまま背を向けた。

「この街から去れ…さもなくば次はない」

彼は放心状態のままソファに寝そべっていたが、俺の言葉を聞きどこか安心したのか、立ち上がった。
俺はそのまま玄関の方へ歩き出した。
まだやる事は残っているのだ、こんな下衆野郎に構ってやるのはここまでだ、そう思っていた。

もちろんこの後彼が取る行動を見越してのことだったが…

そして彼は俺の思い通りの行動を取り始める。

「もうこの街から離れます。お約束しますよ」

ダッ!!

背中から勢いよく蹴り出す音。

「お前の頭をつぶした後になぁ!!!」

そしてトニーの残った左拳が俺の頭に向かって振り下ろされた。
俺は素早く振返ると彼の左手首に向かって手刀を繰り出した。

スパ…

ゴトン…

彼の左手首が地面に落ちた音が、一瞬の静寂の中でこだましていた。

「ぎゃあああああ!!!左手がぁ!左手がぁ!!!」

「…お仕置きが足りないようだな」

そしてもう一撃を俺は加える。

ドゴン!!
グチャ!

俺の右ストレートが彼の股間を直撃した。
そして…ナニかがつぶれる残念な音がした。

「…!!!!???」

あまりの痛みに言葉が出ないようだ。

「…まだ足りん!リトルフレア!!」

ボン!!!

爆音が彼の股間から響く。
完全に跡型もなくなり、文字通り塵となった股間を抑えるように彼はうつ伏せになって倒れた。

トニーは大量の出血の為、息も絶え絶えでもはや言葉を失っている。
その様子を無表情で見降ろしていた俺は、

「…簡単に死なせはしない」
ともらすと、無詠唱で簡単な回復魔法を唱え、最低限の止血をほどこした。

まだ意識があるのか、俺を見上げるトニー。
何か言いたげだが、恐怖と痛みのあまりに言葉が出てこないようだ。
俺はそんな彼に顔を近づけて

「…生きて地獄を味わうがいい」

と吐き捨てた。
なぜなら、彼の両手と股間はその機能を今後取り戻すことはない。
その場で死んだ方が楽な程、壮絶で絶望に満ちた一生を送る事になることは容易に想像ができた。

聖女の回復魔法でも唱えない限りは…

そして、
「…男どもとお前の治療代だ」
と1000ゴールドをその場において、玄関の方へと足を進めた。

そんな俺を力を振り絞ってトニーが呼びとめる。

「ま、まて…聞かせてくれ…お前は何者なんだ?」

俺は背を向けたまま立ち止り、
「…勇者だ」
と答えて、トニーの自宅を後にした。

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