出遅れ勇者の無双蹂躙~世界滅亡寸前からの逆襲~

友理潤

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第2章

ポートの流行病4

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「先生!助けてください!ご主人さまが…」

サヤが俺に肩を貸してトニーの元を訪れたのは、深夜になってからであった。
俺は全身の力が入らないように、ぐったりとしている。

「これは大変だ!」

トニーは俺の空いている方の肩を抱いて診療所に急いだ。
そして
「君は外で待っていなさい。後で詳しい事を聞きたいから」
と強い剣幕でサヤに指示を出す。

「ご主人さま!」

サヤは涙目で俺を見つめていた。

「ささ!早く!」

トニーに押し出されるようにしてサヤが診療所を出る。

「…うぅ…サヤ…」

俺はうめくように彼女の名前を呼ぶと、そのまま静かに診療台に横たわった。

バタン…

サヤが外に出ると診療所のドアを閉めるトニー。
先ほどまでの剣幕がウソの様な、気味悪い笑顔を浮かべている。

「あんな可愛い女の子が側にいるのに…あなたは他の女の色気に負けたのかい?」

「…」

俺は何も答えられない。

「フフフ、安心したまえ。あの子に寂しい思いはさせないように、たっぷり可愛がってあげるから」

「…」

そしてトニーは俺の口にガーゼを当てる。
どうやら睡眠薬がしみこませてあるようだ。
なるほど…暴れていた患者を大人しくさせたのはこれだった訳か。
意外と単純だったんだな、と俺はくだらない事に感心していた。

「君は君でこれからたっぷりと可愛がってもらうといいさ、エリーにね。ハハハ」

俺はゆっくりと瞼を閉じる。
その両目が完全に閉じ、俺が寝息を立てたのを確認すると、トニーは俺を奥の扉の中へと押し込んだ。
そしてその扉の鍵をかけた。

◇◇
サヤは健気に外で待機して、主人であるジェイが回復する事を祈っていた。
そして昨晩と同じ表情を浮かべたトニーがサヤの元に戻ってきた。

「ご主人さまは?」

「残念だが…今は何とも言えない」

「そんな…」

「ただ、容体は安定したから、これから治療を続ければ回復するかもしれない。希望を捨てちゃいけないよ」

トニーは暗闇の中でもはっきりと分かるような爽やかな笑顔でサヤを安心させようと努力していた。
サヤはそれにコクリと頷いた。

「今日はもう遅い。一人で宿まで帰るのは物騒だから、今夜はうちに泊まりなさい」

「はい…お言葉に甘えさせていただきます」

こうしてサヤはトニーの言葉巧みな誘導により、彼の自宅の中へと入っていった。

◇◇
「きゃあ!!何をするんですか!?」

それはサヤがリビングに入った瞬間の出来事だった。
トニーがサヤをソファに押し倒したのだ。

「診療代だよ、君お金持ってないだろう?」

「持っていません…お金の管理は全部ご主人さまが…」

「僕は今すぐ払って欲しいんだよ!君の身体でね!」

「やめてください!こんなの悪魔の所業です!」

サヤは必至に抵抗している。

バチン!バチン!

その抵抗に対し、トニーは容赦なくサヤの頬を張った。

「大人しくしていればすぐ終わるさ!抵抗するともっと痛い目に合うよ!」

「ううぅ…やめてください…」

サヤの力が諦めたように抜ける。

「うん!いい子だ、すぐに気持ち良くしてあげるからね!あぁ、最近はババアばかりを相手してきたから、若い子相手だと燃えてくるなぁ」

トニーはだらしない顔をして、そのままサヤに覆い被さった。

「ご主人さま…助けて…」

「ハハハ!助けなんかこないさ!今頃あの男もエリーとお楽しみ中さ!ハハハ!」

ゴトリ…

その時トニーの背後に何か転がった音がした。

「なんだ?何か落ちたのか?」

トニーが体を起こして、その音の方を見る。

そこには…



エリーの首が落ちていた…!


「ひぃっ!」

思わず立ち上がって後ずさる。

目の前の暗闇が歪み始める。

「誰かいるのか!?姿を見せろ!」

その歪みが大きくなると、輪郭がはっきりしてくる。
そしてそれが完全な『人型』となると、その姿が明らかになった。

「お、お前は…ば、バカな…今頃エリーと…」

「…お楽しみは終わった。あっさりと」

その姿がゆらりと近づいてくる。

「ウソだ!ウソだ~!!」

さらに後ろに後ずさるトニー。
もうその背後には壁しかなかった。

「…あっさり死にやがって」

「ひいー!!こっちへくるなぁ!」

「…おかげで楽しむ間もなかった」

トニーは逃げ場を探して部屋の中を見る。

「…だから貴様で楽しんでやるさ」

トニーの視界に階段が入る。

「うわぁぁぁ!」

トニーは一目散に階段に向けて駆け出した。
俺はそれを視界にとらえ、慌てる事なく彼が二階まで上がっていった事を確認した。

「ご主人さま!」

サヤが涙でぐちゃぐちゃになった顔で俺の胸に飛び込んできた。

「…大丈夫か?」

俺は優しくサヤに問いかける。
サヤは首を縦に降ると
「それは私のセリフです!ご主人さまの病気は治ったのですか?」

俺は驚く。
サヤは自分が酷い状況であったにも関わらず、俺の心配をしているのだ。
俺の胸がギュッと掴まれる感覚がした。
俺は思わずサヤの頭をなでて
「…ごめん、心配かけたな」
と謝った。

サヤはブンブンと首を横に振る。
そして潤んだ瞳で俺を見つめた。

「病み上がりですから、無茶しないで下さい…」

俺もサヤの顔を見つめる。
両方の頰が赤く腫れている。
そっとその頰を触れる。

「いたっ!」

思わずサヤが痛がった。

「…あいつか…」

「サヤは大丈夫です、だからご主人さま、ご主人さまは自分の心配だけして下さい!」

健気なサヤ。
俺は思わずサヤを抱きしめた。
そして
「清きの聖女よ、その深き慈愛でこの身に大いなる祝福を!『ブレスオブライフ』」
と魔法を唱えた。

抱き合う二人を桃色の優しい光がハートの形で包んでいく。

サヤの腫れた頰が元通りになり、その他の外傷も消えた。

「ご主人さま…これは…!?」

「…聖女の魔法」

「この光…暖かい。ご主人さまに抱きしめられているみたいに」

「…先に宿に戻ってろ」

俺はそうサヤに命じた。
なぜなら俺が唱えた魔法が有効な限りは身の安全が保障されているから、物騒な夜道も問題ない。
何人たりともサヤに触れることすら叶わないのだ。

俺が唱えたのは守りと回復の超階位魔法だ。
俺が最も使いたくなかった『聖女』特有な魔法の一つでもあったが…
サヤは少しとまどった表情をしたが、すぐに俺の言葉に頷いた。

「ご主人さま…かしこまりました」

「…今夜は…同じベッドで寝る」

「えっ…!!?」

サヤは驚いて固まる。
そして先ほどまでとはうって変わって、明るいはにかんだ笑顔に表情が変わった。

「ご主人さま、サヤはお待ちしています」

そう告げるとサヤは一人でトニーの自宅を後にした。

◇◇
「…さてと、鬼ごっこか」

ただし勇者である俺が『鬼』だがな。
罪のない街の女たちを傷つけた上にサヤも辱しめようと暴力を振るったのだ。
俺を本気で怒らせた事を後悔して果てるがいい。

ギシィ、ギシィ…

階段を一歩ずつゆっくりと登っていく俺。

登りきったところで周囲を見渡す。
一室だけ不自然に開けられた扉があり、そこから呻き声が漏れている。

どうやらトニーは自ら『本当の悪魔』になることを選らんだようだ。

哀れな男だ。
力を求めて魂を売るとは…自分が弱い事を告白しているようなものではないか。

しかしこれでヤツをぶちのめす理由が出来た。
人間でなければ心おきなく『お仕置き』が出来る。

俺はニタリと笑った。

「…蹂躙の時間だ。覚悟しろ」


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