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第2章
ポートの流行病2
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「うぅ…がぁぁ…」
扉の向こうに男性のうめき声が聞こえる。
しかしその声が尋常ではない事は明白だ。
人間のそれとは思えない程に…
「あなた!」
急いで扉を開けようとする女将を制し、俺を先頭に扉を開けた。
バン!
勢いよく開いた扉の向こうにまっていたのは…
「うぅっ…」
思わずサヤが吐き気をもよおしている。
女将も顔を背けていた。
「…これは…」
そこに横たわっていたのは、血だらけになってもがき苦しむ男。
しかしその姿は…鋭い牙に大きな角…悪魔そのものであった。
俺は無詠唱で水を出現させる。
そしてそれをバシャッと男にかけた。
流れていた血が少しは綺麗に落とされたようだ。
俺はヒョイと男を持ちあげると、
「…医者はどこだ?」
と女将に聞いた。
女将は
「私についてきてください!」
と言うと、外へと駆けだしていった。
◇◇
街の医者は丁度真ん中あたりに居を構えている。
「トニーさん!助けておくれ!」
と先行して女将がトニーと呼ばれた男の家の扉をノックした。
「宿屋の女将さんか!?どうしたこんな時間に?」
出てきた男は茶色い髪のヒョロっとした長身でメガネをかけた青年であった。
まだ年齢は20代半ばといったところだろう。
「主人が!主人が…!」
「女将さん!落ち着いて!彼はここまで運んできてくれたのかい?」
「はい…!旅のお方がここまで…!」
女将が宿屋の主人を担いでいる俺の方を見た。
トニーも合わせてこちらに視線を送る。
その視線に一瞬『嫌な』感じがしたのは気のせいだろうか…
「おお…これは旅のお方が!この街の医者として、御礼申し上げる。
ささ、彼を早く診療室へ!」
俺はトニーに促されるままに彼の住居と思われる建物から少し離れた建物の中へと移動した。
中は思いの外広く、さらに奥に扉がある。
「さあ、ここの診療台に彼を!」
とトニーが促す。俺は彼の言う通りに宿屋の主人を乗せた。
彼はかなり苦しんでいるようだ。
うめき声が心なしか大きくなったようだ。
「あとは私に任せて、あなた方は外でお待ちください」
と俺たちは診療所の外に出されてしまった。
◇◇
どれくらい経ったであろうか…
女将は待っている間、わなわなと震えており、その間サヤが優しく彼女の肩を抱いていた。
その間、しばらく続いていたうめき声は徐々に小さくなり、ついに全く聞こえなくなった。
するとトニーが診療所から出てきた。
少し青ざめた表情ではあるが、その顔に悲壮感はただよっていない。
女将がトニーにしがみつく。
「主人は…!?主人は無事なのですか!?」
トニーは顔を横に振って答えた。
「今はなんとも…しかし容体は安定しました。これから数日、私の診療所で様子を見てみない事には…」
「主人に会わせてください!」
「今はダメです。悪魔化の進行は少しずつ進んでしまっています。いつ理性を失って、あなたに襲いかかるか分かりませんので…」
「ううぅ…どうしてこんな事に…ううぅ…」
女将はそのまま泣き崩れてしまった。
トニーが俺たちの方に視線を移し、穏やかな声で
「私は女将と少しお話があります。あなた方は先にお宿にお戻りになってください。本当にありがとうございました」
と促すと、丁寧に頭を下げた。
その瞬間…
トニーの視線がキラリと光った。
やはり…こいつ…何か隠してやがる…
俺は直感的に察した。
俺はサヤを促し宿の方へ向かう。
トニーと女将はトニーの自宅へと入っていった。
それを確認した俺は
「…先に戻っていろ」
とサヤに命じた。
「ご主人さま…」
心配そうに見つめるサヤの頭をなでると、俺は来た道を戻った。
そして
「闇の精よ、我の息吹をその身を持って覆い隠せ!『ヒドゥン・シャドー』」
と魔法を唱えた。
みるみるうちに俺の姿が暗闇と同化していく。
そして影すらなくなると、完全に他人の視界から消えた。
俺はさらに
「忍び足」
とスキルを放ち、足音も完全に打ち消す。
そうしてまずトニーの家へと潜り込んだ。
◇◇
家の中は綺麗に整っていた。
潔癖な彼の性格を表しているかのような『完璧』な内装に俺は薄気味悪さを感じていた。
奥から声が聞こえる。
俺は扉の前に立つと耳を立てて中の会話を聞いた。
「原因は…何が原因なのでしょうか?」
「逆に女将にその覚えはありませんか?最近ご主人におかしなところは?」
女将がしばし沈黙する。
どうやら取り乱していた先ほどと比べ、だいぶ平静を取り戻しているようである。
「最近は…旅人や商人もめっきり減りまして…恥ずかしい話ながら、時間をもてあましていました。
主人は昼から酒場に通うようになり…」
女将の沈んだ声が聞こえる。
「そうでしたか…女将も苦労されているのですね…」
「いえ…苦労だなんて…そんな…トニーさんの方こそ、この流行病で昼夜問わずに大変でしょう?」
「私は…この街に拾われた身ですから…この街の人の為なら、こんなのなんともありませんよ」
人が悪魔化していくのが流行病。何か臭うな…
もう少し情報が欲しい。
するとトニーの声色が少し変わった。
「ところで女将さん…今回の診療の報酬ですが…」
「はい…そうですよね…うちには最近お金がないので…」
「そうですよね…しかし参ったな…僕にも先立つものがないと、ご主人の治療を継続していくのは…」
「お願いです!先生だけが頼りなんです!私なんでもしますから!」
「なんでも…ですか…」
まさかこの男…
俺の下衆な予想はその直後に見事に的中した。
「先生!!?な、なにを!!?キャア!」
「女将さん、先ほど何でもしますって言ったじゃないですか」
「でも…こんな…私には主人がいるの…やめて!」
「そのご主人を助けるためです。先立つものがなければ、せめて僕の治療意欲につながるようにしていただかなくては」
「そ、そんな…あ…あぁ…せ…せ…せんせ…い」
俺はこれ以上聞いていられない。
しかしここで助けの手を差し伸べたら、彼女の主人やその他の同じ病に伏せている人々の命に関わる可能性がある。
俺は静かに歯ぎしりをしてこの場を去った。
例え人間であっても悪魔の所業をするヤツは許さん。
いつかヤツの身も心も蹂躙してやる…
そう誓って、俺は隣の診療所の方へと移った。
◇◇
診療所内は静かであった。
診療台に数々の医薬品。
特に変わったものはない。
しかしあの壮絶な患者を治療した後とは思えないほど、全てが綺麗に整っていた。
俺は気になっていた奥の扉の方へと向かう。
そしてそのドアノブに手をかけた。
ガチャ
「…鍵…か」
残念な事に鍵がかかっているようだ。
強引に扉を開けようものなら、大きな音を立てて俺の侵入がばれてしまう可能性がある。
そっと扉に耳を立てて、中をうかがったが、物音一つしない。
「…手がかりは…なし…か」
俺は静かに診療所を出ると、宿の方へと戻っていった。
明日この街を出ようかと思っていたが、気が変わった。
あの下衆野郎に鉄槌を食らわさないと気が済まない。
この件を片付けてから街を出ようと一人決意を新たにしていた。
◇◇
「…ということで明日は早い。寝るぞ」
「そんなぁ…ご主人さまぁ」
宿で裸にエプロンというふざけた格好をして俺を宿の一室で待ちかまえていたサヤを一蹴すると、すぐにベッドで横になった。
扉の向こうに男性のうめき声が聞こえる。
しかしその声が尋常ではない事は明白だ。
人間のそれとは思えない程に…
「あなた!」
急いで扉を開けようとする女将を制し、俺を先頭に扉を開けた。
バン!
勢いよく開いた扉の向こうにまっていたのは…
「うぅっ…」
思わずサヤが吐き気をもよおしている。
女将も顔を背けていた。
「…これは…」
そこに横たわっていたのは、血だらけになってもがき苦しむ男。
しかしその姿は…鋭い牙に大きな角…悪魔そのものであった。
俺は無詠唱で水を出現させる。
そしてそれをバシャッと男にかけた。
流れていた血が少しは綺麗に落とされたようだ。
俺はヒョイと男を持ちあげると、
「…医者はどこだ?」
と女将に聞いた。
女将は
「私についてきてください!」
と言うと、外へと駆けだしていった。
◇◇
街の医者は丁度真ん中あたりに居を構えている。
「トニーさん!助けておくれ!」
と先行して女将がトニーと呼ばれた男の家の扉をノックした。
「宿屋の女将さんか!?どうしたこんな時間に?」
出てきた男は茶色い髪のヒョロっとした長身でメガネをかけた青年であった。
まだ年齢は20代半ばといったところだろう。
「主人が!主人が…!」
「女将さん!落ち着いて!彼はここまで運んできてくれたのかい?」
「はい…!旅のお方がここまで…!」
女将が宿屋の主人を担いでいる俺の方を見た。
トニーも合わせてこちらに視線を送る。
その視線に一瞬『嫌な』感じがしたのは気のせいだろうか…
「おお…これは旅のお方が!この街の医者として、御礼申し上げる。
ささ、彼を早く診療室へ!」
俺はトニーに促されるままに彼の住居と思われる建物から少し離れた建物の中へと移動した。
中は思いの外広く、さらに奥に扉がある。
「さあ、ここの診療台に彼を!」
とトニーが促す。俺は彼の言う通りに宿屋の主人を乗せた。
彼はかなり苦しんでいるようだ。
うめき声が心なしか大きくなったようだ。
「あとは私に任せて、あなた方は外でお待ちください」
と俺たちは診療所の外に出されてしまった。
◇◇
どれくらい経ったであろうか…
女将は待っている間、わなわなと震えており、その間サヤが優しく彼女の肩を抱いていた。
その間、しばらく続いていたうめき声は徐々に小さくなり、ついに全く聞こえなくなった。
するとトニーが診療所から出てきた。
少し青ざめた表情ではあるが、その顔に悲壮感はただよっていない。
女将がトニーにしがみつく。
「主人は…!?主人は無事なのですか!?」
トニーは顔を横に振って答えた。
「今はなんとも…しかし容体は安定しました。これから数日、私の診療所で様子を見てみない事には…」
「主人に会わせてください!」
「今はダメです。悪魔化の進行は少しずつ進んでしまっています。いつ理性を失って、あなたに襲いかかるか分かりませんので…」
「ううぅ…どうしてこんな事に…ううぅ…」
女将はそのまま泣き崩れてしまった。
トニーが俺たちの方に視線を移し、穏やかな声で
「私は女将と少しお話があります。あなた方は先にお宿にお戻りになってください。本当にありがとうございました」
と促すと、丁寧に頭を下げた。
その瞬間…
トニーの視線がキラリと光った。
やはり…こいつ…何か隠してやがる…
俺は直感的に察した。
俺はサヤを促し宿の方へ向かう。
トニーと女将はトニーの自宅へと入っていった。
それを確認した俺は
「…先に戻っていろ」
とサヤに命じた。
「ご主人さま…」
心配そうに見つめるサヤの頭をなでると、俺は来た道を戻った。
そして
「闇の精よ、我の息吹をその身を持って覆い隠せ!『ヒドゥン・シャドー』」
と魔法を唱えた。
みるみるうちに俺の姿が暗闇と同化していく。
そして影すらなくなると、完全に他人の視界から消えた。
俺はさらに
「忍び足」
とスキルを放ち、足音も完全に打ち消す。
そうしてまずトニーの家へと潜り込んだ。
◇◇
家の中は綺麗に整っていた。
潔癖な彼の性格を表しているかのような『完璧』な内装に俺は薄気味悪さを感じていた。
奥から声が聞こえる。
俺は扉の前に立つと耳を立てて中の会話を聞いた。
「原因は…何が原因なのでしょうか?」
「逆に女将にその覚えはありませんか?最近ご主人におかしなところは?」
女将がしばし沈黙する。
どうやら取り乱していた先ほどと比べ、だいぶ平静を取り戻しているようである。
「最近は…旅人や商人もめっきり減りまして…恥ずかしい話ながら、時間をもてあましていました。
主人は昼から酒場に通うようになり…」
女将の沈んだ声が聞こえる。
「そうでしたか…女将も苦労されているのですね…」
「いえ…苦労だなんて…そんな…トニーさんの方こそ、この流行病で昼夜問わずに大変でしょう?」
「私は…この街に拾われた身ですから…この街の人の為なら、こんなのなんともありませんよ」
人が悪魔化していくのが流行病。何か臭うな…
もう少し情報が欲しい。
するとトニーの声色が少し変わった。
「ところで女将さん…今回の診療の報酬ですが…」
「はい…そうですよね…うちには最近お金がないので…」
「そうですよね…しかし参ったな…僕にも先立つものがないと、ご主人の治療を継続していくのは…」
「お願いです!先生だけが頼りなんです!私なんでもしますから!」
「なんでも…ですか…」
まさかこの男…
俺の下衆な予想はその直後に見事に的中した。
「先生!!?な、なにを!!?キャア!」
「女将さん、先ほど何でもしますって言ったじゃないですか」
「でも…こんな…私には主人がいるの…やめて!」
「そのご主人を助けるためです。先立つものがなければ、せめて僕の治療意欲につながるようにしていただかなくては」
「そ、そんな…あ…あぁ…せ…せ…せんせ…い」
俺はこれ以上聞いていられない。
しかしここで助けの手を差し伸べたら、彼女の主人やその他の同じ病に伏せている人々の命に関わる可能性がある。
俺は静かに歯ぎしりをしてこの場を去った。
例え人間であっても悪魔の所業をするヤツは許さん。
いつかヤツの身も心も蹂躙してやる…
そう誓って、俺は隣の診療所の方へと移った。
◇◇
診療所内は静かであった。
診療台に数々の医薬品。
特に変わったものはない。
しかしあの壮絶な患者を治療した後とは思えないほど、全てが綺麗に整っていた。
俺は気になっていた奥の扉の方へと向かう。
そしてそのドアノブに手をかけた。
ガチャ
「…鍵…か」
残念な事に鍵がかかっているようだ。
強引に扉を開けようものなら、大きな音を立てて俺の侵入がばれてしまう可能性がある。
そっと扉に耳を立てて、中をうかがったが、物音一つしない。
「…手がかりは…なし…か」
俺は静かに診療所を出ると、宿の方へと戻っていった。
明日この街を出ようかと思っていたが、気が変わった。
あの下衆野郎に鉄槌を食らわさないと気が済まない。
この件を片付けてから街を出ようと一人決意を新たにしていた。
◇◇
「…ということで明日は早い。寝るぞ」
「そんなぁ…ご主人さまぁ」
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