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男 二つの緊急事態要請①
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春人達は、次なる国アクロポリス王国に辿り着いていた。
アクロポリス王国は、魔王領やギルド本部とも接していて強い冒険者が多い。
幻影都市 ホーウル
アクロポリス王国の王都で、文字通り街ごと周りから見えない。幻影都市ホーウルはギルド国家アイギスや魔王領、浸食地域とも接する危険な都市として認識遮断という防衛機能を備えている。それだけでなく街の脅威には凶悪な犯罪組織なども関係してくる。
アクロポリス王国の王都、幻影都市ホーウルは聖遺物の効果により許可証を持つ物にしか見えない。街を訪れる際には、一度、軍の駐屯地で調べを受けなければならない。
だが、この聖遺物は春人達には効かなかった。まずは強大なステータスを持つ者にはそもそも効かない。これにうららが該当した。うららが街を見つけ春人が王都全体を鑑定した。僅かでも自分の認識を阻害した者に対してのみ、視界が解放される。アルペンルートにてレベルが上がり、SPが足りるようになった事で、コユキは【 見えざるもの 】が使えるようになった。 この認識阻害の効果が許可証と同じ役割を果たす。そして、一度街を見た者に対してはこの効果の範囲外となる。
ただし聖遺物の本体で対象を定めれば、見える効果がリセットされ、むしろ、より強力な認識阻害の効果が掛かる。要注意人物などは王都を出る時にこの効果が掛けられる。
春人達はコユキの【 見えざるもの 】で問題無く王都に入っていた。そして、冒険者ギルドの大きな建物の中に入った。コユキだけが長旅でげっそりとしている。
「きみたちはスタミナが異常なんだよ。うちはもう疲れ果てたんだよ。」
「私は疲れてはいないけど、コユキの体調管理もリーダーの仕事よ。」
「……ここまで大分急いだからな。酒場もあるし、とりあえず休憩にしようか。好きな物を頼んで良いぞ。」
春人達は冒険者ギルドの酒場で、冒険者証を見せ、それぞれが飲み物を頼んだ。コユキは追加でデザートも注文する。
「……それと、あのおじさんが食べているデザートも下さいなんだよ。」
「残念ね。あれはここで出している物とは違うの。甘い物ならウーブリはいかがかしら?」
ウエイトレスの言葉にコユキが飛びついた。ウーブリは一般の子供でも食べられる人気のデザートだった。
「あるの? ウーブリは大好物なんだよ。」
「わかったわ。ちょっと待っててね。」
注文を受けギルドのウェイトレスがいなくなると、となりに座っていた男が、コユキにお菓子を渡す。
「お嬢さん。うちの商会の商品ですが、気になるなら食べてみますか? 一緒にいるお二人もどうぞニコピーです。」
「わーい。おじさん。ありがとう。」「「ありがとうございます。」」
春人が一口食べて目を丸くした。異世界とは思えない美味しいお菓子だったからだ。
「とても美味しいですね。甘味と酸味、それにふっくらとした食感とまろやかさ。複雑な味がします。」
「そうでしょう。私はロジェ。作り方は企業秘密なので言えませんが、私も久しぶりに王都に戻ったので、店に寄って来ました。」
「旅をしているのですか? 失礼ですが、目が……。でも見えているように動いていますし、その。」
全盲のロジェは最初からずっと目を閉じていた。
「余計な気遣いをさせて、すみません。そうですね。私は妻が一緒でないと目は見えません。ですが耳が良いので、ここでは声と勘で動いております。私には妻との間に子供が一人おりまして、現在行方不明なんですよ。妻と一緒に世界を巡り、それを探しているのです。」
「……すみません。悲しい事を思い出させてしまいましたね。不注意でした。」
「良いんですよ。むしろ知って頂けた方がありがたい。娘の名前はポーレットです。何かありましたらうちの商会にお知らせください。この街でニコピーを売っている店はそこだけですから。それでは失礼します。」
ロジェは頭を下げると椅子に立て掛けておいた剣を取り、席を離れた。うららとコユキがロジェの去り際に声を掛ける。
「ロジェさん。私も母を探しています。お互い早く見つかると良いですね。ごちそうさまでした。」
「おじさん。ごちそうさまでした。私は小さい頃から一人で生きて来たんだよ。きっと娘さんも元気なんだよ。」
ロジェはもう一度お辞儀をしてギルドから去っていった。春人だけは何も言わなかった。恐ろしくて固まっていたのだ。ロジェは妻がいないと目が見えないと言っていた。それなのに、まるで見えているかのように普通に歩いていたのだ。そして、ロジェの剣を見ると、鍔の部分がキョロキョロと周囲を確認していたのだ。まるで目玉のように。
「お待たせしました。飲み物とウーブリです。……お客様。どうかなさったのですか?」
ウエイトレスが固まっている春人を見て慌てている。王都のギルドは今、冒険者の変化には敏感な時なのだ。王都の冒険者達も正規のルートで街を訪れようとした冒険者も今は別の場所にいる。酒場には先程の男と春人達しかいない。
「……いや。気にしないでください。」
ウエイトレスは飲み物とウーブリをテーブルに置いて戻っていく。放心状態の春人と、気にせずにウーブリを食べるコユキ。
「嘘でしょ……春人の作ってくれる食事やさっきのニコピーに比べたら、私が今まで好物だったものが味気ないんだよ。うらら食べてみてなんだよ。」
コユキがウーブリを少し割ってうららに渡す。
「うっ。独特ね。甘くない小さくて固いホットケーキって感じかしら。」
春人達が休んでいるとそこにギルドの職員がやってくる。
「食事中ごめんね。白銀ランクと青銅ランクの冒険者様だよね?」
「……まあ。一応はね。」
「ギルドとしてお願いがあるの。」
「待ってくれ。白銀ランクに昇格させらた時に、何の制約もないと聞いたんだが?」
「ランクは関係ないよ。全ての冒険者がこの依頼を受ける義務がある。けど、今は高ランクの人にしか頼めない緊急事態が発生しているの。さっき冒険者証を見て、お願いに来た。」
「うっ。騙された。全ての冒険者に義務があって、その程度を判断されるのがランクか。ランク昇格で制約が出来るのと一緒じゃないか。……分かったよ。俺達もギルドを利用して依頼を出している身だ。話を聞く。」
「うん。まず、これは依頼ではない。緊急事態にギルドが発動した要請は断れないの。要請でなくとも国家レベルで危険が生じた時、冒険者はギルドの意向に逆らう事が出来ない。そして、やっかいな事に緊急事態要請がこの国で2つも重なってしまった。」
「仰々しいな。緊急事態が起こったらギルドの判断に命を委ねなければいけないのか。考えるやつがまともなら問題はなさそうだけど、ギルド職員が私利私欲に走ったらどうするつもりなんだ。……まあ、話を進めてくれ。」
「ありがとう。ひとつは『呪いの墓地調査要請』もう一つが『悪魔侵略の鎮圧任務』。」
「俺達には、どちらに参加しろと?」
「二手に別れて、どちらにも参加して欲しいのよ。これはミスリルランクでも手に余る要請かもしれない。……名前がまだだったわね。私はこの国のギルド責任者。アクロポリス王国王都ギルドマスター。ヴィッキー リー ラシェットよ。」
「ヴィッキーさん……俺達に死ねと?」
「達成出来なければ、それも仕方ないわ。けど今は全冒険者をその後で向かわせる根回しをしているから、冒険者全員が死ぬ事になる。」
「狂ってる。さっそくあんたの判断は問題だらけだな。やばいなら応援を呼んで勝てる形で――」
春人が意見をしようとすると、ヴィッキーの態度がガラリと変わった。苛立ちながら春人を睨みつける。
「いちいち、うるせえんだ小僧。お前は黙って言われた事に従えば良いんだよ。それともお前等のパーティーだけで世界のギルドを敵に回すつもりか? ……いいだろう。ひとつだけお前等が死なずに済む方法がある。今すぐにこの国から出ていけ。そしたら私は、要請をしなかった事として処理してやる。」
アクロポリス王国は、魔王領やギルド本部とも接していて強い冒険者が多い。
幻影都市 ホーウル
アクロポリス王国の王都で、文字通り街ごと周りから見えない。幻影都市ホーウルはギルド国家アイギスや魔王領、浸食地域とも接する危険な都市として認識遮断という防衛機能を備えている。それだけでなく街の脅威には凶悪な犯罪組織なども関係してくる。
アクロポリス王国の王都、幻影都市ホーウルは聖遺物の効果により許可証を持つ物にしか見えない。街を訪れる際には、一度、軍の駐屯地で調べを受けなければならない。
だが、この聖遺物は春人達には効かなかった。まずは強大なステータスを持つ者にはそもそも効かない。これにうららが該当した。うららが街を見つけ春人が王都全体を鑑定した。僅かでも自分の認識を阻害した者に対してのみ、視界が解放される。アルペンルートにてレベルが上がり、SPが足りるようになった事で、コユキは【 見えざるもの 】が使えるようになった。 この認識阻害の効果が許可証と同じ役割を果たす。そして、一度街を見た者に対してはこの効果の範囲外となる。
ただし聖遺物の本体で対象を定めれば、見える効果がリセットされ、むしろ、より強力な認識阻害の効果が掛かる。要注意人物などは王都を出る時にこの効果が掛けられる。
春人達はコユキの【 見えざるもの 】で問題無く王都に入っていた。そして、冒険者ギルドの大きな建物の中に入った。コユキだけが長旅でげっそりとしている。
「きみたちはスタミナが異常なんだよ。うちはもう疲れ果てたんだよ。」
「私は疲れてはいないけど、コユキの体調管理もリーダーの仕事よ。」
「……ここまで大分急いだからな。酒場もあるし、とりあえず休憩にしようか。好きな物を頼んで良いぞ。」
春人達は冒険者ギルドの酒場で、冒険者証を見せ、それぞれが飲み物を頼んだ。コユキは追加でデザートも注文する。
「……それと、あのおじさんが食べているデザートも下さいなんだよ。」
「残念ね。あれはここで出している物とは違うの。甘い物ならウーブリはいかがかしら?」
ウエイトレスの言葉にコユキが飛びついた。ウーブリは一般の子供でも食べられる人気のデザートだった。
「あるの? ウーブリは大好物なんだよ。」
「わかったわ。ちょっと待っててね。」
注文を受けギルドのウェイトレスがいなくなると、となりに座っていた男が、コユキにお菓子を渡す。
「お嬢さん。うちの商会の商品ですが、気になるなら食べてみますか? 一緒にいるお二人もどうぞニコピーです。」
「わーい。おじさん。ありがとう。」「「ありがとうございます。」」
春人が一口食べて目を丸くした。異世界とは思えない美味しいお菓子だったからだ。
「とても美味しいですね。甘味と酸味、それにふっくらとした食感とまろやかさ。複雑な味がします。」
「そうでしょう。私はロジェ。作り方は企業秘密なので言えませんが、私も久しぶりに王都に戻ったので、店に寄って来ました。」
「旅をしているのですか? 失礼ですが、目が……。でも見えているように動いていますし、その。」
全盲のロジェは最初からずっと目を閉じていた。
「余計な気遣いをさせて、すみません。そうですね。私は妻が一緒でないと目は見えません。ですが耳が良いので、ここでは声と勘で動いております。私には妻との間に子供が一人おりまして、現在行方不明なんですよ。妻と一緒に世界を巡り、それを探しているのです。」
「……すみません。悲しい事を思い出させてしまいましたね。不注意でした。」
「良いんですよ。むしろ知って頂けた方がありがたい。娘の名前はポーレットです。何かありましたらうちの商会にお知らせください。この街でニコピーを売っている店はそこだけですから。それでは失礼します。」
ロジェは頭を下げると椅子に立て掛けておいた剣を取り、席を離れた。うららとコユキがロジェの去り際に声を掛ける。
「ロジェさん。私も母を探しています。お互い早く見つかると良いですね。ごちそうさまでした。」
「おじさん。ごちそうさまでした。私は小さい頃から一人で生きて来たんだよ。きっと娘さんも元気なんだよ。」
ロジェはもう一度お辞儀をしてギルドから去っていった。春人だけは何も言わなかった。恐ろしくて固まっていたのだ。ロジェは妻がいないと目が見えないと言っていた。それなのに、まるで見えているかのように普通に歩いていたのだ。そして、ロジェの剣を見ると、鍔の部分がキョロキョロと周囲を確認していたのだ。まるで目玉のように。
「お待たせしました。飲み物とウーブリです。……お客様。どうかなさったのですか?」
ウエイトレスが固まっている春人を見て慌てている。王都のギルドは今、冒険者の変化には敏感な時なのだ。王都の冒険者達も正規のルートで街を訪れようとした冒険者も今は別の場所にいる。酒場には先程の男と春人達しかいない。
「……いや。気にしないでください。」
ウエイトレスは飲み物とウーブリをテーブルに置いて戻っていく。放心状態の春人と、気にせずにウーブリを食べるコユキ。
「嘘でしょ……春人の作ってくれる食事やさっきのニコピーに比べたら、私が今まで好物だったものが味気ないんだよ。うらら食べてみてなんだよ。」
コユキがウーブリを少し割ってうららに渡す。
「うっ。独特ね。甘くない小さくて固いホットケーキって感じかしら。」
春人達が休んでいるとそこにギルドの職員がやってくる。
「食事中ごめんね。白銀ランクと青銅ランクの冒険者様だよね?」
「……まあ。一応はね。」
「ギルドとしてお願いがあるの。」
「待ってくれ。白銀ランクに昇格させらた時に、何の制約もないと聞いたんだが?」
「ランクは関係ないよ。全ての冒険者がこの依頼を受ける義務がある。けど、今は高ランクの人にしか頼めない緊急事態が発生しているの。さっき冒険者証を見て、お願いに来た。」
「うっ。騙された。全ての冒険者に義務があって、その程度を判断されるのがランクか。ランク昇格で制約が出来るのと一緒じゃないか。……分かったよ。俺達もギルドを利用して依頼を出している身だ。話を聞く。」
「うん。まず、これは依頼ではない。緊急事態にギルドが発動した要請は断れないの。要請でなくとも国家レベルで危険が生じた時、冒険者はギルドの意向に逆らう事が出来ない。そして、やっかいな事に緊急事態要請がこの国で2つも重なってしまった。」
「仰々しいな。緊急事態が起こったらギルドの判断に命を委ねなければいけないのか。考えるやつがまともなら問題はなさそうだけど、ギルド職員が私利私欲に走ったらどうするつもりなんだ。……まあ、話を進めてくれ。」
「ありがとう。ひとつは『呪いの墓地調査要請』もう一つが『悪魔侵略の鎮圧任務』。」
「俺達には、どちらに参加しろと?」
「二手に別れて、どちらにも参加して欲しいのよ。これはミスリルランクでも手に余る要請かもしれない。……名前がまだだったわね。私はこの国のギルド責任者。アクロポリス王国王都ギルドマスター。ヴィッキー リー ラシェットよ。」
「ヴィッキーさん……俺達に死ねと?」
「達成出来なければ、それも仕方ないわ。けど今は全冒険者をその後で向かわせる根回しをしているから、冒険者全員が死ぬ事になる。」
「狂ってる。さっそくあんたの判断は問題だらけだな。やばいなら応援を呼んで勝てる形で――」
春人が意見をしようとすると、ヴィッキーの態度がガラリと変わった。苛立ちながら春人を睨みつける。
「いちいち、うるせえんだ小僧。お前は黙って言われた事に従えば良いんだよ。それともお前等のパーティーだけで世界のギルドを敵に回すつもりか? ……いいだろう。ひとつだけお前等が死なずに済む方法がある。今すぐにこの国から出ていけ。そしたら私は、要請をしなかった事として処理してやる。」
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