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男 食物連鎖②

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「悪いね。ゴブリンでは素材の剥ぎ取りが無いから、コユキに教えられない。」

 ゴブリン討伐では素材の剥ぎ取りはなかった。
 
 人型モンスターは凶暴で知能もある場合が多く、人に害を与えるという点に於いては最も有害だ。オスもメスも性欲を人に向ける事が多いらしい。だから冒険者は見つけたら最優先で討伐する義務がある。出来ない場合は報告が義務付けられている。

 危険度は高いがその反面素材がまったく取れない。皮は人と同じように薄い場合が多く、牙や爪も小さい。ゴブリン討伐で確実にお金になる可能性があるのが装備品だが、Eランク程度のモンスターでは上等な武器を持たない。
 もしくは、素材が取れたとしても魔石で、Eランクの魔物は青の魔石をかなりの低確率で持っているという話だった。魔石の色は青黄緑紫赤と右側にいくにつれて効果や価格の単位が跳ね上がる。

 それらとは別にどのモンスターにも運要素のドロップ品がある。
 
「あはは。もし、剥ぎ取れる素材があっても人型は逆に嫌だけどね。死骸はどうするんだ?」

「焼くしかないけど、魔法で焼くには大きすぎる。少し時間が掛かるな。」

「それなら、俺がアイテムボックスにしまうよ。」

 春人はそう言うとゴブリンの死骸をマテリア化した。無意識下でもゴブリンを食べようとは思わないので、肉すらも残らずにマテリア化に成功する。アイテムボックスに仕舞っているような動作をしているので、特に怪しまれなかった。ただし、入れすぎると今度は容量が問題になるが、六匹程度なので春人はあまり気にしていない。
  
 道中では、さまざまなモンスターに出くわすが、流石にアゴラ王国の公道とあって、どれもFランク程度のモンスターだった。国民が利用する道路は、人や馬車が踏む事で出来ている。本当は道とは呼べない代物だが危険な地域を避けているのだ。
 
「剥ぎ取りはずいぶんと上手くなったから、あとはコユキの魔法だな。これから休憩にして、その間にでも教えるか?」
 
「そうだな。頼むよ。」
 
「ありがとう。うち頑張るんだよ。」
 
 道から木陰に入ると、休憩中にコユキの魔法レッスンが始まる。

「コユキは魔法を試した事はないのか?」

「小さい頃は教えて貰った事もあるんだけど、その時はLv1だったんだよ。」

「そうか。では、まず普通は掌に、魔術師なら杖に魔力を集める。」

「分かったんだよ。」

「次に呪文だ。あの木に当てるぞ。【アクア 弾丸ブレット】」 
 
ヴァンサンの直径5㎝くらいの【アクア 弾丸ブレット】が、木にぶつかると僅かに木の皮を抉る。

「こんな感じだ。とりあえずやってみろ。」
 
「分かったんだよ。【アクア 弾丸ブレット】」

 コユキの杖からは何も出る気配がない。リアが後ろから口を挟んでくる。

「初心者は魔力を集めるだけじゃ駄目だよ。まずは体に魔力を循環させるイメージを持たないと。それが出来てから掌に魔力を集める。次にその延長の杖に流す。ちょっと待って、まず魔力が分かりやすいように私の魔力をコユキに流すね。」

 リアがコユキの体に触れて、意識を集中する。コユキの短い髪が僅かに揺らいだ。コユキは魔力を感じ、体内で循環させる。それを手の先にある杖にまで流した。

「【アクア 弾丸ブレット】」
  
 その瞬間、直径15㎝くらいの【アクア 弾丸ブレット】が勢いよく木にぶつかっていった。真のトゥルー友情コムラーズの面々がそれを見て驚いている。リアも大口を開けてびっくりする。

 そして、コユキの肩を揺さぶった。
 
「え? ……ブレットだよね? あんな大きなブレットは見た事がないよ。それに威力も……木に穴が開いてるじゃない。」
 
ヴァンサンもコユキに近づいて興奮している。
 
「コユキお前、天才かっ。……本当にはじめてがアレなのかよ。」

レンが的だった木に近づき、穴を覗いている。
  
「この穴深いぞ。中に30㎝以上は抉れてる。凶暴なモンスターでも、これが急所に当たったら一発だな。」
 
コユキはその現象に心当たりがあった。店売りの物を春人が新たに作り直した魔法用の杖。聞き間違いだと勝手に納得していたが、それには天球スフィアも付いているらしいのだ。だが、同時にそんな事は絶対に言えないと思った。
 
「これが最初だから、うち力を入れすぎたんだよ。だから、たまたまなんだよ。」
 

 真のトゥルー友情コムラーズのメンバー達がコユキを褒め称えていた。普通を知らない春人やうららもそこに加わり一緒に喜んでいる。

 だから、気付かなかった。四方から近づいて来るその集団を。気付いた時には全てが遅すぎた。

 最初は斥候を兼ねている遠目のシンがそれに気づいた。遠目を使う程それは遠くはない。もう十分に肉眼でも確認出来る。 

「やばいぞ。盗賊団だ。……数が多い。囲まれてる。」

 盗賊の一人が大声で叫んでいる。
 
「俺達からは逃げられねーぞ。皆殺しにしてやる。」
 
リーダーのヴァンサンが状況を把握するまでに時間は掛からなかった。
 
「進路は南。全員でその方角に進め。ただし、俺が先頭で真のトゥルー友情コムラーズのメンバーは並列して、その後に続く。一番後ろがジロウさんと春人達のパーティー。真のトゥルー友情コムラーズは後続の進路を確保。俺達が道を作ったら春人達はジロウさんと共に逃げてくれっ。」
 
「逃げる必要があるのか? 逃げる必要があるなら、なぜ俺達だけを逃がすんだ。」 

「報酬の大きさもある。それだけ、冒険者に期待してくれたって事だからな。期待には応えたい。だから死んでも春人達を逃がすさ。後は単純に依頼が楽しかった。気付いてないのかも知れないが春人達は良い奴だ。この世界で依頼を出す側が、依頼を受ける側と対等に接するなんてまずあり得ない。」
 
 春人が黙っている間に、レンジロウがヴァンサンに反論した。

「ヴァンサン。その命令には従えない。俺を特別扱いするのはもうやめてくれ。ヴァンサンに救われた命なんだから、ここで仲間と一緒に死ぬのも悪くない。」 
 
「……逃げる必要なしっ。ヴァンサン。俺はお前達が気に入った。俺もお前達を絶対に殺させない。」 
 
「馬鹿を言うな。装備品をよく見ろ。あれは盗賊団じゃない。強盗団バンディットだ。強盗団バンディットは単なる盗賊団よりも恐ろしい。人から略奪する事だけを目的とした戦闘集団。それが30人もいたらレザーランクの冒険者では太刀打ち出来ないんだよ。」
 
「大丈夫だよ。」
 
「話を聞いてくれ。強盗団バンディットのレベルは相場が決まってる。だいたいはLv40~Lv59まで。ランクにするとカッパーアイアンな事が多いんだ。この規模の集団の討伐となると最低でもスチールランクのパーティーが二つ。単独パーティーで挑むなら、青銅ブロンズ以上が望まれるような相手だぞ。頼むから言う事を聞いてくれ。」

「なんで決まってるんだ?」
 
「奴らも常にこの規模ではいない。レザーランク程度での略奪はリスクが高いんだ。逆にスチールランクくらいの力があれば冒険者をやった方が儲けが良い。もう説明している時間がない。行くぞ。」
 
「駄目だ。それは断る。うらら出番だぞ。【ウェントス  弾丸ブレット】」

 春人の風魔法がバンディットの太ももに命中し貫通した。叫び声をあげながら倒れている。

「なっ? 戦闘には期待できない最弱の剣士だって!? 風の初級魔法に貫通する程の威力はないはずだぞ。もしや、凄腕の魔術師なのか!?」

「いーや。最弱の剣士だよ。うららと比べたらな。」
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