生まれることも飛ぶこともできない殻の中の僕たち

はるかず

文字の大きさ
上 下
16 / 23
第一章 誕生日おめでとう

第16話 雨のち歌

しおりを挟む
3つの卵はふかふかの羽の上
卵のピヨとルヴナンとレアールは白鳥の背に乗って泉を越えていた
ぽつぽつ、と卵を叩く音が三つの卵の殻にした

「雨だ……」

ルヴナンが空の方へ卵を傾けて言う
その殻を叩く音で、ピヨは初めて雨を体感した
風とは違う、少しびっくりするような痛みに近いひんやりした感覚だった
流れていく小さな粒を受け、卵にあたる音がトントントンとリズムを刻む
ピヨはその音のリズムがなんだか楽しくなって、卵を揺らし、いつもルヴナン達が歌うように、自然と歌いだした

ぽつぽつと 雨が降る
雨は塊になって 粒となり
大きな卵のように膨らんで
大きな水の塊に

そう歌いだすと、レアールが怖ろし気な低温で、ピヨの後ろから忍び寄って呻くように歌いだした

雨の塊は 青く深い影となり
怖ろしい深き塊となって すべてを飲み込む
青の中は熱く 煮えるようだ
中に入れば何度叫んでも 響かない
怖ろし気な 影 影 影
青い影

ピヨが歌で卵をプルプルし出すのを見て、レアールが意地悪げに笑った
やや呆れてルヴナンがレアールの歌の途中から入って歌を独占した

雨の形はまん丸で
美しさと輝きを与える 宝玉の形
僕たちの殻を叩いては 優しき母の歌声のように
早く出ておいでと囁くのさ

ピヨはじぃんとルヴナンのアルトな美声に酔いしれた
レアールがつまらなさそうにちぇっと言う
ルヴナンが怖がっていたピヨに、優しく言った

「ピヨ、いつの間にか歌えるようになったんだね」

そうだ! と、ピヨ驚いた。そう、ピヨはいつの間にか歌えるようになっていた
いつかルヴナンのように歌えたらと思っていたピヨ
そのルヴナンの美声の少しに近づけた気がしてピヨはなんだか誇らしい気持ちだ
レアールが意地悪気に誉めそやし、ルヴナンは歌のアンコールをピヨにする

ピヨは照れ臭くなって なんだか卵の殻が熱くなるのを感じてしまった
そして、アンコールに答えて歌いだす

ぽつぽつと、雨が降る……

3つの卵が白鳥の羽の上で、ハーモニーを奏でて一緒に歌ったのだった
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

R:メルヘンなおばけやしき

stardom64
児童書・童話
ある大雨の日、キャンプに訪れた一人の女の子。 雨宿りのため、近くにあった洋館で一休みすることに。 ちょっぴり不思議なおばけやしきの探検のおはなし☆

シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。 以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。 不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

ボクんちの先生。もとい、先生んちのボク。

紫 李鳥
児童書・童話
先生には、ある口癖があります。さて、それはなんでしょう?

処理中です...