生まれることも飛ぶこともできない殻の中の僕たち

はるかず

文字の大きさ
上 下
10 / 23
第一章 誕生日おめでとう

第10話 生き残ってしまった卵

しおりを挟む
 蛇――と呟いた彼はレアールと名乗った
 レアールはトラウマを思い起こすようにブツブツと体験を語りだす
 それは、レアール自身が巣の中で体験した、恐ろしい思い出だった

 その日、レアールは母親の帰りを待ちながら、他の子達と話していた
 しかし、全員が突如押し黙ってしまう
 それもそうだった、何かが巣に入ってきたのだ
 それは黒く長い影のような存在だった

 その影は影を大きくしては、兄弟である卵を吸い込んでいった
 自分の兄弟の生命が一つ、また一つと影の中に吸い込まれて消えていく
 卵の中で次の番を待つように、その恐ろしい影の存在が近づいてくるのがわかる
 ついにいつも隣で話していた兄弟の卵が、ずるずると影の中に吸い込まれていく
 長い影はうねりながら、食べた分だけ巨大な影になっていく
 隣の兄弟が影に消える時に、叫び声を聞いた

――蛇だ!逃げて……!

 それが兄弟の最後の言葉だった
 吸い込まれていくのを感じ取りながら、卵の中で震えていた

 突如、母鳥のけたたましい声と、闘争の音がした
 帰ってきた母鳥に希望を持ちながら、震えて終わるのを願った
 突如、フワッと自分の卵が宙に浮き、大地に引き寄せられて落ちていく感覚がした。
 聞いたこともない騒音と、自身の意識が回るような感覚に襲われた

 騒音が収まると、逆に全く静かになった。しかし、恐怖は収まらなかった
 そのまま、ずっと恐怖が過ぎ去るのを待っていた
 しばらくして、朝の陽光が優しく卵を温める感覚がすると、恐怖がおさまった
 冷静になって、自分が巣から放り出されたことに気づいた
 母親が迎えに来てくれるのをしばらく待った
 きっと生きていると思いながら、願うようにその場から動かず待っていた
 しかし、母が迎えに来ることはなかった

 レアールは、自身が死んだように思えた。だが意識があった
 胸が苦しくて、兄弟の断末魔が響き、頭に混乱が生じる
 生きている、生きている、生きている……みんなは蛇と呼ばれる影に飲まれたのに!お母さんが、隣で話していた兄弟が、影へと飲まれ消えていった
 レアールは生きているのに、心が空っぽになった
 どうして自分だけ生きているんだろう
 どうして……どうして……
 ただ胸に渦巻く悲しみと過ぎていく時間だけが、生きている自分の行動だった
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

R:メルヘンなおばけやしき

stardom64
児童書・童話
ある大雨の日、キャンプに訪れた一人の女の子。 雨宿りのため、近くにあった洋館で一休みすることに。 ちょっぴり不思議なおばけやしきの探検のおはなし☆

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。 以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。 不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

ゆうれいのぼく

早乙女純章
児童書・童話
ぼくはゆうれいになっていた。 ゆうれいになる前が何だったのか分からない。 ぼくが帰れる場所を探してみよう。きっと自分が何だったのかを思い出して、なりたい自分になれそうな気がする。 ぼくはいろいろなものに憑依していって、みんなを喜ばせていく。 でも、結局、ゆうれいの自分に戻ってしまう。 ついには、空で同じゆうれいたちを見つけるけれど、そこもぼくの本当の居場所ではなかった。 ゆうれいはどんどん増えていっていく。なんと『あくのぐんだん』が人間をゆうれいにしていたのだ。 ※この作品は、レトロアーケードゲーム『ファンタズム』から影響を受けて創作しました。いわゆる参考文献みたいな感じです。

ボクんちの先生。もとい、先生んちのボク。

紫 李鳥
児童書・童話
先生には、ある口癖があります。さて、それはなんでしょう?

【総集編】童話パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。童話パロディ短編集

処理中です...