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二章 Aルート(通常)

刷り込み

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今のところ敵対心は感じられない相手のリーダーの問いかけに対し、俺は素直に答えた。

「私たちは両腕ともう片方の足、そして二十三個の部品を持っている。」

 すると相手のリーダーの顔が晴れやかになる。

「本当か!?もしそうならやっとこの仮想現実から抜け出せる!!!」

 リーダーに続きそこにいた数十人全員が歓喜の声をあげた。

 (ここにいる人たちは頭脳コロシアムの参加者であるジェン都の人々だな。烏合の衆で助け合って生き延びてきたのだろう。)

 歓喜していた相手リーダーは一通り喜び終えると再び話しかけてきた。

「取り乱してすまない、申し遅れたが私の名前はヘーニオ。君は?」

「私は上之手福かみのてさきだ。」

「そうか、じゃあ上之手さん。早速なんだがお互いが持っているパーツを合体させないか?」

 (本当に早速だな。)

 だが、それ以外この人たちとやることもない。俺はその提案に従った。

「ああ、構わない。」

「ありがとう。では選りすぐりの技師の者を呼ぶよ。」

「こちらからも一人技師を参加させてもらってもいいかな?」

「それはこの大事な局面に対応できるほどの技師かい?」

 ヘーニオがこう言うのは、これが命をかけてやっと集めた部品を合体させる作業だからだ。半端な気持ちであったり、技術がなかったりすれば合体させることは不可能。最悪の場合パーツの破損にもつながる。

 (だが、テリーにはこの作業ができると俺は信じている。)

 俺はテリーを信じてヘーニオに返事をした。

「そうだ。」

「そうか。ならば了解した。」

 ヘーニオは俺の顔から意思の硬さを読み取ったようで、テリーに合体作業に参加させることを認めた。ヘーニオの仲間の一人とテリーは事情を説明され、合体作業に入った。残りの者たちは固唾を飲んでその作業を見守るか、或いは周りからくる魔物を警戒している。

「あとは、これで……!」

 数十分が経過して、最後のパーツをテリーが差し込んだ。

「やった……できた!遂にできたよ!!」

 興奮した声でテリーはそう叫んだ。完成した機械は銀色の人型ロボットという感じだった。

 (さあ、ここからどうなる?)

 その場の全員が再び緊張状態で見守っていると機械の眼の部分が緑色に光り、起き上がった。

「う、動いたぁ!!」

 テリーが嬉しそうに一番に声をあげると、機械はテリーに向き直って言った。

「マスター、私に名前をください。」

 急に喋り出した機械に一同は驚愕した。もちろん、話しかけられた当人であるテリーが一番驚いていた。

「え、え、僕がマスター?」

「はい。あなたは私のマスターです。どうか名前をください。」

「なんで僕なの?」

「それはマスターが私の近くにいてくれたからです。」

 (まるで刷り込みだな。)

 刷り込みは動物が生まれた時に一番最初に見た者を親と思いこむ習性のことだ。

 (テリーはあの機械が意識を持って最初に言葉を発した。それが刷り込みのトリガーとなったのだろう。)

 テリーは納得できない顔でいたが、機械に名前をつけることには慣れていたため、少し悩んだあとすぐに名前を言った。

「じゃあ君はラファだ!」

「ラファ、とてもいい名前ですね。」

 ラファはそう言うと、銀色の体から姿が変わり、綺麗な女性に変身した。一同の驚愕は絶えない。

「私は今日からラファとしてあなたの元で生きていきます。」

「そ、そんな!君は好きなように生きていいんだよ!」

「はい。ですので私は好きでマスターの元で生きるのです。」

「わ、わかったよぉ。じゃあラファ、君も今日から僕の家族だね。」
 
 機械らしからぬ情熱的なアプローチで迫られたテリーは顔を真っ赤にしてラファを受け入れた。

 (テリーがラファと幸せムードになったのはいいが、結局ラファを完成させてどうなるんだ?)

 ラファという従順な機械が優勝商品であるという可能性はある。だが、優勝が決まったならこの仮想現実が終わるはずなのに、何も起こらない。

「どうなってるんだ?」

「機械を完成させたら終わりじゃなかったのか!?」

「機械娘!何か知らないのか!」

 ヘーニオたちの仲間の間にも段々と剣呑な雰囲気が漂い出した。ラファに対する質問のような声もあったがラファはそれに全く応じない。

「テリー、君からラファに色々質問をしてくれないか?」

「え?それはいいけど、どうして僕からなの?」

「おそらくラファはマスター以外、つまり君以外の言葉には耳を傾けないように設定されている。」

「だからさっきからずっと黙ってるんだね。わかったよ!何を聞けばいいかな?」

 (そうだな。やはりここは頭脳コロシアムの終わらせ方を聞くのが最優先だな。ヘーニオの仲間たちもそれが一番気になるようだし。)

 俺はテリーに頭脳コロシアムに聞くように言った。

「ラファ。」

「はい、なんでしょうか。マスター。」

「や、やっぱりマスターってのは恥ずかしいからテリーって呼んでくれない?」

「わかりました。テリー、どうしましたか?」

「うん。ラファは頭脳コロシアムって知ってる?」

「はい、知っています。今私たちが置かれているこの仮想現実を舞台とした殺し合いですね。」

「そうだよ。それでなんだけど、頭脳コロシアムの終わらせ方って知ってるかな?」

 テリーが終わらせ方を聞くとラファの態度が急によそよそしくなった。

「はい。知っています。頭脳コロシアムを終わらせますか?」

 (この急な態度の変わりよう、頭脳コロシアムの終わらせ方を聞いた者に対しての対応が予め設定されていたようだな。)

「福くん、どうすればいいかな?」

「終わらせる方法を聞いてくれ。」

「ラファ、頭脳コロシアムを終わらせる方法は?」

「頭脳コロシアムを終わらせますか?」

 (やはりプログラミングされているな。しかも一度この状態に入ったら答えを出すまで他の話ができないタイプ。終わらせ方は不明なのは若干不安だが、終わらせる希望が他にない現状、ラファに縋り付くしかない。)

「テリー、終わらせてくれ。」

「わかった。ラファ、頭脳コロシアムを終わらせるよ。」

「了解。これより仮想現実のフィールド改変を行います。」

 急にラファの体から光が溢れ、そのにいた全員は視界が真っ白になった。

 (なんだこれは!)

 俺は敵の攻撃を警戒して、自分に対する攻撃を設定とした"瓦解"を発動しておいた。しかし、何事もなく視界が元に戻り、俺たちの前に広がっていたのは真っ白でまっさらな大地だった。

「なんだここ?」

「何が起きたんだ?」

「ここは仮想現実なのか?現実なのか?」

「ラファはどこに?」

 各々がいろんな疑問を浮かべる中、一人が空を指差して大きな声をあげた。

「あそこに何かいるぞ!」

 一同が見上げると、そこには見覚えのある仮面を被った少女がいた。
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