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二章 Aルート(通常)

人間失格

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「いくらこの頭脳コロシアムの主催者だからってそんなことが許されると思うなよ!」

「調子に乗るな!!」

「そんな戦闘誰がやるか!」

 コロシアム参加者から様々な罵詈雑言がベインに対して放たれる。

 (急に殺し合いって言われたらそうなるよな。というかこんな話が実際にあるとは。)

「さ、福くん。どうしよう、僕たち負けたら死ぬって……さすがにリタイアしようか?」

 さっきまで緊張に満ちている様子だったテリーは今度は恐怖に満ちている。

「テリー、残念だがリタイアはできないと思うぞ。」

 もしリタイアが出来るならここにいる者たちは全員リタイアするだろう。そうなればこの頭脳コロシアムは意味を失くしてしまう。

「なんでそう思うの?」

「ここら頭脳の都だぞ?その長たるものがそんな初歩的なミスを犯すとは思えない。」

「でも、そんなこと招待状には書かれて……」

「だが、リタイアできるとも書かれてなかっただろう?何かしら対策があるのはずだ。」

「何かしらって?」

 (スキルの判別にもよく使う用法だが、物事には必ず種や仕掛けがある。そして、種や仕掛けには違和感が付きものだ。そう考えれば自ずと答えは見えてくる。)

「例えば、最初に着用を義務付けられた仮面とかな。」

 俺は今回の違和感をそこに感じた。

「仮面?この仮面がその対策なら外せば……あれ、外れない。」

 (やはりそうか。それに"状態異常回復"を使っても効果はない、少なくとも体に異常はきたしていないようだ。)

 俺たちの他にも仮面が外せないことに気づいた者がちらほらと現れ、会場のどよめきがピークに達した時、ベインがまた喋り出した。

「気づいた方もいるようですが、今回の頭脳コロシアムはリタイア不可能でございます。入場時に着用していただいたその仮面にはある仕掛けがございまして、そのおかげでコロシアム終了時まで皆様のお顔から外れることがありません。」

「はあ?ふざけんなよ!!」

「お前は都長失格どころか人間失格だ!!」

 またしてもベインに対する暴言が殺到した。しかし、今度はベインも反撃した。

「人間失格?それはお前たちの方だろうが!」

 急な口調の変化に会場が静まり返る。

「お前たちジェン都の奴らは魔族との戦いでの参謀を任さたとき、前線に置かれた者たちの気持ちが全くわかっていなかった。なぜならお前たちは戦闘員を駒としてしかみていないからだ。」

 (なるほど、そこに今回の頭脳コロシアムの初期衝動があったわけか。)

「だからこそお前たちは今回の頭脳コロシアムで知るべきだ、人の痛みを。」

「くそっ……」

 会場の全員はベインに言い返せずにいる。どうやら自分たちの非人道的な部分に気づいてはいたようだ。

 (だが、自分の非人道さに気づいてはいてもスキルの呪いのせいで思考が上塗りされてしまうのだろう。)

 この頭脳の都にいる者たちのスキルは大体が補助系だ。補助と言うと人を助けるという意味がパッと浮かぶが、戦闘において考えれば自分が前線に立たないということである。補助をした後は他人任せ、つまり自分本位であり、他人を駒として見てしまう人間たちが出来上がってしまうのだ。

 (テリーのようにスキルの呪いからある程度逸脱できる存在もいるが、それはごく少数だろう。)

 だが、スキルの呪いがあろうが事実ここにいる者たちの大半が冷酷な人間だということはたしかだ。ましてや、スキルの呪いの存在を知らなければなおのこと許せない者もいるだろう。

「あっ、取り乱してしまい申し訳ありません。ではルール説明をさせていただきます。」

 会場の雰囲気とは真逆の落ち着いた雰囲気でベインは口調を整え、ルール説明を始めた。

「殺し合いと言いましたが、何も人と人の殺し合いをさせるわけではありません。先ほど申し上げた通り、私は皆様に実際の前線に立つ者の気持ちを知ってほしいのです。つまりは、魔物と殺し合いをしていただくというわけです。」

 会場の者たちに少し安堵の表情が見える。人との殺し合いよりは魔物との殺し合いの方がいいようだ。

「助手を連れてきてもらったのも、通常一人で魔物と戦うという状況はないからです。なので助手と連携して魔物をやっつけてください。ただ……」

 急に言葉を切り、ベインは次の発言への注目を最大限に高める。

「人を殺すのも問題ありません。」

 この発言で場の雰囲気は再び恐怖に満ちた。

「魔物と殺し合う上で邪魔な人や、自分に恨みを持っていそうな人が居ては集中できないでしょう。前線でも人同士のいがみ合いが殺し合いに発展することは多々ありますので。」

「そんな戦闘をこの街で行ったらコロシアム参加者以外の人間も大量に死ぬことになるぞ!!」

 一人の参加者が叫ぶ。

「あー、そこはご安心ください。この頭脳コロシアムは現実ではなく、仮想現実で行われますので。」

 (仮想現実だと?)

「仮想現実って、先代の都長が構想したとされるあの仮想現実か?」

「そうです、その仮想現実です。私の代で完成させました。知らない方のために説明しておくと、仮想現実とは今皆様が着用されている仮面と皆様の脳を繋いで皆様の脳に直接見せる空想の世界のことです。」

 (まんま前世の仮想現実だな。やっぱり頭のいいやつが行き着く場所は同じなんだろうか。)

「ただ仮想とは言っても仮面が脳と繋がっていますので、仮想現実での肉体及び精神ダメージは現実の本体に脳からフィードバックされます。なので仮想現実で死ぬと現実の身体も心も死んでしまいます。」

「ひ、人でなしめ……。」

 一人の参加者が呟く。

「いえ、私は人です。そして皆様も人でございます。人が罪を犯し、人が罪を裁くのがこの世界ですから。」

 (真理だな、神がいなければ。)

 俺はベインのその言葉に対してなぜか親近感を覚えた。だが、そんな俺の気持ちを知る訳もなくベインは話を続けた。

「最後のルールです。今回の仮想現実にいる魔物はドロップ品を落とす個体かいます。その中でも非常に強力なボスモンスターと呼ばれる数体の魔物は、倒すと特別なアイテムをドロップします。それらのアイテムをゲーム終了時に全て持っていた人がこの頭脳コロシアムの優勝者になります。」

 ルール説明を終えるとベインは右手を挙げ、何か合図を送ったようなジェスチャーをした。

「細かいルールは存在しませんのでとにかく痛みを知ってきてください。それでは。」

 ベインが最後にそう言うと俺たち参加者の意識は途絶えた。
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