そしてふたりでワルツを

あっきコタロウ

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外伝(むしろメイン)

外伝二   ストロベリー☆パニック!(2)

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「あぁ!? なんっじゃっ、こりゃあ!」

 翌朝、もともとよく響く声をしたマリクの全力の叫びが、吾妻邸の敷地全土にこだました。
 屋敷を揺らす大音量に釣られてやってきた奥様は、片手にぬいぐるみを抱いて、透けたパジャマに素足で眠そうに目をこする。まだ半分寝ている様子。

「おはようマリク。大きい声がしたけど……ほわぁ、これなぁに?」

 マリクとカミィの視線の先。そこには、まるで海のごとく、しかし何者の侵入も許さないというようにみっちりと……いちごの葉がひしめき合っていた。
 庭中を覆い尽くすその葉は、密度によってミシミシと音を立てそうな質量。

「うん。成功だ」
 固まるふたりの横から顔をだしたのはお屋敷の主人。白衣の裾に、土汚れ。

「お前の仕業か!」
「どんどんいっぱいになるねぇ」

 袖を引かれ振り返ると、葉と茎はゾワゾワと触手のように動きつづけ、少しづつその量を増し、いつのまにやら足に這い上がり絡みついて。

「うおおいっ!」

 飲み込もうと誘う緑色を蹴り落とし、急いで屋敷へ避難。ドアをロック。
 犯人はといえば、悪びれる素振りなくへの字型に目を歪ませている。

「一体何しやがったテメー。変なもんつくりやがって!」
「少量の苗で最大限に実をつければ収穫効率が」

 満足な説明を聞く間もなく、ガタン! と音がして、閉めたドアが外からの圧力でまた開きかけている。
 マリクは急いでドアを背中で抑え、

「どうやったら止まるんだよこれ!」
「苗ごと燃やせば止まるよ」
「クソっ、行ってくる! マッチ寄越せ!」

 ジュンイチは、はい、とそばの引き出しから取り出して投げて寄越す。

 受け取って、マリクは蠢く海へダイブ。
 右手で葉を掻き分け、左手で茎を引きちぎり、押し返そうとする緑の物体に負けじと前へ、前へ。

 なんとかプランターまでたどり着いて、すでに愛着がわきはじめていたいちごの苗を引き抜き、その根に、火を。

「クソっ、あぁ、クソっ!」

 水分を多く含んだ根は派手に燃え上がりはしないが、炙り続けるとジワジワと焦げていく。
 焦がせば焦がすほど、いきり立っていた大量の葉達も徐々に力を失い萎れ。
 数本のマッチを使いきって苗を燃やしきったらば、庭には動かぬ植物が眠るように地に伏すのみ。

「あーあー。どうすんだよこれ」

 眼前の惨状に途方に暮れる。
 足の踏み場が無いほど増殖した葉の掃除は、一日がかりでやらなければならなそうだ。





「本日の仕事は私に任せて、マリクさんは庭をお願いします」

 セバスチャンに事情を説明すると、予想通りの返事。
 
 ただでさえ人手の少ない吾妻邸で、こんなことに人員を割けるはずはなく。
 謎の薬品の尻拭いを、マリクはひとりですることになった。

 鎌を片手に容赦なく、雑草と化した葉を刈り取っていく。
 ある程度のかたまりになったら、設置したドラム缶につめこんで火を放つ。
 朝からはじめて、昼を過ぎても、やっと庭の半分がもとの様相を取り戻した程度で。

「腰がいてえ」
 丸一日の草刈りは、想像以上に重労働。

 でも、庭をつくるのは楽しかった。庭が元に戻ったら、またはじめからいちごの栽培にチャレンジしてみよう。
 ただし、今度は絶対に、【ジュンイチ立ち入り禁止】の看板を立ててやる。
 マリクは固く、決意した。

 外伝二 END
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