52 / 73
外伝(むしろメイン)
番外五 お客様のはなし
しおりを挟む
メイン:スラム組 ジャンル:COOL!
****************************************************
立ち並ぶ家屋から漏れ聞こえる、酔っぱらいの呻く声。道の端で倒れ込み、死んでいるんだか寝ているんだかわからない人。転がる酒瓶に、舞う砂塵。
空気に色がついたなら、きっとこのあたりは他より一層薄暗く見えるだろう。
そんな通りにゆらり揺れる、大中小のみっつの影。彼らの呼び名はデコ、ボコ、マリク。最近どこへ行っても噂を聞くようになった、台頭中の金貸しチーム。
不愉快な空気を切りひらき我が物顔で歩んでいた三人は、一軒の家の前でそろって足をとめた。
「ここですか。ボコがひとりで取り立てできない家というのは」
「ああ。ずいぶんグズつきやがるらしい」
忌々しそうにドアを睨めあげ、グルルと鋭い犬歯を剥き出すマリク。その横で、頬にガーゼを貼ったボコがウンウン、ワンワンと首を縦に振る。
「まったく。借りたもんは返すのがあたり前ッスよね」
「あぁ。けど、お前もお前だ。取り立て行って殴られて帰ってくるたぁ情けねー」
「えへ。ボコだけに、ボコボコ? なんつって」
「馬鹿!」
ボコの頭上にげんこつが落ち、ボコン、と飛び散り踊る~☆。
「まったく。ふざけてねーで行くか」
「はい」
「おッス」
部下が頷いたのを確認し、マリクはドアをハイキック。踏み込んだ室内は、このあたりの住宅にしては比較的家具が揃っていて、借りた金を返す余裕が無いようには思えない。こういうところに住んでいるのは、そもそも返すつもりが無いタイプ。
部屋のなかほどにあるベッドから、人の気配が漂っている。
ボコが一直線にベッドへ向かい、丸く膨らんだ毛布をテーブルクロスよろしく引き剥いだ。
「今度こそ金返せ! 借金取りりたーんず!」
パーティのはじまりを告げる、かすれた声の脅し文句。
毛布に包まり眠っていた男が目をさまし、声の主をとらえて刹那。落ち窪んだ瞳が高圧的に歪む。
「お前、また来たのか。何度来たって同じだ。金は返さな」
「ふざけんじゃねぇコラ!」
男が全て言い終わる前に、ボコのうしろからマリクが飛び出した。
そのままのスピードで男に膝蹴りの朝食を。寝起き一発目の重い一撃、みぞおち目掛けて、召し上がれ!
「俺らがガキだからって舐めてんじゃねーぞオイ。借りたもんは返すのがたりめーだろ大馬鹿野郎」
ごちそうさまにはまだはやい。胃もたれに苦しむ相手に追撃も。腹を抱えてうずくまる相手の頭を掴み、ベッドのヘッドボードへ打ちつけたらば、アルミパイプがカーンと甲高い音をたてる。スラムはいつでも弱肉強食。マナーを気にする暇なんか無い。
「っつ……!」
後頭部をさすり起きあがる男は顔を赤くしてご立腹。
男にとって、ガキが集まり金貸しをしてるという噂は空腹な私腹にネギを背負ってやってきた弱肉だったんだろう。
借した金は娯楽と化したか。ベッドの周囲にはいくつもの酒、つまみ、煙の出る葉。満腹で一服はさぞや至福に違いない。転がる酒瓶は至高の嗜好品だとひと目で分かる高級ブランドのブランデー。
「この、クソガキ!」
男は怒声で喚き散らし、豪勢な酒瓶を掴み振りあげる。そのうしろから、
「そこまでだ。借りた金を返さないお前が悪い」
まわり込んでいたデコが、男の手首を掴んで捻る。
「クソッ、もうひとり居たのか!」
「デコ、ここ任せるわ。俺とボコは奥のほうガサってくるから」
「了解です」
マリクとボコは、隠し金や、金のかわりに奪えそうなものを探しに連れ立って家の奥へ。ふたりの背中を見送って、デコは男をベッドから引きずり下ろし、床へ組み敷いた。暴れる男にラストオーダー。握りこぶしを食らわせて、デコはふと、動きをとめた。
「あれ……あんた……」
男の顔に見覚えがある。
男のほうはデコのことが分からないらしく、胡乱な目をして怪訝な表情。
それもそうか。分からないように姿をかえたのだから。と、デコはヒントを口にする。
「花園の経営は順調ですか?」
「あ? あんた客か? おかげさまで細々とやってるよ」
途端、男はパッと軽快な表情。奥にチラと目を向けて警戒の素振りを見せてから、デコにしか届かないような小声で、
「な、見逃してくんねーか?」
「それはできません。知り合いだろうがコイン一枚でもまけるなというのがウチの方針です」
「そりゃあずいぶん厳しいな? 見逃してくれたら、贔屓してやるぜ? 花園のガキを街頭立ちさせる前に初ものをやってもいいし、身請けしたい女がいりゃ格安で斡旋してやってもいい」
ニヤと下卑た笑みを披露する男。
馬乗りで向かい合うデコもにっこりと笑顔を向け、
「すでにひとり貰い受けている。他はいらない」
丁寧にお断りするため、そっとサングラスを外した。
番外五 END
****************************************************
立ち並ぶ家屋から漏れ聞こえる、酔っぱらいの呻く声。道の端で倒れ込み、死んでいるんだか寝ているんだかわからない人。転がる酒瓶に、舞う砂塵。
空気に色がついたなら、きっとこのあたりは他より一層薄暗く見えるだろう。
そんな通りにゆらり揺れる、大中小のみっつの影。彼らの呼び名はデコ、ボコ、マリク。最近どこへ行っても噂を聞くようになった、台頭中の金貸しチーム。
不愉快な空気を切りひらき我が物顔で歩んでいた三人は、一軒の家の前でそろって足をとめた。
「ここですか。ボコがひとりで取り立てできない家というのは」
「ああ。ずいぶんグズつきやがるらしい」
忌々しそうにドアを睨めあげ、グルルと鋭い犬歯を剥き出すマリク。その横で、頬にガーゼを貼ったボコがウンウン、ワンワンと首を縦に振る。
「まったく。借りたもんは返すのがあたり前ッスよね」
「あぁ。けど、お前もお前だ。取り立て行って殴られて帰ってくるたぁ情けねー」
「えへ。ボコだけに、ボコボコ? なんつって」
「馬鹿!」
ボコの頭上にげんこつが落ち、ボコン、と飛び散り踊る~☆。
「まったく。ふざけてねーで行くか」
「はい」
「おッス」
部下が頷いたのを確認し、マリクはドアをハイキック。踏み込んだ室内は、このあたりの住宅にしては比較的家具が揃っていて、借りた金を返す余裕が無いようには思えない。こういうところに住んでいるのは、そもそも返すつもりが無いタイプ。
部屋のなかほどにあるベッドから、人の気配が漂っている。
ボコが一直線にベッドへ向かい、丸く膨らんだ毛布をテーブルクロスよろしく引き剥いだ。
「今度こそ金返せ! 借金取りりたーんず!」
パーティのはじまりを告げる、かすれた声の脅し文句。
毛布に包まり眠っていた男が目をさまし、声の主をとらえて刹那。落ち窪んだ瞳が高圧的に歪む。
「お前、また来たのか。何度来たって同じだ。金は返さな」
「ふざけんじゃねぇコラ!」
男が全て言い終わる前に、ボコのうしろからマリクが飛び出した。
そのままのスピードで男に膝蹴りの朝食を。寝起き一発目の重い一撃、みぞおち目掛けて、召し上がれ!
「俺らがガキだからって舐めてんじゃねーぞオイ。借りたもんは返すのがたりめーだろ大馬鹿野郎」
ごちそうさまにはまだはやい。胃もたれに苦しむ相手に追撃も。腹を抱えてうずくまる相手の頭を掴み、ベッドのヘッドボードへ打ちつけたらば、アルミパイプがカーンと甲高い音をたてる。スラムはいつでも弱肉強食。マナーを気にする暇なんか無い。
「っつ……!」
後頭部をさすり起きあがる男は顔を赤くしてご立腹。
男にとって、ガキが集まり金貸しをしてるという噂は空腹な私腹にネギを背負ってやってきた弱肉だったんだろう。
借した金は娯楽と化したか。ベッドの周囲にはいくつもの酒、つまみ、煙の出る葉。満腹で一服はさぞや至福に違いない。転がる酒瓶は至高の嗜好品だとひと目で分かる高級ブランドのブランデー。
「この、クソガキ!」
男は怒声で喚き散らし、豪勢な酒瓶を掴み振りあげる。そのうしろから、
「そこまでだ。借りた金を返さないお前が悪い」
まわり込んでいたデコが、男の手首を掴んで捻る。
「クソッ、もうひとり居たのか!」
「デコ、ここ任せるわ。俺とボコは奥のほうガサってくるから」
「了解です」
マリクとボコは、隠し金や、金のかわりに奪えそうなものを探しに連れ立って家の奥へ。ふたりの背中を見送って、デコは男をベッドから引きずり下ろし、床へ組み敷いた。暴れる男にラストオーダー。握りこぶしを食らわせて、デコはふと、動きをとめた。
「あれ……あんた……」
男の顔に見覚えがある。
男のほうはデコのことが分からないらしく、胡乱な目をして怪訝な表情。
それもそうか。分からないように姿をかえたのだから。と、デコはヒントを口にする。
「花園の経営は順調ですか?」
「あ? あんた客か? おかげさまで細々とやってるよ」
途端、男はパッと軽快な表情。奥にチラと目を向けて警戒の素振りを見せてから、デコにしか届かないような小声で、
「な、見逃してくんねーか?」
「それはできません。知り合いだろうがコイン一枚でもまけるなというのがウチの方針です」
「そりゃあずいぶん厳しいな? 見逃してくれたら、贔屓してやるぜ? 花園のガキを街頭立ちさせる前に初ものをやってもいいし、身請けしたい女がいりゃ格安で斡旋してやってもいい」
ニヤと下卑た笑みを披露する男。
馬乗りで向かい合うデコもにっこりと笑顔を向け、
「すでにひとり貰い受けている。他はいらない」
丁寧にお断りするため、そっとサングラスを外した。
番外五 END
0
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる