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本編

第十二話   ☆捻れて、反転

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「とても素晴らしかったですわ」「あの賑わいは歴代の王のなかでも一番でした」「お疲れになったでしょう。お着替えと軽食の用意がございますよ」
 長いパレードが終わってお城へ帰ったら、たくさんの声が降ってきた。あっちからもこっちからもで、カミィの足はもたもた。目がまわりそう。

 そこへ王様トーマスが歩いてきて、そっと耳元にひそひそ声で、
「着替えが終わったら執務室へ来い」

 はい、ってお返事して顔を上げると、もう王様は遠く。
 お城へ来てから毎日、ずっとこんな感じ。

 王様は舞踏会の日とおんなじで、優しくて、いつもにこにこ。だけど、一緒のお城に住んでるのに、ふたりでおしゃべりは一回も無い。
 顔を見るのもお仕事のときだけで、ご用が終わったら王様はお部屋に帰ってく。
 今日はお話があるのかな?

 着替えたカミィは言われた通り、ドアをコンコン。

「入れ」

 短いお返事は、氷みたい。
 いつもと違う感じがして、ソッとゆっくりドアのなかへ。

 はじめて入ったお仕事の部屋。埃も、汚れも、ひとつもない。どこを見ても怖いみたいに白いなか、ひとつだけ、深く紅いカーテンがつよい色。

 ドアを閉めると、いつのまにかとなりに王様が立っていて、腕を組んでカミィを見てた。

「お前、今日の態度は何のつもりだ」
「ほわ?」

 何のことか分からなくて首を振ると、王様は乱暴にカミィの手をひっぱって、

「パレードだよ。国民の前で俯いてばかりいやがって。自分の役割が理解できていないようだな。どうして俺様がお前を選んだかよく考えろ。愛されてるとでも思ったか? そんなわけないだろ。単純に外見がよかったからだ。お前は俺様のアクセサリー、国民の支持を集めるための偶像なんだよ!」
「な、なぁに……?」

 手が取れちゃいそうに痛い。

「お前の役目はその外見を活かして国民に愛想を振りまくこと。それだけでいいんだ。どうしてそんな簡単なことができない? おい、ちゃんと聞いてるのか!?」
「えっと、あの」
「チッ、グズめ」

 急に目の前がぐらっとなって、押されて転んじゃったんだってわかったのは、床に尻もちをついたから。

「でも俺様はただのいじめっ子なわけじゃない。そんなゴミとは違うんだ。お前の働き次第ではペットくらいの扱いにしてやってもいいと思っている。せいぜい賢く立ち回ることだ」

 王様は笑ってる。
 話し方も、声も、怒って見えるのに、お顔だけが笑ってる。

 雪の女王様が近くにいるんだ。だって、すごく寒くて背中がブルっとした。
 そういえば、今日は王様が仮面マスクをしていない。仮面の後ろにあったガラスみたいな青い眼は、いつも綺麗に光ってたのに。今はなんだか、星の無い夜。

「分かったらもう行けよ。ここでのことは誰にも言うな」
 王様はドアを開けて、カチコチになったカミィに足をぶつけて部屋から出した。

 夕焼け色の廊下、氷が溶けて。やっと頭もからだも動く。

 今の人は本当にトーマス様? よく似てるけど違う人?
 だって、王様は、クッションみたいにふわふわで、いつも笑顔。乱暴だってしないし、あんなに怖い人じゃ無かった。

 これはもしかして悪い夢? 起きたらまだベッドのなかで、吾妻様からもらったお花で遊んでるかも。

 でも。
 ひっぱられてジンジンする手。撫でると痛いのが大きくなって、これは本当のことなんだよって言ってるみたい。よく見たら赤くなっちゃって。
 夢じゃないって分かったら、我慢できなくて大きな涙がポロポロ。

「わたし、どうしたらいいの? パパ、ママ……吾妻様……」

 涙が海になったなら、そのまま溺れちゃうかも。そうしたら、泡になって消えちゃうんだね。


***

【ももいろのまると、すばやいはりねずみ】

『愛しの息子へ、愛を込めて――

 ふしぎないきものが たくさんくらす ほし ちょこりーむ。
 このほしにいる にひきの いきものの はなしを しましょう。
 
 ももいろで まるくて やわらかい いきもの。
 なまえが ないので ももいろのまる と よびましょう。

 とげとげで さわると すこし いたい いきもの。
 はりねずみに にています。
 すばやく うごくので すばやいはりねずみ と よびましょう。

 すばやいはりねずみは うまれたときから ひとりぼっちでした。
 おともだちがほしくて みんなにちかづいても とげとげが いたくて にげられてしまうのです。

 すばやいはりねずみは がんばって おともだちを つくろうとしましたが いつも しっぱい していました。
 だから ずっと ひとりぼっちでした。

 すばやいはりねずみは すばやさをいかして たべものをとるのが じょうずでした。
 けれど たべものをとっても いつも ひとりで たべていました。
 すばやいはりねずみは さみしい と おもいました。』

***


 前の国王が病に臥せったときのこと。
 十人以上居る王家の血筋のなかから代理の王として選ばれたのは、一番末っ子のトーマスだった。

「末っ子なんて!」
 もちろん異を唱えた者も居た。しかし、偶然なのか何かの意思か、不幸な出来事・・・・・・が重なって、ひとり、ふたりと消えて・・・いき、反対の声はだんだん小さくなっていった。

 幼い頃より兄弟のなかで一番努力家だったトーマスは、身につけた能力を遺憾なく発揮。
 代理の間ずっと、期待以上の仕事ぶりを見せ続けた。彼の政治は、それはそれは見事なもの。

 仮面マスクで顔を覆い、笑顔を貼り付け、いついかなるときも理想の王を演じ続けた。

 そして今。
 本物の王となった彼は、努力することを、やめた。もう、演じる必要は無い。

 この日から。

――オフィーリア国歴代最高の王は、最悪の王と成り代わる。
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