夫が宇宙人になりまして...

ハミデタニク・イトヲカシ

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 ミルの葬式からしばらく経った後、ミルの家に甥のしげると妻の京子きょうこが勝手にあがりこんだ。

「大していいもん持ってねーからな~」
 ミルの部屋に入り、タンスや引き出しを開け、金目のものを物色しだした。

「やめてください! おばあちゃんのものを勝手に触らないでください!」
 真佐希まさきは茂に怒鳴った。
「うるせー! ばばあはもう死んだんだから、全部オレ達のもんだ! 追い出されたくなければおとなしくしてろ! 貯金通帳はどこだ? 早く持って来い!」
 茂は怒鳴ったが、真佐希は引かなかった。
「不法侵入で警察を呼びます!」
「ちっ! うっせーな、このクソガキが!」
 茂が真佐希を殴ろうとするとジャックが茂の腕を噛んだ。
「いたたたたた! 放せ! このバカ犬!」
 ジャックはグルルルゥ!と唸りながら噛み付いたままだった。

「真佐希君、弁護士が来てるよ」
 タカシが来ていた。真佐希が連絡したのだ。

 真佐希が部屋を出ると、タカシはジャックを見てニヤッとした。
「ジャック、しばらく噛んで差し上げなさい。痛キモい程度に」
「何言ってんだ! 早くこのバカ犬をどうにかしろ!」

 叫ぶ茂の後ろから京子が出てきた。
「ちょっとあんた! 弁護士が来てるって何? 何しに弁護士が来てるわけ?」
 ミルの高価なスカーフを何枚も手に持った京子が喬に偉そうに訊いた。
「手に持っているそれ、置いていただかないと警察も来ますよ」
 タカシは涼しい顔で言った。
「はぁ? 警察?」
 京子はバカにする顔で言った。
「塀をよじ登って家に侵入したのが防犯カメラにバッチリ映ってますからね。親戚だからってこれは許されないでしょう」
「何言ってんの! 身寄りのないおばあさんをタダで世話してやったんだ。お礼としてこのくらい貰って当然でしょ! もっと貰ってもいいくらいだ! それをこれで我慢してあげるんだから、礼を言ってもらいたいね! 夫の腕に噛み付くなんて、それこそ訴えてやる!」

 白髪混じりのオールバックの男性がタカシの横に来た。
「ミルさんの甥の佐藤茂さんと妻の京子さんですか?」
 弁護士バッジをつけていた。ジャックは茂の腕を放した。
「ミルさんから生前、あなた方に2千万貸したと連絡を受けております。いつどのようにしてあなた方がミルさんからお金を借りたかレポートもいただいております。防犯カメラに不法侵入しているところと、ミルさんのものを盗んでいるところが映っています。ミルさんから、今後二度としないのであれば大目に見るが、次にやった時は警察に通報してほしいと連絡をいただいております」
「アタシ達は甥とその妻なんだよ! 身寄りのない年寄りの面倒を見てやったんだ! 家を勝手に行き来すんのは当たり前だろ!!」
 京子は血相を変えて叫んだ。
「ミルさんはもうこの世におりません。この家の主は真佐希さんです」
「ガキはまだ未成年じゃないか。だから親代わりに面倒を見てやってるんだろーが!」
 茂が弁護士を睨んで言った。
「真佐希さんの後見人は別のご夫婦をご指名されております。あなた方ではありません!」
「なにぃ! このガキの親戚はオレ達以外にいないんだよ! 勘違いすんな!」
「後見人は別に親戚でなくてもいいんです」
「くそっ! どこのどいつだ! オレ達の金を横取りしようとしてるのは!」

 ギャーギャー騒ぎ立てる茂と京子を冷ややかな目で見つめながら弁護士は硬い口調で続けた。

「佐藤さん、あなた方ご夫婦にはそもそも相続権はありません」
「どうせこのクソガキだろ! だが、コイツはまだ未成年で金の使い方を知らない。誰かにそそのかされてゴッソリ金を使っちまうだろ。だからオレ達が後見人として守ってやらないとダメなんだろうが!」
「ご心配はいりません。ミルさんは真佐希さんのために後見人を選定し、真佐希さんがその後見人に異存がなければ、あなた方が後見人になることはありません」
「オレ達の金だ! 他人に渡すもんか!」

 子供が駄々をこねるような茂と京子の態度に弁護士は大きくため息をついた。

「佐藤さん、本日はお引き取りください」
「わかったゾ。おまえもその後見人とグルで金を取ろうとしてるんだな! おまえの方が泥棒じゃねーか!」
「わかりました。どっちが泥棒か、今から警察を呼びますので、警察に決めてもらいましょうか。防犯カメラのデータもすべて提出しますよ」
「うっ!」
 茂と京子は歯ぎしりをした。
「お帰りください。そして、二度と不法侵入をしないでください。ミルさんからの伝言です。大目に見るのは今日が最後です」

 弁護士の毅然とした態度に二人は否応なしに階段を降りて1階へ行った。
 1階のリビングには美貴みきがいた。1階から2階の様子を伺っていた。
 茂は美貴をギロッと睨みつけた。美貴も引かない態度で茂を睨み返した。

 弁護士とタカシも1階から降りてきて、茂と京子が家から出ていくのをみんなで見届けた。
 リビングに戻ると、弁護士が話を始めた。
「ミルさんがお亡くなりになる数日前に、遺言書を変更したいと電話がありました。真佐希さんが未成年のため、あなた方ご夫婦を後見人にお願いしたいとのことでした。次の日すぐに遺言書を変更したのです」
 美貴は驚いた。
「私、ミルさんとは一度しかお会いしてないんです。後見人だなんて、私たち夫婦に務まるかどうか...」
 弁護士は穏やかな顔で美貴を見た。
「ミルさんが電話であなたは信頼できる方だとおっしゃってました。裏表がなく、常に地に足がついている方だと。それに、真佐希さんの趣味についてご理解があるとおっしゃってました」

 美貴は何かを思い出したように真佐希を見た。
「ミルさん、見てたんだわ。あの時、私と真佐希君が話してところを...」
「僕の誕生日の時の?」
「そうよ! やっぱり、ずっといつでも見守っていたのよ!」
「.....」
 美貴は涙ぐんだ。
「なかなか言い出すタイミングを見つけられなかったけど、あなたの生き方を応援してることをそのうち伝えたかったんだと思うわ」

 他人事で泣く情にもろい美貴を見て、真佐希はおばあちゃんの目に狂いはなかったと思った。
「僕、日曜日におばあちゃんと話したんです。おばあちゃんが昔、海外で活躍していたフラワーアーティストだって、僕はずっと知らなくって、そしたら、おばあちゃんがその話を詳しくしてくれました。その時、僕が女装が好きなのは、おばあちゃんの美的センスの遺伝子のせいだって笑って言ってました」
「最後に和解できたのね...」
「うん!」
 美貴は涙を拭きながら微笑んだ。

「確かにミルさんの格好は日本人離れして華やかだったもんな。な、ジャック」
 タカシがジャックの頭をなでると、バフッとジャックがドヤ顔をした。

 弁護士が美貴に微笑んだ。
「後見人になってくれるお礼として3000万円を渡したいとミルさんの遺言にあります」
「さ、3000万...!?」
 美貴は白目を剥いて、その場で倒れて気を失った。
「美貴! 寝るなよ!」
 タカシが美貴をゆすった。

「しかし、3000万もあったらジャックの家が建てられるよな。真佐希君、泉田のとこに行く時ジャックをうちに預けてもいいぞ。邪魔だろ」
 タカシは真佐希を見てニヤッとした。
「え!? あ、その...ジャックはモモコに会いたいだろうし....」
 真佐希は赤面してうつむいた。
 美貴が白目剥いてる間、弁護士が手続きについて説明した。
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