チートを貰えなかった落第勇者の帰還〜俺だけ能力引き継いで現代最強〜

あおぞら

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第1章 落第勇者の帰還

第35話 元勇者とS級異能者達は元幹部に挑む

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 お互い睨み合った状態の中、1番先に動き出したのは清華だった。
 【気配遮断】を使用して気配を消し、音もなく近寄っていく。
 そして優奈がそれを援護するかのように異能を発動させて何発も発射。

「【超電磁砲レールガン】」
「いやぁ僕はこの程度じゃ傷一つつかないよ? それに奴に見つかるまでに何としても家族を捉えないといけないんだ。始めから全力で行くよ」

 その言葉の通り、ルドリートは【超電磁砲】を全て避けると優奈に肉薄し、血で造った剣を心臓目掛けて突きを繰り出す。
 
「———ッッ!?」
「……それを回避するんだね。まぁ捕らえたけど」

 優奈は自身の体に異能を発動して反応速度を上げ、そこに【能力上昇】を掛けて体の性能を上昇。
 人間離れした驚異の反応で剣を避けようとするが、完全には避ける事が出来ず右腕に突き刺さった。
 しかし叫び声を上げることなどせずグッと耐えている。

「ではまずは貴女から死んでもらおうかな。さようなら———……ほぅ……」

 剣を新たに創造して今度こそ心臓に突き刺そうとしたその時、先ほどまで隠れていた清華が未だ気配を消してルドリートに切りかかるがあっさりと手で掴まれる。
 ルドリートは清華を剣で殺そうとするが、ギリギリの所で止め、目が開くほど観察し始めた。
 そして突如ニヤリと笑うと、清華を剣ではなく拳で殴る。

「んぐっ!?」
「まさか……こんな所で元世界最強の勇者の片割れに会えるとは……流石の僕も分からなかったよ。しかし……貴女はどうしてここまで弱くなっているんだい?」
「何言っているのか全く分からないわッ! とっとと離しなさい!!」

 清華はルドリートの顔面を蹴り上げるが、まるで鉄の壁を蹴っているかのようにびくともしなかった。
 
「やはり弱くなっているね。なら他の勇者もそうなのか? あの化け物を除いて」
「戦闘中に考え事なんて余裕ねッ!」
「まぁ今の君に負けるはずないからね」

 ルドリートは清華を死なない程度に蹴り飛ばす。
 清華は反応することすら出来ずに吹き飛ばされるが、それを受け止める者がいた。
 その者は風を操り清華を減速させて、上手い具合に着地させる。

「くっ……あ、ありがとうございます風林さん。ですが他の所は……?」
「気にするな! 他は彩芽に任せた! それにしてもアイツは間違いなくヤバい奴だからこうなるのもしょうがねぇ。と言うかよくここまで持ち堪えたな!?」
「ま、まぁ一瞬でやられちゃいましたけど……」

 清華は「不甲斐ないです……」と落ち込んでいるがそんなことない。
 そもそも今の彼女はルドリートからして見れば蟻のような戦闘力でしかないのだ。

「まぁ後は俺たちに任せておけ! 隼人って言う奴よりゃ弱いがこれでもS級だからな!」
「早く戦う。相手は待ってくれない」
「お前はただ戦いたいだけだろ!」
「———彼女の言う通りだよ?」
「「!?」」

 突然現れたルドリートに朱奈と清華は驚くが、真也だけは既に異能を発動させていた。

「お前が来ることは風で・・確認済みだ! ———【吹き飛べ】ッッ!!」

 真也は周りの風を操作して上昇気流を発生させて吹き飛ばす。
 吹き飛ばされたルドリートは風に逆らおうとするが予想以上に強く3秒ほどの時間を要してしまった。
 
「まさかこの世界でこれ程の力を要している者がいたとは……いや上手いか・・・・? まぁいい。早く奴らを殺して家族を奪わなければ俺が死んでしまう……!」

 少し顔に焦りの表情を浮かべて高速で下降していく。
 それを風によって感知している真也は叫ぶ。

「来るぞ! 全員異能を発動させろ! 【暴嵐】」
「はいっ! 【超電磁砲mark:Ⅱ】【超電磁砲】」
「ふふふふふ……初っ端全開でいくよ!! 【煉獄】ッッ!!」

 真也の叫びと共に、立ち上がってずっと充電チャージをしていた優奈と性格の変貌した朱奈が最大火力の異能を発動させる。

 それによってまず下降していたルドリートを【超電磁砲markⅡ】が襲う。
 突然の事に少し眉を動かすルドリートだが、ギリギリの所で回避する。
 しかし攻撃はまだまだこれからだ。

「チッ……数が多いな……」

 優奈の通常の【超電磁砲】が何十も飛来し、少しであるが確実にダメージを与える。
 その後にはほんの数瞬遅れて真也の放った【暴嵐】がルドリートを襲った。

 だが今度は風魔法の最上位魔法——【風神】を発動して一瞬にしてかき消される。
 しかしこの判断は悪手だった。

「なっ——炎!? 馬鹿なのかアイツら人間は!? 自分たちも巻き込まれるかもしれないんだぞ!?」

 そんな事を宣うが、相手は組織ですら恐れられている生粋の戦闘狂である朱奈。
 戦闘となれば性格が豹変し周りの事も自分の事も気にしないので、普段は1人で行動している彼女だが、今回は人手が足りなかったためこの場に呼ばれた。
 暴れられない不満が今爆発しいつも以上に頭がおかしくなっている。

「くそッ……どいつもこいつも羽虫のくせに僕の邪魔をしやがって……!」

 ルドリートは怒りに顔を歪めながら炎の中に突っ込む。
 そして全身に火傷を負いながらもすぐに元通りにとなって清華たちの前に現れる。
 
「本当に面倒な輩だな人間は……。くそッ——退けッ!!」

 憤怒に身を任せ物凄い速度で接近し、まず真也の腹を突き刺し、流れるようにして炎を纏った朱奈の下へと移動して蹴り飛ばす。

「ぐふっ……」
「カッ……ハッ!!」

 真也は口から血を吐いてその場に倒れ、朱奈は体をくの字にして炎が一気に消える程の速度で吹き飛ばされた。
 それでもルドリートは止まらない。

 次に狙われたのは優奈と、肩を貸している清華だった。
 ルドリートは2人を纏めて真っ二つにしようと横薙ぎを放つ。
 2人は最早避ける力もないため2人して目を瞑る。
 その表情には覚悟と死への恐怖が入り混じっていた。

 しかし優奈と清華は最後の希望を込めて願う。
 それは神ではなく、この状況を打破出来そうな唯一の人へ。

 しかしそんな2人の体に無慈悲にも血剣が迫る。

「お前達さえ殺せば奴の家族が手に入るんだ!」

 既にルドリートの顔は勝利を確信しており、笑みが浮かんでいる。

 確かにその考えは間違っていない。
 全く隼人の気配も感じず、この2人さえ倒せば自身の目標は達成できる。
 側から見てもルドリートが勝てると思うだろう。


 ———相手が人間ならば。


 
 だが人間でない者が存在する時点でその考えは破綻するのだ。
 人間に虫の行動を予測できないように、元人間のルドリートには予測できない。

 一瞬で10kmを移動できるなど。






「2人を殺す? ———そんな事は俺が絶対にさせない」







 2人に迫った血剣が突如「キィイイイイイイイイ!!」と言う金属の擦れ合う音が辺りに響き渡る。
 そして鳴り止むと辺りがしんと静まり返った。

 自身に痛みが来ない事に不思議に思った清華と優奈がゆっくり目を開けると———




「——本当にごめん。全て俺のせいだ。でも後は任せてくれ」




 そこには白銀のオーラを纏った白銀髪白銀眼の隼人が剣を受け止めていた。

「今度こそここで潰す。覚悟しておけ——ルドリート」

 竜王となった落第勇者が己の失態を取り返す。
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