上 下
8 / 40
第1章 落第勇者の帰還

第7話 落第勇者、早速怪しまれる②

しおりを挟む
「それで……隠し事って何?」

 再びそう聞いてくる宮園。
 その姿はさながら獲物を狩る獅子の様だ。
 俺が異世界帰還者で宮園が美少女じゃなかったら逃げ出している自信がある。

「きっと宮園さんが知りたい様な事じゃないと思うぞ?」
「別にそれならそれでいいわ。私は何なのかが気になるだけだから」

 俺の遠回しの聞いてくるなと言う言葉に真っ向から反発してくる宮園はめちゃくちゃ性格が悪いと思う。
 顔がいいだけじゃモテないぞ、俺みたいにな。
 
 しかしこれは結構面倒な事になったかもしれない。
 ほんの数十分前に隠し通すと決意したばかりなのにもう既にピンチとか、流石の俺も想像してなかった。
 あのまま将吾の筋トレを見ながら教室にいた方が良かったかもしれない。

 俺は屋上に来た事を後悔しながらも、どうやってこの危機的状況を切り抜けるか必死に思考していた。
 しかしそんな隙を与えないとばかりに宮園の質問は続く。

「それで一体何を隠しがたっているの? もしかして浮気?」
「俺に……彼女はいない」
「……それは悪い事を聞いたわね。——ごめんね。わざとじゃ無いの」

 そう言って結構本気で謝ってくる宮園。
 だが今に限ってはそんな誤られ方は俺の傷を的確に抉るだけだ。

 ああ……めっちゃ最悪なんだが。
 何で大して仲良くもない、しかもよりにもよって異性に俺の恋愛関係を暴露しないといけないのか。
 まぁそんな事を言える様な空気じゃ無いけど。

 俺は心の中で大きくため息をついた後、頭をガシガシと掻いてから頭を下げる。

「すまん、どうしても教えられないんだ。だからこれ以上の模索はやめてくれると助かる」

 宮園は突然の俺の行動に驚いた様で「えっ」と言う呟きが聞こえた。
 チラッと彼女の顔を覗き見ると、やはり突然のお願いに困惑の表情を浮かべている。
 しか小さく溜め息を吐いた後、花園は口を開いた。
 
「そ、そこまで言うのなら別に強要はしないしもう聞かないわ。でもそう言った隠したい事は自分の部屋で言うことね」
「……おっしゃる通りです」

 宮園から放たれる正論に何も言えず項垂れる。
 だがこれ以上模索されないのはこちらとしてはありがたい事この上ない。
 
「わ、分かったなら早く教室に戻ることね。これ以上私が聞きたくなる前に」
「……了解です」

 俺も丁度もう戻ろうと思っていたので、特に反論する事なく大人しく屋上を後にする。

 やはり学校では気を抜かないほうがよさそうだな……ん? 

 俺は屋上の扉を閉めて階段を降りている途中である疑問が頭に浮かんだ。
 それは本来ならあり得ない事だった。

 そう言えば俺……どうして宮園の気配に気付かなかったんだ……?

 幾ら感知を使ってないからと言って、異世界転移の記憶もないただの一般人に背後を取られるなどあり得ない。
 戦場だったら常に神経を張り巡らせないといけないので、俺の感知能力はスキル無しでも人間離れしている。
 だから教室でも沢山の人がいる中で、いきなり将吾に話しかけられても驚かなかったのだ。

 それなのに俺は彼女の気配を話しかけられるまで気付けなかった。
 そんなことなど此処5年くらいは1度もなかった。
 それこそ寝ている間でも気付いたくらいだし。
 
「全く……帰還してから分からないことがだらけだ……」

 俺は溜め息を大きく吐いて重い足取りで教室へと戻る。
 












『それで、どうだったんだ?』
「ええ、何が隠している事があるみたいです。もしかしたらいきなり異能の反応が現れたのにも理由があるかもしれないですね」

 先程まで隼人と話していた花園清華は、此処にはいない誰かと会話していた。
 先程の口調とは違って、敬語を使っている様だ。

『異能を使ったのはバレたか?』
 
 清華の耳にそんな言葉が入ってくる。
 その言葉を聞いて清華は先程の隼人の不可解な動きを思い出していた。

「いいえバレてません。彼は純粋に驚いている様でした。しかし1つ不可解な事が……」
『何だ? 言ってみろ』

 清華は少し躊躇ったのち、話し始める。

「……その……一瞬物凄い殺気が私に放たれました」
『ほぅ……殺気だと? それはどのくらいの強さの?』
「…………一瞬私の体が硬直して動けなくなるほどでした」
『……分かった。彼については此方も調べてみるとするが、其方でも引き続き頼む』
「はい。お任せ下さい」

 清華は、耳に付けていたシークレットイアホンを外す。
 そして自身が気を失っていた1ヶ月間の事を思いボソリと呟く。

「貴方の身に……いえ、私たちの身に一体何が起こったのかしらね……」

 その問いは誰にも聞かれる事なく風と共に消えていった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

聖女と間違えて召喚されたので追い出されましたが隣国の大賢者として迎えられましたので好きにします!

ユウ
ファンタジー
常にトラブルに巻き込まれる高校生の相馬紫苑。 ある日学校帰り手違いとして聖女と間違えて召喚されててしまった。 攻撃魔法が全くなく役立たずの烙印を押され追い出された後に魔物の森に捨てられると言う理不尽な目に合ったのだが、実は大賢者だった。 魔族、精霊族ですら敬意を持つと言われる職業だった。 しかしそんなことも知らずに魔力を垂流し、偶然怪我をした少女を救った事で事態は急変した。 一方、紫苑を追い出した国は隣国の姫君を人質にすべく圧力をかけようとしていたのだが…。

スキルを極めろ!

アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作 何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める! 神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。 不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。 異世界でジンとして生きていく。

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

精霊に好かれた私は世界最強らしいのだが

天色茜
ファンタジー
普通の女子高校生、朝野明莉沙(あさのありさ)は、ある日突然異世界召喚され、勇者として戦ってくれといわれる。 だが、同じく異世界召喚された他の二人との差別的な扱いに怒りを覚える。その上冤罪にされ、魔物に襲われた際にも誰も手を差し伸べてくれず、崖から転落してしまう。 その後、自分の異常な体質に気づき...!?

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...