チートを貰えなかった落第勇者の帰還〜俺だけ能力引き継いで現代最強〜

あおぞら

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第1章 落第勇者の帰還

第3話 落第勇者、帰還する③

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「はいはい、遥に冬美。一旦隼人から離れる」
「えぇ~もう少しいいじゃん! ねぇママ?」
「そうよそうよ。折角1ヶ月ぶりに隼人が起きたんだからいいじゃない」

 俺が抱きつかれて困っているのに気付いた父さんが2人を離そうとするが、一向に離れようとせず、ブツクサと屁理屈を捏ねる母さんと遥。
 その様子を見た、基本的に2人に甘い父さんにはこれくらいが限界らしく、俺に手を合わせて「ごめん」と小さく漏らしていた。
 一瞬「頼りない……」と思ったのは内緒だ。
 
 因みにだが、冬美ふゆみは俺の母さんの名前で、父さんはとおると言う名前だ。
 まぁ俺や遥はその名前で呼ぶことなどないので、偶に漢字とか忘れそうになるが。
 と言うか俺は10年間も日本語を見ていなかったから、そもそも漢字を殆ど覚えていない。

 ……そう言えば———学校どうしよ……。
 全然勉強したの覚えてないぞ……特に数学と物理……。

 俺が今後の自分の学力に顔を青ざめさせていると、病室に看護師らしき女性と医師らしき男性が入って来た。
 どうやらこれから俺の体調を調べるらしく、家族には病室から退出して欲しいとのこと。
 その為遥と母さんは俺から離れて、父さんに連れられながら渋々病室を後にして行った。

 俺はその後看護師や医師に色々と質問を受けた。
 例えば「自分の名前や年齢、家族の事などを覚えているか」などの記憶面のことが殆どだった。

 結果、俺はどうやら少し記憶が曖昧な様だ。
 俺が年齢の部分で10年間向こうに居たのでつい「27歳です」って答えたら、

「……今の君の年齢は17歳だよ。残念ながら27歳じゃないんだ……」

 って悲しそうに言われた。
 その時は完全にやってしまったなと、自分でも分かるくらい顔を顰めてしまったのを覚えている。
 しかしその顔を混乱していると捉えた2人は、

「いきなり質問しすぎてごめんね。また後で来るからね」

 と言って優しい笑顔を浮かべて病室を出ていった。
 きっとあの2人は良い人なんだと、異世界で様々な人間を見て来た俺はそう思った。
 
 俺は誰も居なくなった病室で1人、体をベッドに預けて天井を見上げる。
 正直まだ混乱しているのは事実だ。

 俺は自身の体に目を向ける。
 異世界にいた時の様に戦いでついた傷も無いし、必死に特訓して付けた筋肉もなく、どこにでもいる様な普通の体型に戻っていた。
 幸い俺はバスケ部に入っていたので筋力は元からあった方だ。
 しかしそれも1ヶ月の寝たきり生活のお陰で無くなってしまっていた。

「……帰ったら色々と説明しないといけないと思っていたから、それに関しては良かったんだけどさ……」

 異世界にいる時、俺が1番帰還する事に対して悩んでいたのは、体の成長と遠目から見ても分かる古傷だった。
 だからそれが綺麗さっぱり無くなっていて良かったと言えば良かったのだが……。

「努力がゼロになるって何か萎えるよなぁ……」

 天井をぼんやりと見ながらため息を吐く。
 何か完全燃焼した気分だ。
 まぁ幾らその事を嘆いた所でどうしようもないのだが。

 俺はベッドから起き上がって立ち上がる。
 外はもう既に日が傾いており、家々が赤く染め上げられていた。

「あーあ、この体に戻ったって事はスキルも無くなったんだよな」

 きっとそう言う事だろう。
 と言うかこの世界に戻った時点でスキルなど必要ないのだが。

「……よし、勉強するか……」

 俺はベッドの側にある机に置いてある数学や英語、現代文の教科書やノートに手を伸ばす。
 俺はあの10年でほぼ全て忘れたと言っても過言ではないので、今からでも詰め込まないとテストが散々な結果になってしまう。
 そうなったら追試や補習を受けないといけなくなるので、それだけは避けたい。

 俺は取り敢えず現代文の教科書をペラペラと捲ってみるが……

「——全然読めん……漢字が」

 本当に簡単な漢字は覚えているので読めるのだが、高校で習う様な漢字はまるっきり読めなかった。
 ……これは本当にやばいかもしれない。

 俺が軽く次のテストに絶望していると——ふと思い出す。

「そう言えば———光輝たちは大丈夫なのか?」

 そう、決して異世界転移したのは俺だけでは無いのだ。
 クラスが確か38人だったから、残りの37人はどうなっているのだろうか。

「まぁ今は多分自由にこの病院を動くこともできないだろうし、それはおいおい考えるとするか。———でも【感知】が出来たら一瞬でこの病院くらい把握できるのになぁ」

 なんて思ったその時———

「———ッッ!?」

 俺の頭の中にこの病院の情報が一気に流れ込んできた。
 その情報は以下のようなもの。

 この病院に居る人の数は総勢100人ほど。
 その内の俺も合わせた38人は患者で、その全員がクラスメイトだった。
 残りの人は医師やクラスメイトの家族、配達員など。

 俺はそれを感知した後、頭を抑えて蹲る。
 頭が焼き切れる様に痛い。
 思わず涙が目に溜まってしまうほど。

 しかしこの痛みを俺は知っていた。
 これは——自分の体に合わないスキルの使い方をした時に出る痛みだ。

「ば、バカな……。い、一体どう言う事なんだ……? 何で……」

 何でだ……どうして——?
 おかしいだろ……ッ!
 俺の体は既に10年前に戻ってるんだぞ———ッ!!

 なのに、なのに何で———

「何で———スキルが使えるんだよッッ!!」

 俺の困惑を極めた絶叫が辺りに響き渡った。
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