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第1章 魔王軍入隊

第10話 魔族種最弱を強化しよう

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「優斗様~全員揃いました~」
「ああ、ありがとう。だが……如何してこんなに遅いんだ?」

 俺はシャナの隣からゴブリン達を見下ろす。
 彼からは俺が誰なのか知らないので、幹部の隣に人間がいて、更に幹部が様付けで敬語まで使っていることに困惑している。
 そして周りの者たちと小さな声で話し合っている。

「……誰だあの人間?」
「シャナ様が人間に敬語使ってるぞ……」
「人間如きがシャナ様の隣に居るなどあってはいけない……!」

 この世界のゴブリン達は、ラノベなどとは違って物凄く流暢に喋る。
 魔界と人間界で言語が変わらないと言うのも一つの理由かもしれない。
 これのお陰でいちいち言語を覚えなくてよかったのには感謝している。

 閑話休題。

 本来軍に所属している者が上官のいる前で私語をしてはいけない。
 しかしゴブリン達は、俺は兎も角シャナが居るにも関わらずずっと私語をしている。
 これは上官を舐めている証拠だ。

「お前達、今目の前にいる人間が気になるだろ? 俺の名前は浅井優斗だ。元勇者でこれから魔王軍の総大将になった」
「優斗様は魔王様に次いで偉い方ですからね~。私も敬語を使わないといけないほどだし~」

 俺の言葉とシャナの補足にゴブリン等に震撼が走る。
 多分ゴブリン達も俺の名前は知っていたのだろう。
 少数だが俺をキラキラした目で見る者が現れた。

 だがあくまで少数だ。
 殆どの者が俺が本物なのかと言う疑心に駆られている。
 そんな中、一番前にいたゴブリンキングの一体が俺に剣を向けて咆哮。

「俺はこの人間が本物の勇者などと認めない! 認めて欲しいなら俺達全員を相手してみろ! どうだ? 出来ないだろう?」

 そう言ってニヤリと笑うゴブリンキング。
 おそらく俺を煽って戦おうと言う算段だろうが……どれ程の強さを有しているんだろうな?

——————————————
ドンバ
ゴブリンキング 76歳
称号 小鬼の王 

《スキル》
【剛剣術Level:4】【身体硬化Level:3】

ステータス
Level:185
総合値:60300(S級)
体力:11000
魔力:5700
筋力:14000
防御力:19000
敏捷性:10600
——————————————

 うーん……弱い。
 物凄く弱い。
 ゴブリンキングでさえこの程度のステータスしかないのか……。
 昔なら余裕でLevel三〇〇くらいあったぞ。

「シャナ……如何してこんなにゴブリン達弱いんだ?」
「……こ、この頃戦争なんて皆無でして~訓練をサボっている輩が多いいらしいです~」
「ふーん……で、シャナ? コイツらは誰の管轄なんだ?」
「…………ルドルフです……」
「よし、アイツ後で海に沈めてやる」
「何の話をしている!! やらないのか?」

 そんなゴブリンキングの再びの煽りに隣でシャナがあたふたしているが、今回は認めさせると言う意味も込めてその煽りに乗ってやることにする。

「……いいぜ。お前ら六〇〇〇人全員と相手してやる」
「優斗様!? あの者には後でキツく言っておきますのでどうかご容赦ください!」

 俺の言葉にシャナが頭のゆったりとした口調を忘れて顔を真っ青にしながら俺に頭を下げてきた。
 その姿に更に騒つく兵士達。
 
 俺はシャナを安心させる様に笑みを浮かべると、

「安心しろシャナ。コイツら全員殺しはしない。まぁどちらが上なのかはハッキリさせてやるがな」
「は、本当に殺しませんか……?」

 シャナが恐る恐る聞いてくるが、君は一体俺を誰だと思っているのか。
 俺は別に殺戮者じゃねぇぞ。

「勿論殺さないに決まってるだろ。それに極力本気も出さないさ。まぁ……コイツらには1割も力を出さなくても勝てそうだがな」

 俺のその言葉にシャナは顔を明るくし、兵士達は傲慢だと顔を赤くして怒りに打ち震えている。

「人間生意気だ! 絶対にぶっ殺してやる!」
「そうだそうだ! 勇者なんて嘘に決まっている!」
「そうかそうか。なら―――倒してみな?」
「「「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」」」」

 俺は兵士全員に威圧を掛ける。
 勿論気絶しない程度にしているが、動けるか動けないかは俺の知ったことではない。
 見た感じゴブリンは殆どが俺への恐怖で体が震えており戦意も喪失している。
 しかし上位種達は冷や汗を垂らしているが戦意を喪失した様子はない。

「それじゃあ行くぞ!」

 俺は一番に俺に喧嘩を売ってきたゴブリンキングに接近して一割程度の力で殴る。
 シャナと殺さないと約束したし、戦力を失うわけにはいかないのでこれ以上の力で殴ることは今回はしない。

「グゲァ―――ッッ!?」
「た、隊長が一瞬でやられたぞッッ!?」

 俺に殴られたゴブリンキングは俺の一撃であっさり気絶してしまった。
 白目を晒してピクピクと痙攣している。

「なんだよ。今のゴブリン達は根性がねぇな。まぁ次行くか」
「「「「「「「「ヒッ!?」」」」」」」」

 俺が視線をゴブリン達の対岸に向けると、ゴブリン達は顔を青ざめさせて悲鳴を上げる。
 しかし逃しはしない。
 一度くらい本当の戦闘を教えてやらないとな。

 俺はゴブリン達の中に突っ込んでいく。
 そして手当たり次第に殴打や蹴りを加えて吹き飛ばしたり気絶させる。
 そんな俺の姿にゴブリン達は阿鼻叫喚。
 とうとう逃げ出す奴まで出てきた。

「おい、逃げるんじゃねぇぞッッ!! そんなんで戦争が出来るわけないだろうが! ―――【水創造クリエイトウォーター】」
「な、なんだコイツ! 魔法使いだったのか!? や、やめ——ギャアアアアア!!」
「く、来るなっ! やめ―――」
「も、もう許して―――」

 俺は水魔法の最下級【水創造】を発動させると、俺の足元からダムが決壊したかの様な濁流が発生し、ゴブリン達を呑み込んでいく。
 本来【水創造】はバケツ一杯くらいの水しか出ないのだが、俺のはスキルレベルがカンストしているため、全ての魔法の威力が倍増しているのだ。

 そんな濁流も次第に収まっていき、完全に収まった時には既に立っているゴブリン達は居なかった。
 
「……たった一つの最下級魔法でこのザマか……これはマジでヤバいな」
「やばいな、ではないですよ! 本当に皆死んでないんですか!?」

 シャナが焦りながら聞いてくる。
 確かにこの光景を見ていれば、死者は絶対いるだろと思うことは分からないこともないが……

「コイツらの強さで俺が手加減を間違えるわけ無いだろ? 流石にアリシアと戦ったら確実にとは言い切れないが、それ以下なら殺さずに制圧など余裕だ」
「……つくづくレベルが違うんだなと思い知らされている気がします~……」

 そう言って少し落ち込んだ様子のシャナだが、彼女自身勿論弱いわけではなく、と言うか普通に強いほうだし、今回俺がやったことなら彼女でも余裕でできただろう。

「まぁシャナも今度修行に付き合ってやるから、取り敢えずコイツらの傷を直させてくれないか?」
「……絶対ですよ~。―――【範囲回復エリアヒール】」

 淡い光がゴブリンたちを包み込むと、あっという間に傷は塞がり血色の良い顔に戻った。
 【範囲回復】は全体を回復するため、回復量自体はそこまで多くないはずだが、シャナのはずば抜けているな。
 
「……だから慈愛が異名に付くわけだ」

 狂愛については触れないでおこうと思う。
 狂った愛というのはあまり印象が良くないからな。

 俺はゴブリンたちが目を覚ますのを待つことにした。




***




「……で、どうだった? たった一人の人間にあっさりと負けた気分は?」
「「「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」」

 初めとは違い、俺の言葉に口を開く者は居ない。
 やはりゴブリンには自分の強さを証明することが一番だな。
 
「正直に言うが……お前ら全員クビにしたいくらいだ」
「「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」
「だが……そんな事をしている時間などこの魔王軍には残っていない。先程の強さ程度なら、人間にもたくさんいるだろう」

 俺のその言葉に更に空気が重くなる。
 殆どのゴブリンは俯き肩を小さくしており、ブルブルと震えている。
 
「お前達は魔王軍で最弱と呼ばれているらしいじゃないか。そんなんでいいのか? 自分たちが最弱と呼ばれて悔しくないのか!?」
「く、悔しいです!」
「強くなりたいと思わないのか!? 俺ならお前達を最低でも今の一〇倍強くして見せることが出来る!」
「「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」

 ゴブリンたちが一斉に顔を上げる。
 その顔からは、本当に強くなれるのかと言う疑心と期待が混ざり合った複雑な表情をしていた。
 しかし誰も声を上げることはない。
 そんな中、一人のゴブリンが声を上げた。

「お、俺は強くなってモテたい!!」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」

 そのゴブリンの言葉に全ゴブリンが反応した。
 しかしそれは仕方のないことだろう。
 ゴブリンは性欲が旺盛なことで有名だが、この世界でもそれは変わらない。
 だが魔界でゴブリンを好きになる者は少ない。
 ゴブリンが魔界の中で最弱とされる生き物だからだ。

「お前達が強くなれば…………モテまくるぞ……?」
「「「「「「「「「「「「――強くなりたいです!!」」」」」」」」」」」」」
「それでいい! 御大層な目標よりも欲望の方が必死になれるからな! ならこれからお前達を魔王軍一の精鋭部隊にしていく! 覚悟は良いか!?」
「「「「「「「「「「「はいッ!!」」」」」」」」」」」」
「ならまずは―――」

 こうしてゴブリン達の強化が幕を開けた。

 
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