【完結】神の巫女 王の御子

黄永るり

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王妃の出産

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 アーシャの元に再びダミールが訪れたのは、珍しく昼間だった。
 しかも後宮の書庫まで追いかけてのことだ。
 外から王の来訪を女官に告げられて、慌ててラダーが扉を開けに行った。
 アーシャも迎えに出た。
「陛下、どうなさったのですか?」
 ラダーが開けた扉の向こうには、本当にダミールが立っていた。
 まさか書庫にまで訪ねてくるとは思っていなかったので、すっかり面食らってしまった。
「ああ」
 しかも妙にうろたえている。
「実は先ほどからファディーラが産気づき始めたのだ」
「王妃さまが?」
 アーシャも側にいたラダーも驚いた。
 ついにこの日が訪れたのだ。
 アーシャはファディーラに呪いのことを告白されても、翌日からはまた書庫に入り、呪いを解く方法をずっと調べていたのだ。
 だから一日でも一刻でもファディーラの出産日が遅れることを、いけないと思いながらも願っていたのだ。
「ついに……」
「そうなのだ。産気づく王妃のそばでうろうろしていたら、産婆や薬師、侍女たちに邪魔だと外へ追い出されてしまったのだ。まだ陣痛が始まったところだから、御子誕生まで時間があるそうなのだ。それで近くのそなたの部屋で待とうと思ったらいなかったので、ここかと思って来たのだ」
 どうやら待望の御子誕生で、どうしたものかと落ち着かないらしい。
「何だアーシャどうしたのだ? 浮かない顔をしているようだが、具合でも悪いのか? 私がここへ来たのがそんなに嫌だったのか? それともファディーラの出産に何かあるのか?」
「いえ、そんなことはございません! 何もございません。王妃さまの無事のご出産をお祈り申し上げます」
 アーシャは慌ててそう言ってその場に平伏した。
 ダミールのこの様子からすると、ファディーラはまだラアナの呪いのことを伝えてはいないようだ。
「恐れながら陛下、側妃さまも、少し側妃さまのお部屋でお茶になさいませんか? 側妃さまのお部屋でございましたら、王妃さまが無事にご出産あそばされましたら、すぐにでも連絡が受け取れますでしょうし」
 それまで黙っていたラダーが口添えしてくれた。
「おお。それもそうだな。最初の通りにアーシャの部屋に参るとしよう」
 ダミールは元来た道を戻っていった。
「さあ側妃さまも」
「ラダー」
「何でございますか?」
「陛下のこと頼みます」
「側妃さま?」
「私は王妃さまのところへ参ります」
「え?」
 ラダーの混乱をよそに、アーシャはダミールとは別の回廊を通って、一路ファディーラの元へと走っていった。
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