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巫女の日記

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 ラダーが出て行ったことを扉の閉まる音で確認したアーシャは、途端に険しい顔つきになり、読んでいた日記の最後の頁を開いた。
(やはり……)
 それは巫女同士が通信手段の一つとして用いる文様だった。
 この日記に触れた時から、何となく違和感を感じていたのだが、その文様を見て納得した。
 その読み方はわかっている。
 アーシャは、ダミールとは本当の意味で寝所を共にしていなかったために、まだ巫女としての能力は残っている。
 日記を開いたまま文様に手をかざした。
 そこに描かれていた文様からまばゆい光が放たれた。
 天井にその光が照射されると、そこにとある文章が浮かび上がってきた。
 巫女にしか伝えられていない特殊な文字が並んでいる。
「これは……」
 アーシャは浮かんだ文字の配列に絶句した。
 黙って日記を閉じると、しばらく呆然と椅子に座っていた。
 その内容の壮絶さに、何とも頭が回らなかったのだ。
 なぜならそれは、アーシャ自身に宛てられた文だったからだ。
 まるでアーシャが読むことを予想していたかのような内容だった。
 時が止まったかのような閲覧室に、表の扉から鍵を回す音が聞こえたので、アーシャは何事もなかったかのように、再度日記を読み進めていった。

 翌日、アーシャは珍しく歴代の降嫁巫女の書物ではなく、王族の系譜を記した副本を閲覧室に持って入った。
「珍しいですね。今日は巫女さまがたの書物ではなくて王族の系譜ですか?」
「ええ。ちょっと先代の巫女様あたりを見てみたくて」
 アーシャはできるだけ平静を装いながらそう答えた。
「先代の?」
「そう。陛下のお祖父さま、すなわち先々代の王にお仕えになった御方」
「確か御名はラアナ様とか?」
「そうね。ラアナ様」
 アーシャはこのラアナが亡くなったために、没後一年の喪が明けての降嫁となったのだ。
 このラアナは、ダミールの祖父王の元に降嫁した巫女だった。
 一代の王に降嫁する巫女は一人と決まっているのだが、降嫁した巫女が長命だと王が代替わりしても新しい巫女の降嫁はない。
 逆に降嫁した巫女が短命だった場合、次の王が即位するまでは次の巫女も降嫁させることはできないので、稀に新しい降嫁巫女を得るためだけに、王に生前退位をさせて無理やり新王を即位させたという話も過去にはあった。
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