【完結】神の巫女 王の御子

黄永るり

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巫女調べ

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 マフルの言う『巫女調べ』とは、大陸中の国の王が最高級の香料欲しさに行う儀式のことである。
 一代の王に限り、一人の巫女を側室として降嫁させる。
 そしてその巫女が存命の間は、毎年定期的に神殿から一定量の乳香と没薬の樹脂を受け取ることができるのだ。
 建前上、神殿は商売はしないということになっているので、各国からは香料に対する返礼として大神に供える供物を受け取ることになっている。
 もちろん供物には、神殿の巫女や神官の生活を支える食料品や衣類なども含まれている。
 中には、金貨や銀貨などの大陸統一貨幣を忍ばせているものもある。
 儀式では、精一杯着飾った妙齢の巫女たちが、訪れた王の前に一列に並び、自分が選ばれることを期待するのだ。
 側室待遇なのに、巫女たちが例え小さな国でも一国の王のもとに降嫁したがるのには理由があった。
 それは、降嫁した巫女にはその国での正室に次ぐ地位が約束されるからなのだ。
 しかも正室に世継ぎがいない場合は、巫女が産んだ子供が『神の御子』と呼ばれて、世継ぎとされるのだ。
 他の側室が先に世継ぎを産んでいたとしても、後からきた巫女が世継ぎを産めば子供の立場が逆転してしまうのだ。
 例え子供ができなかったとしても、王の最高位の側室として数多の侍女にかしずかれて一般の民では生涯味わえないような贅沢三昧の生活ができるのだ。
 神殿では見習いとして上がった時から肉食を禁じられてしまうので、もともと裕福な王族や貴族出身の巫女たちは、肉食を求めて降嫁を願っていたりもする。
 若い巫女たちにとっては退屈で窮屈な神殿から出られるかどうかの大事な儀式なのだ。
 一代の王に『巫女調べ』の儀式は一度だけとされているので、例え王より先に巫女が亡くなっても、王が代替わりしない限りは新たな巫女は降嫁が許されないし、香料も神殿からはもらえないのだ。
 当然、毎年行われる儀式ではない。
 だから巫女調べに出られない年齢となると、各々役職が与えられて、神殿内のことを取り仕切る裏方に回り、生涯神殿で大神に奉仕するということになるのだ。
 その『巫女調べ』が数年ぶりに行われるのだ。
 前回は、アーシャが巫女見習いとして神殿に上がって間もない頃だったから、出られなかった。
 しかし今回は、十五歳の成人の儀を終えて、見習いから正式な巫女へ昇格した以上、参加資格はある。
 アーシャとしては仮病でもなんでも理由を作って断りたいのだが、あいにく十五歳から二十九歳までは絶対参加が義務付けられている。
 三十代、四十代になって、やっと参加するかしないかを自分で選べるようになる。
 五十代で参加資格が完全になくなるのだ。
 王にとっては乳香と没薬という最高級の香料が欲しいし、神殿にとっては生活の助けが必要なのである。
 双方の思惑が一致した結果、何が何でも、今いる巫女たちの中から選んでもらわなければならないのだ。
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