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鎌倉の御方様
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「卯花様」
客間にいた卯花を執事が呼びにきた。
卯花の目の前には、若葉が涙を流しながら眠っていた。
その体は半分くらい透けているところで止まっていた。
御方様と卯花、そして関東本部の幹部たちの術で何とか透明化するのを途中で踏みとどまらせているのだ。
元々、この鎌倉本邸自体もかなり厳重な結界や守護の術が施されているので、かけられた術の速度を落とすことくらいはやりやすかった。
しかし、いつまでもこのままというわけにはいかない。
何と言ってもこの下には、色六天の一体『色霧天』が生きながら封じられているのだ。
下手につつけば、封印が解かれてしまうかもしれないのだ。
「どうしました?」
「御方様がお呼びにございます」
「わかりました。参ります」
そういうと、若葉のことを執事に頼むと卯花は客間を後にした。
鎌倉央色家本邸の最も奥に、屋敷の主の部屋があった。
「御方様、姫様が参られました」
部屋の前で警護にあたっている色染師の女性が障子越しに声をかけた。
「お入りなさい」
女性が障子を開けた。
卯花は一礼して部屋に入った。
奥に座っている着物姿の女性の前で再度礼をすると、静かにその前に座った。
卯花の叔母であり養母でもある女性。
央色雪子。
抜けるような真っ白い肌は卯花と同じだ。
鎌倉の御方という長年の務めからか、かなり黒目の色素が抜け落ちている。
容姿は卯花に似ているような似てないような不思議な顔をしている。
「新堂さんの様子はどうですか?」
「透過率は半分くらいで止まっています。涙が流れてきたので、多分喰らった色魅に何か言われたのでしょう」
「そうですか」
「新堂さんのご家族の方は?」
「はい。お母様と妹さんには色染師のことも含めてしっかり私からご説明申し上げました。お二人ともかなり驚いていらっしゃいましたが、最終的には納得してくださいました」
「そのまま話されたのですか?」
「そうです。嘘をついたところで結局はばれてしまうことでしょうし」
「そうですね」
あの透けていく若葉の姿を見たら下手に隠すよりも、全て本当のことを伝えたほうが良い。
卯花でもそうするだろう。
「お二人にはしばらく若葉さんをこちらで預かる旨もお話させていただきました。ご一緒に住んでいらっしゃるお父様とおばあ様のほうには、関東本部よりしばらく本邸で預かることと、今回の顛末も含めて簡単にご説明申し上げるように頼みました」
「御方様、ありがとうございます。お手数をおかけいたしました」
「いえ。滅多にない私の仕事ですから」
にこりと雪子は微笑んだ。
卯花は深いため息をついた。
「御方さまの仰った通りになりましたわね」
「そうですね」
「やはり一年次から色命札の詳細を教えておいたほうが良いのではないでしょうか? いつ何時、また新堂さんのように被害に合われる色染師見習いがいないとも限りませんし」
雪子はそれには眉をひそめた。
「最初から命をかける戦いであると?」
「少なくとも遊び半分で活動している生徒たちは、きりっとするでしょう?」
「そうですね」
「いたずらに恐れを抱かせて戦えない色染師になると困る、というのはご先祖さまのお考えなのではありませんか? 今の方たちは、その恐れを超えていける色染師になれるのではないかと私は思っています」
「卯花の言うことももっともです。私たちはご先祖さまからの決まり事をあまりにも守りすぎていたのかもしれませんね」
「では?」
「ええ。京都にいらっしゃる兄上様に聞いてみましょう」
それは央色家の現当主のことであり、すべての色染師たちの頂点に立つ存在であり、そして卯花と京都に住む双子の兄の父のことでもある。
そして雪子は、卯花の父の双子の妹なのだ。
卯花にとっては実の叔母であり、慣例に従って今は戸籍上は養子縁組をして娘となっている。
大変思慮深く、聡明で関東本部からも絶大な信頼が寄せられている。
これで慣例が一つでも変わればいい、と卯花は思った。
客間にいた卯花を執事が呼びにきた。
卯花の目の前には、若葉が涙を流しながら眠っていた。
その体は半分くらい透けているところで止まっていた。
御方様と卯花、そして関東本部の幹部たちの術で何とか透明化するのを途中で踏みとどまらせているのだ。
元々、この鎌倉本邸自体もかなり厳重な結界や守護の術が施されているので、かけられた術の速度を落とすことくらいはやりやすかった。
しかし、いつまでもこのままというわけにはいかない。
何と言ってもこの下には、色六天の一体『色霧天』が生きながら封じられているのだ。
下手につつけば、封印が解かれてしまうかもしれないのだ。
「どうしました?」
「御方様がお呼びにございます」
「わかりました。参ります」
そういうと、若葉のことを執事に頼むと卯花は客間を後にした。
鎌倉央色家本邸の最も奥に、屋敷の主の部屋があった。
「御方様、姫様が参られました」
部屋の前で警護にあたっている色染師の女性が障子越しに声をかけた。
「お入りなさい」
女性が障子を開けた。
卯花は一礼して部屋に入った。
奥に座っている着物姿の女性の前で再度礼をすると、静かにその前に座った。
卯花の叔母であり養母でもある女性。
央色雪子。
抜けるような真っ白い肌は卯花と同じだ。
鎌倉の御方という長年の務めからか、かなり黒目の色素が抜け落ちている。
容姿は卯花に似ているような似てないような不思議な顔をしている。
「新堂さんの様子はどうですか?」
「透過率は半分くらいで止まっています。涙が流れてきたので、多分喰らった色魅に何か言われたのでしょう」
「そうですか」
「新堂さんのご家族の方は?」
「はい。お母様と妹さんには色染師のことも含めてしっかり私からご説明申し上げました。お二人ともかなり驚いていらっしゃいましたが、最終的には納得してくださいました」
「そのまま話されたのですか?」
「そうです。嘘をついたところで結局はばれてしまうことでしょうし」
「そうですね」
あの透けていく若葉の姿を見たら下手に隠すよりも、全て本当のことを伝えたほうが良い。
卯花でもそうするだろう。
「お二人にはしばらく若葉さんをこちらで預かる旨もお話させていただきました。ご一緒に住んでいらっしゃるお父様とおばあ様のほうには、関東本部よりしばらく本邸で預かることと、今回の顛末も含めて簡単にご説明申し上げるように頼みました」
「御方様、ありがとうございます。お手数をおかけいたしました」
「いえ。滅多にない私の仕事ですから」
にこりと雪子は微笑んだ。
卯花は深いため息をついた。
「御方さまの仰った通りになりましたわね」
「そうですね」
「やはり一年次から色命札の詳細を教えておいたほうが良いのではないでしょうか? いつ何時、また新堂さんのように被害に合われる色染師見習いがいないとも限りませんし」
雪子はそれには眉をひそめた。
「最初から命をかける戦いであると?」
「少なくとも遊び半分で活動している生徒たちは、きりっとするでしょう?」
「そうですね」
「いたずらに恐れを抱かせて戦えない色染師になると困る、というのはご先祖さまのお考えなのではありませんか? 今の方たちは、その恐れを超えていける色染師になれるのではないかと私は思っています」
「卯花の言うことももっともです。私たちはご先祖さまからの決まり事をあまりにも守りすぎていたのかもしれませんね」
「では?」
「ええ。京都にいらっしゃる兄上様に聞いてみましょう」
それは央色家の現当主のことであり、すべての色染師たちの頂点に立つ存在であり、そして卯花と京都に住む双子の兄の父のことでもある。
そして雪子は、卯花の父の双子の妹なのだ。
卯花にとっては実の叔母であり、慣例に従って今は戸籍上は養子縁組をして娘となっている。
大変思慮深く、聡明で関東本部からも絶大な信頼が寄せられている。
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