【完結】色染師

黄永るり

文字の大きさ
上 下
7 / 35

封滅

しおりを挟む
 この鎌倉市内には鎌倉の御方様と央色おうしき一門の色染師たちによって強固な結界が張られていて、大物の色魅たちは絶対に入ってこれないようにしている。
 ただし、色染師のタマゴたちの練習用に、ランク分けされた小物の色魅だけは入れるようにしている。
 それもわかりやすく鎌倉市内に限定している。
 
 その中でも寺社仏閣に出現する色魅はそこそこレベルが高く、そして封滅の単価も高くなっている。
 四月は寺社仏閣レベルは挑戦できないのだが、一定の封滅数があれば五月からは申請できるのだ。

 最近、慣れてきたのか徐々に寺社仏閣に出現する色魅を中心に若葉は狙っていた。
(今日はいくつ申請したんだろう?)
 少なくとも一体ではないはずだ。
 蒼騎はそう思いながら、前を歩く若葉の背中を見つめる。
 放課後は平均三体がここ最近のセオリーだった。

 JR鎌倉駅から一駅で北鎌倉駅につく。
 ホームの反対側にわたって、円覚寺や建長寺が立ち並んでいるほうへと降りていく。
 閉門前だからか、観光客の姿はまばらになっていた。

 山門からまっすぐ進んでいき、舎利殿の手前にある佛日庵に入っていく。
 ここは普段ならお抹茶と干菓子もいただける参拝者の休息所のような場所になっている。
 しかし、ここには入り口の係の人だけで中には誰もいなかった。

 蒼騎の合図で右奥の建物を見ると、そこの桜の木の下に色魅がいる気配がした。
 若葉はそっと石の階段を上がって反対側に回った。
 桜はもうだいぶ散っていて葉桜になっていた。
 蒼騎が周囲を見回して、あたりに人気がないことを確認すると、校章裏のポケットから白い札を取り出すと右ひざを地面について、両手で押し当てるように五色の札を地面につける。

「清められし約束されし大地よ、その力で我とこの寺域を包み込め」
 そう口の中で呟くと、一瞬両手から発生した光が波となって佛日庵を含む円覚寺の境内全てを包み込んだ。
 周辺から人間だけでなく生き物の気配自体が完全に消えた。

 立ち上がると蒼騎が胸の前で静かに印を組む。
 左胸にある制服の校章の上を右手で軽く撫でると蒼色の札が出てきた。
 それを一閃すると、そのまま同じ色の刀に変じた。
 刀を静かに構えた。
 獲物を挟んで小路の向こうに若葉が姿を現した。

 若葉も印を組んで校章から、ではなく胸ポケットから五色の札を取り出した。
 本部から支給される五色の札は、色魅の動きを封じたり色々なことに仕える便利な札だ。
「清められし大地よ、この札と我に力を貸せ」
 五色に染められた札がするすると地面をはった。

「古からの色魅を封ぜよ!」
 桜の木の下にいた色魅が気づいた時には、すでに地面からの黒い光にからめとられた。
 必死に暴れるが暴れれば暴れるほど、五色の光が色魅の身にくいこんで五色に染まっていく。
 そこに蒼騎が飛び上がって鋭く上段から刀を振り下ろした。
 断末魔を空へ放った色魅は、黒い光にくるまれると、蒼騎が手に持っていた白色の札に吸い込まれていった。
 蒼騎は濃い青色に変じた札を上着の内ポケットに入れると、刀を札に変えて校章に同化させた。
 そして、地面を撫でて結界を解除した。
 
 再び周辺に人の気配がよみがえってくる。
「新堂」
「はい?」
「俺の補助ばかりで正直飽きてきただろ?」
 その方面から蒼騎はさりげなく若葉のやる気を削ごうとする。
 意図的に。
 四月は先輩の戦い方を見ながら、札の扱い方は授業の一環として学ぶ。
 そして慣れてきたこの五月から先輩の補助をしながら封滅する。
 逆に一年生が主体となって封滅する実戦練習ができるようになるのは、六月からとなっている。

「大丈夫ですよ。六月までもうすぐじゃないですか」
 若葉はニコニコしながら振り返った。
「だけど、その前に中間テストがあるよな?」
「そうなんですよねえ」
 途端にそれまで明るかった若葉の顔が暗くなる。
 テスト期間三日前くらいからとテスト期間中は、色染師の活動もそうだが通常のバイトや部活動も休止となる。
 稼ぎ時が減ってしまう若葉からしたら非常に困りものだ。
 しかし、校則で禁止されているのだからこればかりはどうしようもない。

(よしよし、止める気になったかな?)
 蒼騎がそう思ったのも束の間。
 若葉は首を振って、自分の頬を軽くたたいた。
「それより先輩、次、行きますよ!」
「あ、ああ……」
「六月から私も先輩のように色名刀が振るえるように、体育の授業で剣道頑張ってますから、その辺りは心配しないでください!」
「してねーって!」
 そしてまた蒼騎はため息をついた。

 何を言っても変わらないし、まっすぐに一人前の色染師を目指している。
が卒業してから去年はほどほどでちょうど良かったのに。まさかの再来みたいなのと組むことになるとは……)
 寺の瓦屋根の向こうに沈んでいく太陽を恨めしそうに見上げながらそう思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

秘密兵器猫壱号

津嶋朋靖(つしまともやす)
キャラ文芸
日本国内のとある研究施設で動物を知性化する研究が行われていた。 その研究施設で生み出された知性化猫のリアルは、他の知性化動物たちとともに政府の対テロ組織に入れられる。 そこでは南氷洋での捕鯨活動を妨害している環境テロリストをつぶす計画が進行中だった。リアル達もその計画に組み込まれたのだ。  計画は成功して環境テロリストたちはほとんど逮捕されるのだが、逮捕を免れたメンバーたちによって『日本政府は動物に非人道的な改造手術をして兵器として使用している』とネットに流された  世界中からの非難を恐れた政府は証拠隠滅のためにリアル達、知性化動物の処分を命令するのだが…… その前にリアルはトロンとサムと一緒に逃げ出す。しかし、リアルは途中仲間とはぐれてしまう。 仲間とはぐれたリアル町の中で行き倒れになっていたところを、女子中学生、美樹本瑠璃華に拾われる。そして…… 注:途中で一人称と三人称が入れ替わるところがあります。 三人称のところでは冒頭に(三人称)と入ります。 一人称で進むところは、リアルの場合(リアル視点)瑠璃華の一人称部分では(瑠璃華視点)と表記してます。 なお、大半の部分は瑠璃華視点になっています。

群青の空

ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ
キャラ文芸
十年前―― 東京から引っ越し、友達も彼女もなく。退屈な日々を送り、隣の家から聴こえてくるピアノの音は、綺麗で穏やかな感じをさせるが、どこか腑に落ちないところがあった。そんな高校生・拓海がその土地で不思議な高校生美少女・空と出会う。 そんな彼女のと出会い、俺の一年は自分の人生の中で、何よりも大切なものになった。 ただ、俺は彼女に……。 これは十年前のたった一年の青春物語――

シャ・ベ クル

うてな
キャラ文芸
これは昭和後期を舞台にしたフィクション。  異端な五人が織り成す、依頼サークルの物語…  夢を追う若者達が集う学園『夢の島学園』。その学園に通う学園主席のロディオン。彼は人々の幸福の為に、悩みや依頼を承るサークル『シャ・ベ クル』を結成する。受ける依頼はボランティアから、大事件まで…!?  主席、神様、お坊ちゃん、シスター、893? 部員の成長を描いたコメディタッチの物語。 シャ・ベ クルは、あなたの幸せを応援します。  ※※※ この作品は、毎週月~金の17時に投稿されます。 2023年05月01日   一章『人間ドール開放編』  ~2023年06月27日            二章 … 未定

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

あげは紅は ◯◯らしい

藤井ことなり
キャラ文芸
[紅あげは]は 私立聖真津洲留高校の2年生。 共働きの両親と年の離れた弟妹の面倒をみるために、家事に勤しむ毎日を送っていた。  平凡な毎日であったが最近学校ではちょっと変な事が流行っていた。 女の子同士がパンツを見せ合って勝負する [パンチラファイト] なぜか校内では女子達があちこちでスカートをめくりあっていた。 あげは はそれに全く興味が無く、参加してなかった為に、[はいてないのではないか]という噂が流れはじめる。 そのおかげで男子からスカートめくりのターゲットになってしまい、さらには思わぬアクシデントが起きたために、予想外の事件となってしまった。 面倒事に関わりたくないが、関わってしまったら、とっとと片付けたい性格のあげはは[パンチラファイト]を止めさせるために行動に出るのであった。 第4回キャラ文芸大賞参加作品

『遺産相続人』〜『猫たちの時間』7〜

segakiyui
キャラ文芸
俺は滝志郎。人に言わせれば『厄介事吸引器』。たまたま助けた爺さんは大富豪、遺産相続人として滝を指名する。出かけた滝を待っていたのは幽霊、音量、魑魅魍魎。舞うのは命、散るのはくれない、引き裂かれて行く人の絆。ったく人間てのは化け物よりタチが悪い。愛が絡めばなおのこと。おい、周一郎、早いとこ逃げ出そうぜ! 山村を舞台に展開する『猫たちの時間』シリーズ7。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

未亡人クローディアが夫を亡くした理由

臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。 しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。 うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。 クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。 ※ 表紙はニジジャーニーで生成しました

処理中です...