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急報
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その頃アランカーラは、婚礼の宴にて花婿に祝いの言葉を述べるために大使の館に向かっていた。
そこへ何気なさを装ったパタが、アランカーラに付き従っていたグラハに近づき、そのまま進みながらそっと耳打ちした。
「グラハ、やばいわよ」
「何だ?」
「花嫁が、クティーが偽物だってバレた。というより、元々バレてたかもしれない」
「何っ?」
「ナラカが兵士連れてやってきて、無理やり広場へ連れて行ったみたい」
「ということは、今、王妃さまが大使の館へあいさつに向かわれておられるこの行列は?」
「恐らく大使の館にも兵士たちがいて、そこで囚われておしまいになってそのままドラヴィダへ連れ去られることもあるかも」
グラハは、行列の周囲をちらと見やった。
この行列の周囲にもドラヴィダの兵士たちがちらほらいる。
そこを突破してダルシャナ側へアランカーラを避難させるのは、なかなか難しそうに思えた。
「グラハ、どうしたの?」
同じくアランカーラの護衛として同行しているシャストラが、少しグラハたちの元まで下がってきた。
「シャストラさま、花嫁がさらわれました。しかも、偽物だったこともバレていたようでございます」
「そんな……。じゃあ、クティーは今どこに?」
「村の者につけさせましたところ、広場に連れて行かれたようでございます」
「それでグラハ、これからどうするつもりなの?」
見上げたグラハは、難しい顔をしていた。
計画外のことが起きてしまったので、どう対処すべきか思案しているのだろうが、早急に手を打たなければ、事態はますます悪くなっていく。
それだけは、三人ともわかっていた。
そして王妃の行列は、このままだと、みすみす敵が待ち受けている場所に行くことになってしまう。
「グラハ、母上の行先を広場に変更する?」
とりあえず守るべき存在が分裂するのは頂けない。
護衛の兵士も分散されてしまうから、結局は両方ともが潰されかねないからだ。
「いえ。ドラヴィダの兵士たちの目もありますから、進路を変更した時点で不審に思われますでしょう」
「しかし、このままだと……」
「ええ。みすみす敵の待つ罠にかかることになります」
「じゃあどうすればいいって言うのよ?」
パタも横から口を挟んできた。
グラハは凄まじい速さで頭を回転させる。
そして、ふと顔を上げた。
「グラハ?」
シャストラとパタが両側から見上げてくる。
「このまま大使の館へ参りましょう」
「え?」
「何でよ? 敵が待っていると知っていながら、行くって言うの?」
「ああそうだ」
「どうして?」
「さきほども言ったように、ドラヴィダ兵の目を交わして進路を変更するのは難しい。さりとて、このままクティーを放っておくわけにはいかない」
「だったら……」
「だからだ。考えてもみろ。我々は花婿側とはいえ婚礼の宴の祝いに向かっているわけだ」
「そうよ」
「花婿が花嫁を広場へ連れ去っていったということは、大使の館で王妃さまがごあいさつをなされても、当の本人とは会えないというわけだ」
「だから?」
「王妃さまを招いておいて、当の本人と会えないなどおかしいだろう?」
「確かにそうよね。貴人を招いておいてそりゃないわよね」
「ということは、確かに大使の館は敵の巣窟かもしれないが、ナラカとどこかで合流、もしくは儀式を早めるとか何とか言って王妃さまを広場へお連れする予定なのかもしれない」
「なるほど」
「クティーを助けに行きたいのはやまやまだが、いたずらに動いて本来の我々の計画もめちゃくちゃにしたくない。敵の出方次第では、少し修正すれば計画通りに事を進められるように思う」
「出方が悪けりゃどうするのよ?」
「その時はその時だ」
「え~! そんな!」
「そもそも敵に先手を打たれてしまったことが、根本的な原因だ。もしかしたら、我らの計画もバレているかもしれない」
「そうかもね」
真っ青な顔になっているパタをよそに、シャストラは冷静に頷いた。
「シャストラさま、申し訳ございません。先手を打たれたのは私の失態です。もしもの時は、何としてもシャストラさまだけは、ダルシャナへ脱出できるように手配致します」
「僕だけ……」
「さようにございます。王妃さまやクティーには申し訳ありませんが、最悪の最善は、シャストラさまが生き延びられることです。そうでなければダルシャナ王家の血統が絶えてしまいます」
「グラハ」
「最悪の最善の策しかとれない場合です。まずは、敵の様子見です。それでこそ、計画の遂行もクティー救出も考えられます」
「そうだね」
シャストラは心から納得したわけではなかったが、最悪の最善策だけは絶対にグラハには選択させまいと思っていた。
本当は、誰もがクティー救出を一番に考えたかった。
しかし、それが出来ない状況にあることが何とも歯がゆかった。
そこへ何気なさを装ったパタが、アランカーラに付き従っていたグラハに近づき、そのまま進みながらそっと耳打ちした。
「グラハ、やばいわよ」
「何だ?」
「花嫁が、クティーが偽物だってバレた。というより、元々バレてたかもしれない」
「何っ?」
「ナラカが兵士連れてやってきて、無理やり広場へ連れて行ったみたい」
「ということは、今、王妃さまが大使の館へあいさつに向かわれておられるこの行列は?」
「恐らく大使の館にも兵士たちがいて、そこで囚われておしまいになってそのままドラヴィダへ連れ去られることもあるかも」
グラハは、行列の周囲をちらと見やった。
この行列の周囲にもドラヴィダの兵士たちがちらほらいる。
そこを突破してダルシャナ側へアランカーラを避難させるのは、なかなか難しそうに思えた。
「グラハ、どうしたの?」
同じくアランカーラの護衛として同行しているシャストラが、少しグラハたちの元まで下がってきた。
「シャストラさま、花嫁がさらわれました。しかも、偽物だったこともバレていたようでございます」
「そんな……。じゃあ、クティーは今どこに?」
「村の者につけさせましたところ、広場に連れて行かれたようでございます」
「それでグラハ、これからどうするつもりなの?」
見上げたグラハは、難しい顔をしていた。
計画外のことが起きてしまったので、どう対処すべきか思案しているのだろうが、早急に手を打たなければ、事態はますます悪くなっていく。
それだけは、三人ともわかっていた。
そして王妃の行列は、このままだと、みすみす敵が待ち受けている場所に行くことになってしまう。
「グラハ、母上の行先を広場に変更する?」
とりあえず守るべき存在が分裂するのは頂けない。
護衛の兵士も分散されてしまうから、結局は両方ともが潰されかねないからだ。
「いえ。ドラヴィダの兵士たちの目もありますから、進路を変更した時点で不審に思われますでしょう」
「しかし、このままだと……」
「ええ。みすみす敵の待つ罠にかかることになります」
「じゃあどうすればいいって言うのよ?」
パタも横から口を挟んできた。
グラハは凄まじい速さで頭を回転させる。
そして、ふと顔を上げた。
「グラハ?」
シャストラとパタが両側から見上げてくる。
「このまま大使の館へ参りましょう」
「え?」
「何でよ? 敵が待っていると知っていながら、行くって言うの?」
「ああそうだ」
「どうして?」
「さきほども言ったように、ドラヴィダ兵の目を交わして進路を変更するのは難しい。さりとて、このままクティーを放っておくわけにはいかない」
「だったら……」
「だからだ。考えてもみろ。我々は花婿側とはいえ婚礼の宴の祝いに向かっているわけだ」
「そうよ」
「花婿が花嫁を広場へ連れ去っていったということは、大使の館で王妃さまがごあいさつをなされても、当の本人とは会えないというわけだ」
「だから?」
「王妃さまを招いておいて、当の本人と会えないなどおかしいだろう?」
「確かにそうよね。貴人を招いておいてそりゃないわよね」
「ということは、確かに大使の館は敵の巣窟かもしれないが、ナラカとどこかで合流、もしくは儀式を早めるとか何とか言って王妃さまを広場へお連れする予定なのかもしれない」
「なるほど」
「クティーを助けに行きたいのはやまやまだが、いたずらに動いて本来の我々の計画もめちゃくちゃにしたくない。敵の出方次第では、少し修正すれば計画通りに事を進められるように思う」
「出方が悪けりゃどうするのよ?」
「その時はその時だ」
「え~! そんな!」
「そもそも敵に先手を打たれてしまったことが、根本的な原因だ。もしかしたら、我らの計画もバレているかもしれない」
「そうかもね」
真っ青な顔になっているパタをよそに、シャストラは冷静に頷いた。
「シャストラさま、申し訳ございません。先手を打たれたのは私の失態です。もしもの時は、何としてもシャストラさまだけは、ダルシャナへ脱出できるように手配致します」
「僕だけ……」
「さようにございます。王妃さまやクティーには申し訳ありませんが、最悪の最善は、シャストラさまが生き延びられることです。そうでなければダルシャナ王家の血統が絶えてしまいます」
「グラハ」
「最悪の最善の策しかとれない場合です。まずは、敵の様子見です。それでこそ、計画の遂行もクティー救出も考えられます」
「そうだね」
シャストラは心から納得したわけではなかったが、最悪の最善策だけは絶対にグラハには選択させまいと思っていた。
本当は、誰もがクティー救出を一番に考えたかった。
しかし、それが出来ない状況にあることが何とも歯がゆかった。
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