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合流

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「そうなんですか?」
「ええ。可愛い息子が何とかしてくれるそうなのよ。ねえ、?」
 そう言ってアランカーラが部屋の入り口に視線をやると、そこにはシャストラとグラハが立っていた。

「母上、私の連れを勝手に部屋に連れ込まないで頂けますか?」
「私が連れ込んだのではないわ。マンダナよ」
「マンダナ……」
 なぜかグラハが渋い顔をする。

「私は、奥さまのお茶のお相手を探しておりましたのと、シャストラさまのお連れの方が一人になられた時にどなたかに危害を加えられては、と思って、一石二鳥を狙っただけでございます」
「マンダナ?」
 マンダナは一瞬にして厳しい表情になると、シャストラとグラハを部屋の中へ入れて、自分は外へ顔を出して左右を見るとさっさと扉を閉めた。

「ご丁寧に鍵までかけなくてもいいと思うのだが」
「念には念をです!」
「マンダナこの宿の中まで危ないのかい?」
「シャストラさま、念には念をですわ。でも、あまり安心は出来ないかもしれませんけど」
「そうか。刻一刻と治安は悪くなっているということか」
「早いとこ村を元通りにしませんと、この国境の山ごとダルシャナ側の麓までドラヴィダのものになりかねませんわ」
「わかってる。父上のお身体も心配だ」
「シャストラ、早く東側に行って決着をつけましょう」
「はい。ドラヴィダ王が北へ遠征に行ってる間に何とかあの大使からこの村を奪還しないと、ね」
 四人の会話にすっかりついていけないクティーは、とりあえず奥さまがシャストラの母だということは理解できた。

「それでクティー、僕たちはすぐにも東側へ移動したいんだけど、今日到着の明日出発は無理、だよね?」
 シャストラが遠慮がちにクティーに話しかけてきた。
 いつの間にか『クティーさん』から『クティー』に変わっている。
 
「まあシャストラ、クティーは今日着いたばかりなの? 麓の町から登ってくるのに大変だったでしょうに。だったらクティーの体調を少しでも考慮してさしあげなさい。明日出発なんて当然無理でしょう。せめて足の痛みがとれるまで何日か、ここの宿屋でゆっくり休ませておあげなさい」
「しかし、そう悠長には……」
「わかってます。でも、クティーの力を完璧に使いたいのでしたら、疲労回復もちゃんとしておかないと。休息も必要ですよ。私なら、いつでも東へ参る準備は出来ています。ですから、まずはクティーのことを優先なさい」
「わかりました」
 シャストラは母の言葉に素直に頷いた。やはりシャストラも母親には弱いらしい。

「あの、私でしたら大丈夫なので、明日の午後でしたら何とかなると思いますけど」
 遠慮がちにクティーがそう言った。そう言わなければ、四人が一刻を争っているような気がしてならなかったのだ。自分が足を引っ張っているような気がしていたたまれなかったのだ。

 しかし。
「クティー、無理はダメよ」
 マンダナが何気なくしゃがんでクティーの足を触った。
 というより、軽く握った。
「うっ!」
「足の痛みがとれるまで二、三日安静にしてること。部屋は奥さまと私と同じこの部屋に泊まること。いいわね?」
 有無を言わさぬマンダナに、クティーは黙って頷いた。
 いや、頷かざるをえなかった。
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