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真実①
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宮殿の全てを濃い藍色の闇が包む時刻。
ナシャートはミラの部屋以上に豪奢な部屋に通されていた。
結局、この部屋に来るまでの間、ナシャートたちは不思議と誰とも会わなかった。
すっかり狼狽して、何も言えなくなっているナシャートをよそに、バーティルは手燭の灯りを室内に備え付けられてある燭台に、どんどん灯していく。
「あの、ここが私の部屋とはどういうことなのでしょうか?」
ようやくナシャートの思考が現実に追いついてきた。
「ここは、大公の弟が迎える側妃の部屋だ」
「大公さまの?」
昼間のミラの話が脳裏をよぎった。
確か、ミラは公妃が発注した大公の弟が迎える側妃宛ての祝いの品を受け取りにあの商館を訪れたのではなかっただろうか。
「あのバーティルさま、あなたさまは一体……」
誰ですか、と問う前に、そっとバーティルに抱き寄せられた。
砂漠地帯特有の甘いムスクの香りがバーティルの胸元からもれてくる。
「ナシャート、このままで落ち着いて聞いてほしい」
ナシャートは黙って頷いた。
そうするしかなかった。
「この部屋は確かに我が弟が迎える側妃のために準備したということになっている。表向きはな」
真実が明かされそうなのに、なぜだかその先を聞いてはいけないような気がして、軽く身をよじってみるがびくともしない。
「私は、この国の大公ジャディードだ。公妃が懐妊中だったゆえ、後宮に新しい側妃を入れるとなれば、どうなるかわからなかった。それゆえに、弟の名を借りて準備させたのだ。全てはそなたを迎えるために」
ナシャートの全身が総毛だった。
「私は、大公さまの側妃になるのですか? 公妃さまがおられるのに?」
しかも公妃は出産の真っ最中なのに。
「ああそうだ。だが、世継ぎは公妃が産む子よりも、そなたの産む子を優先させるつもりだ」
大公の言葉の意味が分からない。
公妃は、皇帝の娘。
自分は普通の庶民の娘。
生母の身分が高いほうの子供が世継ぎとなることは、大陸のどの国でも当たり前のことだった。
ましてや公妃は正妻だ。
側妃や愛妾とは違う。
「なぜでございますか?」
「それは……」
「それは、お前がリマール族の女で、しかも一族の長の嫡子でもある俺の婚約者だったりするから、かな? 大公さま」
「わっ!」
背後から掛けられるはずのない声がかけられて、ナシャートは心底驚いた。
ナシャートはミラの部屋以上に豪奢な部屋に通されていた。
結局、この部屋に来るまでの間、ナシャートたちは不思議と誰とも会わなかった。
すっかり狼狽して、何も言えなくなっているナシャートをよそに、バーティルは手燭の灯りを室内に備え付けられてある燭台に、どんどん灯していく。
「あの、ここが私の部屋とはどういうことなのでしょうか?」
ようやくナシャートの思考が現実に追いついてきた。
「ここは、大公の弟が迎える側妃の部屋だ」
「大公さまの?」
昼間のミラの話が脳裏をよぎった。
確か、ミラは公妃が発注した大公の弟が迎える側妃宛ての祝いの品を受け取りにあの商館を訪れたのではなかっただろうか。
「あのバーティルさま、あなたさまは一体……」
誰ですか、と問う前に、そっとバーティルに抱き寄せられた。
砂漠地帯特有の甘いムスクの香りがバーティルの胸元からもれてくる。
「ナシャート、このままで落ち着いて聞いてほしい」
ナシャートは黙って頷いた。
そうするしかなかった。
「この部屋は確かに我が弟が迎える側妃のために準備したということになっている。表向きはな」
真実が明かされそうなのに、なぜだかその先を聞いてはいけないような気がして、軽く身をよじってみるがびくともしない。
「私は、この国の大公ジャディードだ。公妃が懐妊中だったゆえ、後宮に新しい側妃を入れるとなれば、どうなるかわからなかった。それゆえに、弟の名を借りて準備させたのだ。全てはそなたを迎えるために」
ナシャートの全身が総毛だった。
「私は、大公さまの側妃になるのですか? 公妃さまがおられるのに?」
しかも公妃は出産の真っ最中なのに。
「ああそうだ。だが、世継ぎは公妃が産む子よりも、そなたの産む子を優先させるつもりだ」
大公の言葉の意味が分からない。
公妃は、皇帝の娘。
自分は普通の庶民の娘。
生母の身分が高いほうの子供が世継ぎとなることは、大陸のどの国でも当たり前のことだった。
ましてや公妃は正妻だ。
側妃や愛妾とは違う。
「なぜでございますか?」
「それは……」
「それは、お前がリマール族の女で、しかも一族の長の嫡子でもある俺の婚約者だったりするから、かな? 大公さま」
「わっ!」
背後から掛けられるはずのない声がかけられて、ナシャートは心底驚いた。
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