39 / 47
ティジャーラの宝
しおりを挟む
砦の裏門と建物の間、黄砂に囲まれた場所にヤシの木とは別に枯れ木のような木が二本植わっていた。
「これが原木にございますか?」
「はい。砦内では一本ずつあれば十分事足ります。砦の外で本来は栽培できないはずの木が栽培できておりますのは、女神様より賜りし我が一族の秘術があればこそでございます」
だから黄砂漠ではあえて栽培地を造らなかったのだ。一族以外で、砦に不用意に近づく人間が現れないように赤砂漠や白砂漠の一部の村や集落で栽培できるようにしていたのだろう。そしてそれを歴代の砂漠の女神の一族が秘密裏に守っていたのだ。
「ではまず、これを王宮におわす陛下の御許へお持ちして王宮で大切に育てさせていただきます。そして、あの廃墟となってしまった黄砂漠と赤砂漠の間にあった集落で育てられるようにします。当面は王宮とあの集落の二か所で良いと思います。あの集落の村は王族と一部の商人以外は知らない国内の地図にも載らない村ですからある程度の秘密は保たれるでしょう」
「そのようにお願いいたします」
「はい」
「それでは枝をお取りいたしましょう」
「枝、ですか?」
植樹にご神木を抜いていくことは、さすがに無理だろうとは思ってはいたが、枝でも大丈夫なのだろうか。
「ご神木自体に秘術がかけられておりますので小枝でも王宮の庭に植樹されますと、おそらくすぐにこれくらいに育ちますでしょう。栽培方法や植樹方法など記載された書物は王宮の書庫にもございますでしょうから、それを見られればよろしいかと思います」
イラージュはそれぞれから細い枝を二本切って、祭壇から持ってきていた絹布にくるむとサマラに手渡した。
「ありがとうございます」
サマラは丁寧に礼を述べた。
これで『ティジャーラの宝』が甦る。
そう思うと何か大きな仕事を一つ終えた気分になった。
「さてここでの御用もこれにてお済でございましょう。今夜にも空飛ぶ絨毯で王宮へお送り致しましょうか? 本来でしたら裏の出口の門は夜明けにしか開かないのですが、空飛ぶ絨毯は別でございますから」
「お願いします、と早速言いたいところなのですが、それまでに教えて頂きたいことがあるのですが」
「何でございましょうか?」
「こちらにも外の情報というのは伝わってきているのでしょうか?」
「もちろんでございます。商人はもともと有能な情報屋でもあります。この砦にいるだけでティジャーラ国内のことは元より、大陸中の動きがわかるようになっております」
「そうですか。良かった」
「何をお知りになりたいのですか?」
「実は……」
サマラは自分が王都から出てからの王宮内の動き、それにカーズィバとタージル一行の最新情報、そしてもう一つ気になっていたことを尋ねた。
そうしてその夜、西の山脈の中腹から空飛ぶ絨毯が東に向けて飛んでいった。
「これが原木にございますか?」
「はい。砦内では一本ずつあれば十分事足ります。砦の外で本来は栽培できないはずの木が栽培できておりますのは、女神様より賜りし我が一族の秘術があればこそでございます」
だから黄砂漠ではあえて栽培地を造らなかったのだ。一族以外で、砦に不用意に近づく人間が現れないように赤砂漠や白砂漠の一部の村や集落で栽培できるようにしていたのだろう。そしてそれを歴代の砂漠の女神の一族が秘密裏に守っていたのだ。
「ではまず、これを王宮におわす陛下の御許へお持ちして王宮で大切に育てさせていただきます。そして、あの廃墟となってしまった黄砂漠と赤砂漠の間にあった集落で育てられるようにします。当面は王宮とあの集落の二か所で良いと思います。あの集落の村は王族と一部の商人以外は知らない国内の地図にも載らない村ですからある程度の秘密は保たれるでしょう」
「そのようにお願いいたします」
「はい」
「それでは枝をお取りいたしましょう」
「枝、ですか?」
植樹にご神木を抜いていくことは、さすがに無理だろうとは思ってはいたが、枝でも大丈夫なのだろうか。
「ご神木自体に秘術がかけられておりますので小枝でも王宮の庭に植樹されますと、おそらくすぐにこれくらいに育ちますでしょう。栽培方法や植樹方法など記載された書物は王宮の書庫にもございますでしょうから、それを見られればよろしいかと思います」
イラージュはそれぞれから細い枝を二本切って、祭壇から持ってきていた絹布にくるむとサマラに手渡した。
「ありがとうございます」
サマラは丁寧に礼を述べた。
これで『ティジャーラの宝』が甦る。
そう思うと何か大きな仕事を一つ終えた気分になった。
「さてここでの御用もこれにてお済でございましょう。今夜にも空飛ぶ絨毯で王宮へお送り致しましょうか? 本来でしたら裏の出口の門は夜明けにしか開かないのですが、空飛ぶ絨毯は別でございますから」
「お願いします、と早速言いたいところなのですが、それまでに教えて頂きたいことがあるのですが」
「何でございましょうか?」
「こちらにも外の情報というのは伝わってきているのでしょうか?」
「もちろんでございます。商人はもともと有能な情報屋でもあります。この砦にいるだけでティジャーラ国内のことは元より、大陸中の動きがわかるようになっております」
「そうですか。良かった」
「何をお知りになりたいのですか?」
「実は……」
サマラは自分が王都から出てからの王宮内の動き、それにカーズィバとタージル一行の最新情報、そしてもう一つ気になっていたことを尋ねた。
そうしてその夜、西の山脈の中腹から空飛ぶ絨毯が東に向けて飛んでいった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】炎風、銀箭に変ず
黄永るり
ファンタジー
砂漠を行き交う商人の娘・シャアラの幼い弟が、ある日、愚かな王の命令で『代理王』という厄災落としの生贄に選ばれてしまう。弟を救うために一族の源流でもある神殿に上がるためにシャアラは旅に出る。
【完結】神の巫女 王の御子
黄永るり
ファンタジー
大神に仕えるため神殿で巫女として永遠に暮らしていくと思っていたアーシャに転機が訪れる。
神と王との間で交わされる拒めない契約により、突然神殿を去ることになってしまった。
王の側室として生きることとなったアーシャに、先代巫女の真実が知らされる。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる