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完成
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モリスとおじいちゃんが王さまに持って行けるようなパンを、ああでもないこうでもないと考えている間に、町一番のパン屋さんが最高級の小麦粉で、最高の白いふわふわの柔らかいパンを持って行ったということが町の噂になりました。
「ねえ、おじいちゃん、あそこの白いパンを王さまがたいそう気に入ったって町の皆が言ってたよ……」
市場でその噂を聞いてきたモリスは、すっかり元気をなくしていました。
「そうなのか?」
力なくモリスはうなずきました。
「やっぱりあそこのパン屋さんが一番なのかな?」
「さあ、わしには噂が本当かどうかはわからんが、それで王さまが褒美をあのパン屋に与えたという話は聞いてないだろう?」
「そう言えば、そうだね」
そうでした。モリスは大事なことを思い出しました。
まだ誰も王さまからご褒美をもらった者はいないのです。
「じゃあ、僕たちは僕たちのパンを作って、王さまに持っていけばいいんだよね?」
「ああ、そうじゃ。モリスは最初からそのつもりだったんじゃろ?」
おじいちゃんの強い後押しを背中に受けて、モリスは再び頑張る気になりました。
「じゃあ、おじいちゃん市場で仕入れてきた材料を見てくれる?」
モリスは、パンを作る台の上にパン作り用のいくつかの粉と、長持ちするような木の実などの食材を並べました。
「おお。こりゃあ、ずいぶん色々仕入れてきたの。高かったんじゃないのか?」
「大丈夫だよ。ライ麦粉にしても、そんなにいいものじゃないし。こっちの保存がきく食材も、お店の人が売れないし古くなってきたからって、捨てそうだったのを安くしてもらってきたんだ。それよりおじいちゃん、今日は小麦粉が手に入ったんだよ」
「おお。小麦粉か……」
馬のパン屋さんでもあるのですが、モリスの店では小麦粉はあまり使いません。使っても小麦ふすまだけなのです。
「いい小麦粉は町の皆が買っちゃってるから、こんなのしかなかったんだけど」
「最低限のふるいにかけた、最低限の種類の小麦粉だな?」
見ただけでおじいちゃんは種類がわかったようです。
「これでも何かいつもより美味しいパンが作れそうでしょう?」
「そうだの。それで、モリスこっちの白い粉は何だね? 小麦粉じゃあなさそうだが。それにこの食材を本当にわしらのパンに使うのかい?」
「うん。ちょっと試してみようと思って。今日焼いたパンが明日になっても明後日になっても、食べやすくて柔らかいままであるように。そして、少しでも美味しく、良い香りのパンになるように。僕、色々試したいんだ!」
モリスは、手前に置いてあった小麦粉とは違う白い粉を使って新しいパン作りを始めました。
もちろん、おじいちゃんもモリスを手伝ってくれます。
そして、王さまが宮殿に帰る前日、ようやく二人のパンが完成しました。
「ねえ、おじいちゃん、あそこの白いパンを王さまがたいそう気に入ったって町の皆が言ってたよ……」
市場でその噂を聞いてきたモリスは、すっかり元気をなくしていました。
「そうなのか?」
力なくモリスはうなずきました。
「やっぱりあそこのパン屋さんが一番なのかな?」
「さあ、わしには噂が本当かどうかはわからんが、それで王さまが褒美をあのパン屋に与えたという話は聞いてないだろう?」
「そう言えば、そうだね」
そうでした。モリスは大事なことを思い出しました。
まだ誰も王さまからご褒美をもらった者はいないのです。
「じゃあ、僕たちは僕たちのパンを作って、王さまに持っていけばいいんだよね?」
「ああ、そうじゃ。モリスは最初からそのつもりだったんじゃろ?」
おじいちゃんの強い後押しを背中に受けて、モリスは再び頑張る気になりました。
「じゃあ、おじいちゃん市場で仕入れてきた材料を見てくれる?」
モリスは、パンを作る台の上にパン作り用のいくつかの粉と、長持ちするような木の実などの食材を並べました。
「おお。こりゃあ、ずいぶん色々仕入れてきたの。高かったんじゃないのか?」
「大丈夫だよ。ライ麦粉にしても、そんなにいいものじゃないし。こっちの保存がきく食材も、お店の人が売れないし古くなってきたからって、捨てそうだったのを安くしてもらってきたんだ。それよりおじいちゃん、今日は小麦粉が手に入ったんだよ」
「おお。小麦粉か……」
馬のパン屋さんでもあるのですが、モリスの店では小麦粉はあまり使いません。使っても小麦ふすまだけなのです。
「いい小麦粉は町の皆が買っちゃってるから、こんなのしかなかったんだけど」
「最低限のふるいにかけた、最低限の種類の小麦粉だな?」
見ただけでおじいちゃんは種類がわかったようです。
「これでも何かいつもより美味しいパンが作れそうでしょう?」
「そうだの。それで、モリスこっちの白い粉は何だね? 小麦粉じゃあなさそうだが。それにこの食材を本当にわしらのパンに使うのかい?」
「うん。ちょっと試してみようと思って。今日焼いたパンが明日になっても明後日になっても、食べやすくて柔らかいままであるように。そして、少しでも美味しく、良い香りのパンになるように。僕、色々試したいんだ!」
モリスは、手前に置いてあった小麦粉とは違う白い粉を使って新しいパン作りを始めました。
もちろん、おじいちゃんもモリスを手伝ってくれます。
そして、王さまが宮殿に帰る前日、ようやく二人のパンが完成しました。
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