【完結】星が満ちる時

黄永るり

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希望

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 愛娘の門出を見送った大公は、執務室に戻らずにそのまま宮殿奥にある神殿に入っていった。
「第二公女さまは無事に出発されましたか?」
「ああ。これもそなたが良い日取りを選んでくれたおかげだ。憎たらしいくらい元気に出ていったぞ。私も兄弟がおれば、あのように出航したかったものだ」
 一人っ子だったがゆえに商売がしたかろうとしたくなかろうと、生まれながらに自分の大公位は確定していた。

「それはようございました」
 ステラは穏やかに微笑んだ。
「ありがとう、ステラ」
 大公にとってその名は、感慨深いものだった。
 目の前にいるこの女性も、彼の女性も、そして自分に重大な予言を残して逝った老婆もまた『ステラ』だった。

 今のステラは、大公の瞳に映っているステラが自分ではない事を痛感していた。
 だから必死で己の思いを押さえて、就任してから今日までずっと神殿に籠っていた。
 決して間違いなどおこらぬように、と。

「それでどうなのだ? 我が娘たちの未来は?」
「そうですね。お二人とも、大公さまに似て強い意志をお持ちにございます。しかし、時に強い意志は、それに反発する力もございます。そのような時は、きっとお二人のお相手のお方が守り、支えて下さるでしょう。二人の公女さまは、真に輝かしい未来をお持ちにございます」
 ステラはそう一息に述べると、静かに叩頭した。

「娘が幸せになれるなら、それが約束された未来がくるなら、こんなに嬉しいことはない。何度でも言うぞ。礼を言うステラ」
 大公はステラにそう伝えると宮殿へと戻っていった。

 後に書かれたトバルクの歴史書によると。
 その後、トバルク大公になった姉のルナ公女は、父親であった先代大公に負けず劣らず辣腕をふるい、エリデラード帝国から婿に来た九番目の皇子との間に、二人の公子に二人の公女をもうけた、とある。

 また、トバルク六代商家末席の家を興した妹のウェランダ公女は、商売では屈指の才能を大陸全土に轟かせ、常にトバルクを留守にしていた。
 そして、六代商家筆頭のデナーロの子息との間に、五人の息子をもうけた、とある。
 
 トバルク公国中興の祖となった双子の公女の話は、その後、長く大陸と海を渡り歩く商人たちに語られ続けることとなった。
 いつまでも仲の良かったこの双子の公女姉妹以後、トバルク公国では双子が(特に女児の双子)が生まれたら、幸福の女神の生まれ変わりだとして大切に育てる風習が、新たに出来た。

 またこの時期、二人の公女が世にその名を轟かせたことで、女でも跡取りになっても良いのだと思う女性が多く現れその勢いは男性たちを圧倒し、エリデラード帝国でも二代後には、ついに女帝の御代となった。

 とにもかくにも、トバルクの双子姉妹は、国内外は言うに及ばず、世界の果てまで多くの足跡と伝説を残している。
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みんなの感想(1件)

449
2022.12.17 449

1〜15まで読んでしまいました
ウェランダが今後どうなっていくのかワクワクします

黄永るり
2022.12.17 黄永るり

感想いただき、ありがとうございます(*'▽')
最終回までお楽しみに~(^^♪

解除

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