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明かされた真実①
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「二十年ほど前になるか。当時、私は公妃を亡くしたばかりだった」
公妃が子を産まずに亡くなったということで、後添いの公妃をどこの国からもらうのかだの、高官たちが私の娘を側室にだのと、大公の周囲は何かと騒がしくなった。
そんな時、大公に仕えていた当時の占星術師が一つの予言をした。
占星術師はすでに齢九十を過ぎた老婆で、その予言が最後となった。
あまりに大公に近い話ゆえに、明かされたのは本人のみだった。
『大公さまに御子はできます。しかし御子のためにも決して手元でお育てになってはいけません。御子は十五歳の成人の儀を終えましたら、大公さまがお迎えに行かずとも、必ずこのトバルクに自ら戻って参ります。その時に正式に自分の御子だと表明して、宮殿に迎え入れなさいませ』
「子は出来るが手元で育ててはならぬ、とは全く意味がわからなかったし、納得がいかなかった」
だがそのことで占星術師は二度と口を開くことなく、とうとう亡くなってしまった。
そうして新しい占星術師が、一年後、ウェランダの故郷でもある星観島から派遣されてきた。
「その娘は、今のそなたと同じ美しい銀髪の髪に緑青色の瞳の持ち主だった」
「え?」
ということは。
「そうだ。その占星術師はそなたたちの母となる女性だ。私はその占星術師に一目惚れしてしまったのだ」
占星術師は歴代どこの国でも派遣されれば、元の名をステラと改めた。
銀髪のステラは、最初の一、二年こそ若き大公の情熱を拒んでいたのだが、ある夜、とうとう大公の気持ちを受け入れることになってしまった。
そうしてステラは自らの妊娠がわかると、重い病にかかったと称して星観島から迎えの者を寄越してもらい、さっさと帰島してしまった。
一切、妊娠のことは大公にも誰にも言わずに。
「当時の私は単純に、彼女が早く病を治して戻ってきてくれればと願っていた」
だがその願いも空しく、一年近く経って届いたのはステラの訃報だった。
「私は信じられなくなってしまって、本当に病で亡くなったのかひそかにステラのことを調べさせたのだ」
公式な文書として問い合わせてもよかったのだが、そんなことをすれば何かやましいことがあっても真実は伏せられて、当たり障りのない回答を返されるだろうと思ったのだ。
しかも、商人の裏の顔は世界有数の情報屋だ。
ましてやここは商業国家だ。
五大商家の情報網なら、すぐに調べがつく。
星観島はその占星術師を生み出す島として有名だったが、一方でなかなか閉鎖的な島としても有名だった。
占星術師は各国に派遣するし、島の娘たちを金星の良い時期に様々な国へ留学させるが、決して余所者は入れないというところだ。
余所者が入れるのは、外に出た娘たちが夫となる男性を連れ帰る時のみ。
「優秀な商人たちでも調べるのには骨が折れた」
「でも、調べられたのですね?」
「そうだ。ステラの妊娠と、彼女が双子の女児を産んだということがわかったのは、彼女が亡くなってさらに一年後、次のステラが派遣されてきた頃だった」
ステラの容姿をそっくり受け継いだ上の娘は、星観島に立ち寄ったエリデラード帝国の子のない商人夫婦に養女としてもらわれていき、大公の容姿をそっくり受け継いだ下の娘はステラの姉夫婦に養女として託された。
島の長が、これまでの『派遣国の主の子を宿してこっそり戻ってきた占星術師の子供は、島内外を問わないが全てひそかに養子に出す』という慣例を守ったためであった。
「その商人夫婦が私の養い親だということなのですか?」
「ああ」
大公は頷いた。
しかし、そこまで調べられても、大公はすぐには二人の娘を引き取ろうとはしなかった。
あのステラの前の占星術師の最後の予言が、胸に引っかかっていたからである。
「子供のことを思うなら、手元で育ててはならない。成人の儀を終えたら、いずれ子供自身の意思でトバルクに戻ってくる。それが、私とウェランダですか?」
ルナはすっかり混乱していた。
自分とウェランダが血のつながった姉妹だっただけでも驚きなのに、実の父親がトバルク大公だったとは。ということは、目の前にいる公母は、父方の祖母ということになる。
衝撃を受けながらも、頭の中では簡単な系図が自然と出来上がっていく。
「あの、大公さま、公母さま。私とウェランダは、これからどうなるのでしょうか?」
「どうなるも何も、お前たちはあの予言通り、私が手を出さずともトバルクに戻ってきた。だから、五大商人筆頭のデナーロの息子・アクートは、お前たちのお目付け役として、バンコの元に遣わしたのだ。少し私が考えていたこととは違うが、商学校を卒業次第、トバルクの公女として正式に公表するつもりだ。そして、どちらかが次期大公か、婿をとって公妃になるかというところだ」
「ええ~!」
絶叫したのは、ルナではなくウェランダだった。
公妃が子を産まずに亡くなったということで、後添いの公妃をどこの国からもらうのかだの、高官たちが私の娘を側室にだのと、大公の周囲は何かと騒がしくなった。
そんな時、大公に仕えていた当時の占星術師が一つの予言をした。
占星術師はすでに齢九十を過ぎた老婆で、その予言が最後となった。
あまりに大公に近い話ゆえに、明かされたのは本人のみだった。
『大公さまに御子はできます。しかし御子のためにも決して手元でお育てになってはいけません。御子は十五歳の成人の儀を終えましたら、大公さまがお迎えに行かずとも、必ずこのトバルクに自ら戻って参ります。その時に正式に自分の御子だと表明して、宮殿に迎え入れなさいませ』
「子は出来るが手元で育ててはならぬ、とは全く意味がわからなかったし、納得がいかなかった」
だがそのことで占星術師は二度と口を開くことなく、とうとう亡くなってしまった。
そうして新しい占星術師が、一年後、ウェランダの故郷でもある星観島から派遣されてきた。
「その娘は、今のそなたと同じ美しい銀髪の髪に緑青色の瞳の持ち主だった」
「え?」
ということは。
「そうだ。その占星術師はそなたたちの母となる女性だ。私はその占星術師に一目惚れしてしまったのだ」
占星術師は歴代どこの国でも派遣されれば、元の名をステラと改めた。
銀髪のステラは、最初の一、二年こそ若き大公の情熱を拒んでいたのだが、ある夜、とうとう大公の気持ちを受け入れることになってしまった。
そうしてステラは自らの妊娠がわかると、重い病にかかったと称して星観島から迎えの者を寄越してもらい、さっさと帰島してしまった。
一切、妊娠のことは大公にも誰にも言わずに。
「当時の私は単純に、彼女が早く病を治して戻ってきてくれればと願っていた」
だがその願いも空しく、一年近く経って届いたのはステラの訃報だった。
「私は信じられなくなってしまって、本当に病で亡くなったのかひそかにステラのことを調べさせたのだ」
公式な文書として問い合わせてもよかったのだが、そんなことをすれば何かやましいことがあっても真実は伏せられて、当たり障りのない回答を返されるだろうと思ったのだ。
しかも、商人の裏の顔は世界有数の情報屋だ。
ましてやここは商業国家だ。
五大商家の情報網なら、すぐに調べがつく。
星観島はその占星術師を生み出す島として有名だったが、一方でなかなか閉鎖的な島としても有名だった。
占星術師は各国に派遣するし、島の娘たちを金星の良い時期に様々な国へ留学させるが、決して余所者は入れないというところだ。
余所者が入れるのは、外に出た娘たちが夫となる男性を連れ帰る時のみ。
「優秀な商人たちでも調べるのには骨が折れた」
「でも、調べられたのですね?」
「そうだ。ステラの妊娠と、彼女が双子の女児を産んだということがわかったのは、彼女が亡くなってさらに一年後、次のステラが派遣されてきた頃だった」
ステラの容姿をそっくり受け継いだ上の娘は、星観島に立ち寄ったエリデラード帝国の子のない商人夫婦に養女としてもらわれていき、大公の容姿をそっくり受け継いだ下の娘はステラの姉夫婦に養女として託された。
島の長が、これまでの『派遣国の主の子を宿してこっそり戻ってきた占星術師の子供は、島内外を問わないが全てひそかに養子に出す』という慣例を守ったためであった。
「その商人夫婦が私の養い親だということなのですか?」
「ああ」
大公は頷いた。
しかし、そこまで調べられても、大公はすぐには二人の娘を引き取ろうとはしなかった。
あのステラの前の占星術師の最後の予言が、胸に引っかかっていたからである。
「子供のことを思うなら、手元で育ててはならない。成人の儀を終えたら、いずれ子供自身の意思でトバルクに戻ってくる。それが、私とウェランダですか?」
ルナはすっかり混乱していた。
自分とウェランダが血のつながった姉妹だっただけでも驚きなのに、実の父親がトバルク大公だったとは。ということは、目の前にいる公母は、父方の祖母ということになる。
衝撃を受けながらも、頭の中では簡単な系図が自然と出来上がっていく。
「あの、大公さま、公母さま。私とウェランダは、これからどうなるのでしょうか?」
「どうなるも何も、お前たちはあの予言通り、私が手を出さずともトバルクに戻ってきた。だから、五大商人筆頭のデナーロの息子・アクートは、お前たちのお目付け役として、バンコの元に遣わしたのだ。少し私が考えていたこととは違うが、商学校を卒業次第、トバルクの公女として正式に公表するつもりだ。そして、どちらかが次期大公か、婿をとって公妃になるかというところだ」
「ええ~!」
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