【完結】星が満ちる時

黄永るり

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課題の答え

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 しばらくして端切れの衣の山を盛った籠を女官が抱えて戻ってきた。
 籠の端にナイフも挟まれてあった。
「ではそれを前へ」
「はい」
 女官は公母の前に籠を置いた。

「ではまず自信のあるリアネル王女よ、こちらから布を取ってやってみなさい」
「御意」
 公母に一礼をするとリアネルは、一枚の布とナイフを取り上げた。
「その昔、トバルク公国の建国の女神エリッサさまは一枚の牛皮を細く長く一本の糸のように切られた。そしてその紐で最初の国土を囲われました」
 謳うようにそう言いながら、リアネルは布を細かく切りだした。

 雪のようにちらちらと布の欠片がリアネルの足元に落ちていく。
 そうして全てを切り終えた後、足元の布の欠片を丁寧に指二本分の間隔を開けながらも、一本の線になるように並べていった。
 それは、ちょうど人が三人分くらい入れる大きさの円となった。
 
「公母さま、いかがでしょうか? これが私の答えにございますわ」
 リアネルは得意げに胸を張った。
「これで煽いでおやりなさい」
 公母は持っていた扇を女官に渡した。

 女官は扇を黙って受け取ると、リアネルの前まで行き、その足元を煽ぎだした。
「な、何をなさるのですか?」
 たちまちきれいに並べられた布が、宙に舞いあがった。
「小手先の技が通用するほど商人の世界は甘いものではない。それは商人の機知とは言わぬ。ただのエリッサさまの真似事ぞ」
 公母の言葉に、大公以下、その場に集った官吏も皆一様に頷いた。
 五大商人に至っては苦笑いをしていた。
「ううっ…」
 リアネルの頬がたちまち朱に染まった。

「では、次にウェランダ」
「は、はい!」
 ウェランダはおもむろに籠に近づくと、布を一枚ではなく何枚も取った。
 そしてその布を一列に広げて並べると、布の端と端とを軽く結んだ。
 布が繋がり、最後は先ほどとは違った円が出来上がった。
「公母さま、出来上がりました」
「これまた面白いこと」
「ちょっとウェランダ、どういうこと? 使用できる布は一枚きりでしょう? そんな何枚も使ってどうするのよ?」
「そうですね。その意図は何ですか? 私も聞いてみたい」
「はい。この布は十五枚ございます。これは商学校の学生全員の布にございます。一人一枚ずつ先生は渡して下さいましたが、皆の力を結集してはならぬとは仰いませんでした。それに、かの女神エリッサさまの伝説でも、確かに牛皮一枚を糸のように細く切り裂いて、とありましたが、元々、この地の原住民と交渉する時に『この牛皮で』とは仰っていましたが、『牛皮で』とは仰っておられませんでした。ですから、私はこのように答えさせて頂いたのでございます」
 思わず大公も目を丸くした解答だった。

「ふふふ」
 突然、公母が笑いしだした。
「母上?」
「これは面白い。確かにエリッサさまの伝説にそのようなことは書いていませんでしたね。そなた、なかなか商人として見所があるかもしれませんね」
「あ、ありがとうございます」
 リアネルの解答を見ながら、咄嗟にひねり出した答えだった。

 見守っていたルナは、ほっとしてその場にへたり込んでしまった。
「では、そなたに私の欲しいものを注文するといたしましょう。卒業次第、必ず仕入れてきなさい」
「心得ました」
 ウェランダが公母に向かって礼をした瞬間だった。
「え?」
 ウェランダは横から誰かに勢いよく突き飛ばされた。
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