【完結】星が満ちる時

黄永るり

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 大公が住まう宮殿には、当然ながら国の政治の中枢もあった。
 宮殿表の一角には、朝議の間や大公と宰相の執務室などがある。城壁と宮殿の間には、各大臣を頂点としたそれぞれの官庁が建てられていた。
 
 その一つ財務大臣がいる財務官庁では、立派な口ひげをたくわえた財務大臣とその座に就任したばかりの年若い宮務大臣とが大臣執務室で密かな話し合いを行っていた。
「それで宮務大臣殿、大公さまと公母さまのご意向はどうなのですか? そろそろお決めになられるのですかな?」
 公母とはその名の通り、大公の母である。

 宮務大臣は、大公や公母の私生活全般の世話を担当する者たちを采配する宮務庁の長であった。
 当然、その立場上、大公が後宮でぽろっともらした一言まで耳に入れようと思えば入れられるのだ。
「そのようでございます。最近、大公さまが後宮の公母さまをお訪ねになられる回数が増えてきました。しかも、お二人だけになられると決まってお仕えしている者たちを遠ざけられておられるようです」
「それで詳しい話は聞けたのか?」
「いいえ。用心されておられるのか、小声で話されておられるようで詳しいことはまだ何も」
「そうか。だからといって、安心はできない。大公さまは他人の意表をつくのがお好きな方ゆえ」
「ですが、女官たちが拾ってきた断片的な話を繋げますと、どうやら今月中にも発表されるようです。公母さまも大公さまのご意向に従われるようでございます。しかし、どうやっても誰を推挙なされるのか、名前までははっきりとは仰らないようで」
「まあそうだろうな。大公さまも公母さまも、昔から思慮深いお方たちだったからな。用心のためもあるのだろう。だが、我々も準備を急がなくてはな」
「はい」
 その後も、しばらく二人の話し合いは続いていた。
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