【完結】星が満ちる時

黄永るり

文字の大きさ
上 下
16 / 40

しおりを挟む
 大公が住まう宮殿には、当然ながら国の政治の中枢もあった。
 宮殿表の一角には、朝議の間や大公と宰相の執務室などがある。城壁と宮殿の間には、各大臣を頂点としたそれぞれの官庁が建てられていた。
 
 その一つ財務大臣がいる財務官庁では、立派な口ひげをたくわえた財務大臣とその座に就任したばかりの年若い宮務大臣とが大臣執務室で密かな話し合いを行っていた。
「それで宮務大臣殿、大公さまと公母さまのご意向はどうなのですか? そろそろお決めになられるのですかな?」
 公母とはその名の通り、大公の母である。

 宮務大臣は、大公や公母の私生活全般の世話を担当する者たちを采配する宮務庁の長であった。
 当然、その立場上、大公が後宮でぽろっともらした一言まで耳に入れようと思えば入れられるのだ。
「そのようでございます。最近、大公さまが後宮の公母さまをお訪ねになられる回数が増えてきました。しかも、お二人だけになられると決まってお仕えしている者たちを遠ざけられておられるようです」
「それで詳しい話は聞けたのか?」
「いいえ。用心されておられるのか、小声で話されておられるようで詳しいことはまだ何も」
「そうか。だからといって、安心はできない。大公さまは他人の意表をつくのがお好きな方ゆえ」
「ですが、女官たちが拾ってきた断片的な話を繋げますと、どうやら今月中にも発表されるようです。公母さまも大公さまのご意向に従われるようでございます。しかし、どうやっても誰を推挙なされるのか、名前までははっきりとは仰らないようで」
「まあそうだろうな。大公さまも公母さまも、昔から思慮深いお方たちだったからな。用心のためもあるのだろう。だが、我々も準備を急がなくてはな」
「はい」
 その後も、しばらく二人の話し合いは続いていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】緑の奇跡 赤の輝石

黄永るり
児童書・童話
15歳の少女クティーは、毎日カレーとナンを作りながら、ドラヴィダ王国の外れにある町の宿で、住み込みで働いていた。  ある日、宿のお客となった少年シャストラと青年グラハの部屋に呼び出されて、一緒に隣国ダルシャナの王都へ行かないかと持ちかけられる。  戸惑うクティーだったが、結局は自由を求めて二人とダルシャナの王都まで旅にでることにした。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

おばあちゃんのおかず。

kitahara
児童書・童話
懐かしい… 懐かしいけれど、作れない…。 懐かしいから食べたい…。 おばあちゃんの思い出は…どこか懐かしくあたたかいな…。 家族のひとくくり。 想いを。

箱庭の少女と永遠の夜

藍沢紗夜
児童書・童話
 夜だけが、その少女の世界の全てだった。  その少女は、日が沈み空が紺碧に染まっていく頃に目を覚ます。孤独な少女はその箱庭で、草花や星月を愛で暮らしていた。歌い、祈りを捧げながら。しかし夜を愛した少女は、夜には愛されていなかった……。  すべての孤独な夜に贈る、一人の少女と夜のおはなし。  ノベルアップ+、カクヨムでも公開しています。

オレの師匠は職人バカ。~ル・リーデル宝石工房物語~

若松だんご
児童書・童話
 街の中心からやや外れたところにある、「ル・リーデル宝石工房」  この工房には、新進気鋭の若い師匠とその弟子の二人が暮らしていた。  南の国で修行してきたという師匠の腕は決して悪くないのだが、街の人からの評価は、「地味。センスがない」。  仕事の依頼もなく、注文を受けることもない工房は常に貧乏で、薄い塩味豆だけスープしか食べられない。  「決めた!! この石を使って、一世一代の宝石を作り上げる!!」  貧乏に耐えかねた師匠が取り出したのは、先代が遺したエメラルドの原石。  「これ、使うのか?」  期待と不安の混じった目で石と師匠を見る弟子のグリュウ。  この石には無限の可能性が秘められてる。  興奮気味に話す師匠に戸惑うグリュウ。  石は本当に素晴らしいのか? クズ石じゃないのか? 大丈夫なのか?  ――でも、完成するのがすっげえ楽しみ。  石に没頭すれば、周囲が全く見えなくなる職人バカな師匠と、それをフォローする弟子の小さな物語

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

処理中です...