【完結】星が満ちる時

黄永るり

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課題

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 トバルクの商学校は、商いを習うなら若いうちにという考えのもと、入学は十三歳~十九歳までとされている。
 そして、勉強兼修行期間は一年間となっている。前期半年は、商売に関する授業が主に行われ、後期半年はほとんど実技のみとされている。
 しかも、そうたくさん学生を受け入れることはなく、五大商人の商館で成績順に三人ずつ預かるので、全学年の人数は十五人なのだ。だからなのか、学校自体はこじんまりとしたものだ。規模としては島の学校よりも少し部屋数が多いくらいだ。
 算術試験は、相変わらずの順位だった。

 昼食後の授業で、変わった課題が出された。
「では本日は、一つ課題を出します。これは、前期の実技試験も兼ねています。後期授業開始前に回答を実演して頂きます。問題は簡単ですよ。前期の授業の復習ですから」
 そう言って教師は、一つの布のようなものを差し出した。

「これは、牛皮で作られたものです。これは皆さんが伝説を知っているか知識を問うものですが、遥か昔、このトバルク公国が国として成り立つずっと前の話です。この地に、一人の娘が降り立ちました。娘は国を追われ海を漂流していたさる一族の長の娘だったのですが、新たなる定住地を求めて、この地に接岸しました。当時、この辺りにはさる民族が住んでいたのですが、その民族の長に娘は土地を貸してくれるように頼みました。普通に頼んだくらいでは、長も貸してはくれません。そして娘は一計を案じました。この牛皮で囲めるくらいの土地を貸してくれるように頼みました。それくらいなら、と長は喜んで貸すと言いました。しかし、その後の娘の行動に、長は唖然とするのです。さて、娘は何をしたのでしょうか?」
 それは前期で習ったトバルクの歴史の話だった。

 誰もが何となく頷いていた。
「ただし、歴史上の答えではなく、あなたたちならどうするのか? と問題を捉え直して解答して下さい」
「え?」
 ウェランダを含め、全員が絶句した。

「先生、それは調べても良いのですか?」
 優等生の王女さまが教師に問うた。
「もちろんです。何を調べても構いません。大切なことは、商人の機知を知ることです。では、皆さんには牛皮を一枚ずつ渡します。これで考えて下さい。試験当日には、試験用を渡します」
「はい」
 全員牛皮を受け取ると、それぞれの宿舎の商館へ戻っていった。

「どうしたものかな……」
 ウェランダは帰る道中、頭を抱えていた。
「簡単だと思っていたのに。歴史の答えが駄目だと言うことは、自分で考えないといけないのか~」
「そういうことだ。学校の図書室や資料室で何とかわかるような答えでもないしな」
「わかってるわよ!」
 パニック状態のやかましいウェランダとは対照的に、ルナはいつものように無言で大人しく歩いていた。
 しばらく、学校は実施研修も兼ねた前期の休暇期間に入る。
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