【完結】星が満ちる時

黄永るり

文字の大きさ
上 下
7 / 40

報告

しおりを挟む
 丘の上にある城には、このトバルク公国を統べる大公が住んでいた。
 城には、大公在中の旨を示す大公旗が掲げられている。
 現在の大公は四十代半ばの壮年の男だった。
「大公さま、例の調査が終わりましたので、ご報告させて頂きます」
「ああ」
 大公は執務を一時中断すると、すっかり冷めたお茶を飲みながら報告を聞いていた。

「というわけでございまして、三人目も無事に商館へ入ったとの報告をバンコから受けました。これで大公さまが仰っておられた三名の収容が全員終わりました」
 大公は眉間をもみほぐす。

「大公さま? お疲れですか?」
「いや、大丈夫だ。続けてくれ」
「わかりました」
 報告をしているのは侍従ではなく、なぜか商人の風体をした男だった。

「そうか。それで、私の思惑を知っている者はそなたたちの他におるか?」
「いいえ。官吏の中で特に気づいている者はおりません。普通に新年度の商学校に学生が入学してきたとしか思っていないでしょう」
「それは良かった」

「ですが妙なところに敏感で、一部の官吏たちの間では、大公さまが近日中にも後継者を選定されるのではないか、という噂がまことしやかに流れているようでございます」
 大公には、現在、実子がいない。妻は亡くなった公妃のみで他の女性は一切側に置いていない。そのため、一説には全く女人に興味がないのか? などという憶測がそこかしこで飛んでいた。

「なるほど。後継者が誰だかわからないが、決める予定があることだけはわかっておるということか」
「はい」
「では、その噂を黙認したまま、私の意向に沿って事を進めるように」
「御意」
 男は一礼して下がっていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】緑の奇跡 赤の輝石

黄永るり
児童書・童話
15歳の少女クティーは、毎日カレーとナンを作りながら、ドラヴィダ王国の外れにある町の宿で、住み込みで働いていた。  ある日、宿のお客となった少年シャストラと青年グラハの部屋に呼び出されて、一緒に隣国ダルシャナの王都へ行かないかと持ちかけられる。  戸惑うクティーだったが、結局は自由を求めて二人とダルシャナの王都まで旅にでることにした。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

宝石アモル

緋村燐
児童書・童話
明護要芽は石が好きな小学五年生。 可愛いけれど石オタクなせいで恋愛とは程遠い生活を送っている。 ある日、イケメン転校生が落とした虹色の石に触ってから石の声が聞こえるようになっちゃって!? 宝石に呪い!? 闇の組織!? 呪いを祓うために手伝えってどういうこと!?

チョウチョのキラキラ星

あやさわえりこ
児童書・童話
とある賞に出して、落選してしまった絵本テキストを童話版にしたものです! 小さなお子様に読んでいただきたい・読み聞かせしていただきたい……そんな心温まる物語です。 表紙はイメージです。

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

みかんに殺された獣

あめ
児童書・童話
果物などの食べ物が何も無くなり、生きもののいなくなった森。 その森には1匹の獣と1つの果物。 異種族とかの次元じゃない、果実と生きもの。 そんな2人の切なく悲しいお話。 全10話です。 1話1話の文字数少なめ。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

星食いリアロー

柚緒駆
児童書・童話
僕には秘密がある。 それはいつも、お風呂の中で、 あの歌を聞いていること。

処理中です...