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報告
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丘の上にある城には、このトバルク公国を統べる大公が住んでいた。
城には、大公在中の旨を示す大公旗が掲げられている。
現在の大公は四十代半ばの壮年の男だった。
「大公さま、例の調査が終わりましたので、ご報告させて頂きます」
「ああ」
大公は執務を一時中断すると、すっかり冷めたお茶を飲みながら報告を聞いていた。
「というわけでございまして、三人目も無事に商館へ入ったとの報告をバンコから受けました。これで大公さまが仰っておられた三名の収容が全員終わりました」
大公は眉間をもみほぐす。
「大公さま? お疲れですか?」
「いや、大丈夫だ。続けてくれ」
「わかりました」
報告をしているのは侍従ではなく、なぜか商人の風体をした男だった。
「そうか。それで、私の思惑を知っている者はそなたたちの他におるか?」
「いいえ。官吏の中で特に気づいている者はおりません。普通に新年度の商学校に学生が入学してきたとしか思っていないでしょう」
「それは良かった」
「ですが妙なところに敏感で、一部の官吏たちの間では、大公さまが近日中にも後継者を選定されるのではないか、という噂がまことしやかに流れているようでございます」
大公には、現在、実子がいない。妻は亡くなった公妃のみで他の女性は一切側に置いていない。そのため、一説には全く女人に興味がないのか? などという憶測がそこかしこで飛んでいた。
「なるほど。後継者が誰だかわからないが、決める予定があることだけはわかっておるということか」
「はい」
「では、その噂を黙認したまま、私の意向に沿って事を進めるように」
「御意」
男は一礼して下がっていった。
城には、大公在中の旨を示す大公旗が掲げられている。
現在の大公は四十代半ばの壮年の男だった。
「大公さま、例の調査が終わりましたので、ご報告させて頂きます」
「ああ」
大公は執務を一時中断すると、すっかり冷めたお茶を飲みながら報告を聞いていた。
「というわけでございまして、三人目も無事に商館へ入ったとの報告をバンコから受けました。これで大公さまが仰っておられた三名の収容が全員終わりました」
大公は眉間をもみほぐす。
「大公さま? お疲れですか?」
「いや、大丈夫だ。続けてくれ」
「わかりました」
報告をしているのは侍従ではなく、なぜか商人の風体をした男だった。
「そうか。それで、私の思惑を知っている者はそなたたちの他におるか?」
「いいえ。官吏の中で特に気づいている者はおりません。普通に新年度の商学校に学生が入学してきたとしか思っていないでしょう」
「それは良かった」
「ですが妙なところに敏感で、一部の官吏たちの間では、大公さまが近日中にも後継者を選定されるのではないか、という噂がまことしやかに流れているようでございます」
大公には、現在、実子がいない。妻は亡くなった公妃のみで他の女性は一切側に置いていない。そのため、一説には全く女人に興味がないのか? などという憶測がそこかしこで飛んでいた。
「なるほど。後継者が誰だかわからないが、決める予定があることだけはわかっておるということか」
「はい」
「では、その噂を黙認したまま、私の意向に沿って事を進めるように」
「御意」
男は一礼して下がっていった。
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