【完結】星が満ちる時

黄永るり

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出発

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 数日後、ウェランダは島にある唯一の港にいた。
 古びた小さな港で大型船が泊まれる船溜まりなどなく、小型の船舶が数せきと中型船が二隻泊まれるほどの大きさだった。
 そこに、週一便のトバルク経由で帝国行きの中型船が一隻停泊していた。

 港には、ポラの時と同様、家族全員が見送りにきてくれた。
「ウェランダ、体に気を付けてね」
「あまり無理しないようにな」
「わしらのことは、気にしなくても良いからな」
「うん。皆、ありがとう」
「ウェランダよ、風習に則り、島にどうか利益をもたらすように」
 最後にそう言ったのは、島のおさであった。
 儀礼通りの言葉で、ウェランダの旅立ちを祝福してくれる。
 今日の出発は、ウェランダだけだった。

「では、行って参ります」
 ウェランダは、長に頭を下げて、家族と別れを済ませると船に乗り込んだ。
 船の銅鑼が激しく鳴らされた。
 ゆっくりと港を離れた船は、星観島ほしみじまを後にした。
 
 ウェランダは女人ばかりの四人一部屋の相部屋をあてがわれた。
 この船は、他国の港にも寄港するので、トバルク公国までゆっくり半月程度の船旅となる。

 遠ざかっていく船をいつまでもポラは見つめていた。
「ポラ、帰るぞ」
「ええ」
「どうした?」
「父さん、ウェランダはどうなるのかしら?」
「さあ、それはウェランダ次第だろう。私たちが心配してもどうにもなるまい」

「それはそうだけど。あの子はだって前に父さんは言ってたわね?」

「あの子を預けにきた方から一度だけ、な。だが本当かどうかはわからないし、両親ともに商人だったのか、父親がそうだったのか、詳しいことは何一つ教えて下さらなかった」
「ウェランダは自分の両親のことを知ることになるのかしら?」
「トバルクは商業国家だからな。あの子が実の父親と会うことがあるかもしれない、とそれを心配しているのか?」
 ポラは暗い表情で頷いた。
「だがあの子の両親がどこの誰だかわからん以上、生きているのかどうか、今も商人をしているのかさえわからない」

「帰ってきてくれるわよね?」
 ポラの不安は、一家の女手が減ってしまうからではない。自分の知らないところで、妹として可愛がってきたウェランダが、自分たちが本当の家族ではなかったことを知らされた時、激怒して二度と帰って来ないのではないか?
 何だかそんな気がして仕方がなかったのだ。
 
「ウェランダなら真実を知っても大丈夫だよ。どんな真実でもあの子ならちゃんと受け止められると私は思うよ。心配するだけ無駄だ。さあ帰るぞ」
 父はさっさと歩きだした祖父の後を、足早に追っていった。
「さあポラ、僕たちも帰るとしよう」
 ポラは夫に優しく促されて、やっと帰路についた。
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