【完結】星が満ちる時

黄永るり

文字の大きさ
上 下
3 / 40

星観島

しおりを挟む
 ウェランダは、世界の南方にある島々の一つ『星観島ほしみじま』と呼ばれている島に家族と共に住んでいた。島は、大陸屈指のエリデラード帝国の飛び地領として、帝国の保護を受けている。但し、保護は受けているものの自治権は島の長に任されている。
 
 元々、この星観島はどこの国にも属すことはなかった。そのため、時によって様々な国に干渉されてはいた。
 ところが、何代か前の帝国の時の皇帝付きの占星術師となった島の娘が、幾度も星読みによって皇帝の危難を救ったということで、それを喜んだ皇帝が娘の願いを聞き入れて星観島を帝国の保護領とすることにしたのだ。以来、帝国の権威を恐れてどこの国も干渉しなくなり、島に穏やかな日々が流れるようになった。
 
 そして、優秀な占星術師を輩出するということで、代々島で一番目に優秀な占星術師を皇帝の元に送ることになっている。ちなみに二番目に優秀な占星術師は、後進の育成と島の長の役目を担うために、島から出ないことになっているのだ。
 
 そのために星観島には、古くから一つの風習があった。
 十五歳の成人の儀を終えた島の娘を、その娘のもっとも金星の加護が得られる時期に、島のための利益をもたらすようにと島外へ派遣するのだ。
 派遣先は、それぞれが自由に選び、学んだり商いの弟子入りをしたりするのだ。派遣期間は、一年~五年の間で決められる。
 
 最初は、島の長が娘しか生まれずに衰退していく一方だった島を憂えて発案したものだったのだが、島の利益よりも金星の加護の別の意味である『恋愛』に走る娘が増えていった。しかも、恋愛に走った娘の半数は、王や貴族に正室とまでは行かないまでも側室として縁付いていったのだ。そして残りの半数は、夫となる者を連れて島に戻ってくるのだ。

 そして恋愛に走らなかった娘たちは、商人となって島に利益をもたらすこともあれば、自分の特技や趣味を磨いてそれによって生計を立てていく者もあった。
 確率で言えば、恋6:金3:趣味1くらいである。

 派遣国は、島の学校での成績順と本人の希望とで決定される。

 ウェランダの姉は、島の学校でも成績優秀なほうだったので、帝国本土の商学校へ推薦された。ウェランダの姉も、最初は家の月桃農園から作られる製品を、帝国の市場で売り出そうと息巻いて出ていったのだが、帝都にある商学校の寄宿舎で「田舎者」と馬鹿にされたり苛められたり、散々な目にあって意欲をなくしてしまい、結局は諦めてしまったのだ。
 そして、失意の中、慣れない異国暮らしで助け手となってくれた義兄と出会い、二人で帰島したのだ。
 
 だからではないのだが、ウェランダは絶対に自分たちが作るものをもっと島の外へ売り出して、どこかの大商人と提携して販路を持とうと考えているのだった。そのために中位の成績だったウェランダが選んだ国は、トバルク公国という大陸でも商業に特化した国であった。そこの商人育成の学校に、一年滞在して商売のことをみっちり学んで、卒業後は、商人となって大海に乗り出そうということを考えている。

「絶対、大金持ちになってみせるわ!」
 というのが、ウェランダの幼い頃からの口癖だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】緑の奇跡 赤の輝石

黄永るり
児童書・童話
15歳の少女クティーは、毎日カレーとナンを作りながら、ドラヴィダ王国の外れにある町の宿で、住み込みで働いていた。  ある日、宿のお客となった少年シャストラと青年グラハの部屋に呼び出されて、一緒に隣国ダルシャナの王都へ行かないかと持ちかけられる。  戸惑うクティーだったが、結局は自由を求めて二人とダルシャナの王都まで旅にでることにした。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

チョウチョのキラキラ星

あやさわえりこ
児童書・童話
とある賞に出して、落選してしまった絵本テキストを童話版にしたものです! 小さなお子様に読んでいただきたい・読み聞かせしていただきたい……そんな心温まる物語です。 表紙はイメージです。

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

みかんに殺された獣

あめ
児童書・童話
果物などの食べ物が何も無くなり、生きもののいなくなった森。 その森には1匹の獣と1つの果物。 異種族とかの次元じゃない、果実と生きもの。 そんな2人の切なく悲しいお話。 全10話です。 1話1話の文字数少なめ。

宝石アモル

緋村燐
児童書・童話
明護要芽は石が好きな小学五年生。 可愛いけれど石オタクなせいで恋愛とは程遠い生活を送っている。 ある日、イケメン転校生が落とした虹色の石に触ってから石の声が聞こえるようになっちゃって!? 宝石に呪い!? 闇の組織!? 呪いを祓うために手伝えってどういうこと!?

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

星食いリアロー

柚緒駆
児童書・童話
僕には秘密がある。 それはいつも、お風呂の中で、 あの歌を聞いていること。

処理中です...