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願いを叶える星
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そこがどこだったかは、もうはっきりと思い出せない。
薄暗いところにいたと思う。いや単純に夜だっただけなのかもしれなかった。
闇夜と同化しそうな布をまとい、老婆が一人、奥の石段に敷物を敷いて座っていた。
「お前の願いは何だ?」
そのしわがれた声に、ウェランダはなぜだか怖いとは思わなかった。
ただ自分の胸の鼓動だけが小さな耳に伝わっていた。
「私は大きくなったら、おじいちゃまや父さまと同じ月桃職人になって、好きな人と結婚して、それで月桃で作ったものをたくさん世界中に売り歩いて、大金持ちになるの~」
そう言うと小さな両腕が暗い天をついた。
幼子の満面の笑みに、老婆は困ったような顔になった。
「それがお前の願いで、お前が本当に幸せと思うことなのかい?」
「そうよ。貧しいのは嫌だし、嫌いな人と結婚もしたくないわ」
「そうか……」
老婆は小さく頷いた。
「ねえ、おばば私の願いは全部叶うかな? 私は幸せになれる? 早く私の星を読んでよ!」
焦れたようなウェランダに、老婆はさらに困った顔のまま微笑んだ。
「ふふふ。幼いのにお前はなかなか強欲だねえ。まあ、お前くらいの育ち方をしていたら、そんなものなんだろうねえ」
「おばば?」
「いや、何でもないよ」
老婆は頭を振った。
「お前さんは一つ勘違いをしている。人の欲のために力を貸す星は、暗い夜空にたった一つだけだ。だから一つの欲にしか動かない」
ウェランダの前で皺が刻まれた細い指がひとつ立てられた。
「ええ? 駄目なの?」
老婆の言葉が全て理解できたわけではないが、ただ自分の願いが全て叶わないのかもしれないと言われたことは、幼い頭にも理解できた。
「そうさね。一気に全ては無理だろうねえ。その時、お前が何の願いを中心に据えるかだねえ。お金を中心にすれば金が、色恋を中心にすれば恋愛が、好きなことにすれば好きなことが、お前のために動き出す」
老婆は悲しげな顔をしたウェランダの頭を優しく撫でながら、諭すようにそう語った。
「どれか一つだけなの?」
「そうだよ。たった一つの願いの星に対して、一つの願いにしか連動しない。非常に合理的じゃないか」
「ゴウリテキ?」
「まあ、今の幼いお前にはわかるまいよ」
「じゃあ、私はどの願いが叶うの?」
「お前次第と言いたいところだが、そうさね」
老婆は、細い目をさらに細める。
「お前が自分の欲の星を動かす時は……」
老婆の口がかすかに動いた。
「……の時かもしれないねえ」
一瞬、暗闇の中で風が吹いて、老婆が何と言ったのかウェランダには聞こえなかった。
その後、何度聞き直しても老婆は口をつぐんだままだった。
ただ、あの時の老婆の言葉が『お金のためだよ』と言ってくれていればいいのに、とずっとウェランダは願っていた。
薄暗いところにいたと思う。いや単純に夜だっただけなのかもしれなかった。
闇夜と同化しそうな布をまとい、老婆が一人、奥の石段に敷物を敷いて座っていた。
「お前の願いは何だ?」
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ただ自分の胸の鼓動だけが小さな耳に伝わっていた。
「私は大きくなったら、おじいちゃまや父さまと同じ月桃職人になって、好きな人と結婚して、それで月桃で作ったものをたくさん世界中に売り歩いて、大金持ちになるの~」
そう言うと小さな両腕が暗い天をついた。
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「それがお前の願いで、お前が本当に幸せと思うことなのかい?」
「そうよ。貧しいのは嫌だし、嫌いな人と結婚もしたくないわ」
「そうか……」
老婆は小さく頷いた。
「ねえ、おばば私の願いは全部叶うかな? 私は幸せになれる? 早く私の星を読んでよ!」
焦れたようなウェランダに、老婆はさらに困った顔のまま微笑んだ。
「ふふふ。幼いのにお前はなかなか強欲だねえ。まあ、お前くらいの育ち方をしていたら、そんなものなんだろうねえ」
「おばば?」
「いや、何でもないよ」
老婆は頭を振った。
「お前さんは一つ勘違いをしている。人の欲のために力を貸す星は、暗い夜空にたった一つだけだ。だから一つの欲にしか動かない」
ウェランダの前で皺が刻まれた細い指がひとつ立てられた。
「ええ? 駄目なの?」
老婆の言葉が全て理解できたわけではないが、ただ自分の願いが全て叶わないのかもしれないと言われたことは、幼い頭にも理解できた。
「そうさね。一気に全ては無理だろうねえ。その時、お前が何の願いを中心に据えるかだねえ。お金を中心にすれば金が、色恋を中心にすれば恋愛が、好きなことにすれば好きなことが、お前のために動き出す」
老婆は悲しげな顔をしたウェランダの頭を優しく撫でながら、諭すようにそう語った。
「どれか一つだけなの?」
「そうだよ。たった一つの願いの星に対して、一つの願いにしか連動しない。非常に合理的じゃないか」
「ゴウリテキ?」
「まあ、今の幼いお前にはわかるまいよ」
「じゃあ、私はどの願いが叶うの?」
「お前次第と言いたいところだが、そうさね」
老婆は、細い目をさらに細める。
「お前が自分の欲の星を動かす時は……」
老婆の口がかすかに動いた。
「……の時かもしれないねえ」
一瞬、暗闇の中で風が吹いて、老婆が何と言ったのかウェランダには聞こえなかった。
その後、何度聞き直しても老婆は口をつぐんだままだった。
ただ、あの時の老婆の言葉が『お金のためだよ』と言ってくれていればいいのに、とずっとウェランダは願っていた。
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