【完結】月の行方

黄永るり

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 秋に行われる実りの祭典・収穫祭。
 どこの国でも大がかりな祭礼が執り行われるが、今年のリファンカール王国の祭典はいつもと違っていた。
 今年は王都に四人の王子を召し出して、王弟が王位継承者を祭の最終日に発表するというのだ。
 先王崩御以来、十数年の歳月を王弟が宰相となることで何とか国政の舵取りが出来ていた。
 しかし、王という国の要の不在は、良きにつけ悪しきにつけ民の心は不安定なものになる。
 新たな王・グランドラス四世を名乗る王が誕生するのは喜ばしいことであった。
 目下、民の間ではどの王子が玉座に座るのかで賭けが行われていた。
「俺はやっぱり他国の例を見るまでもなく、年の順で北の太守様だな」
「年の順なんて、太守様方が王子の称号を得る時の方便みたいなもんだったじゃねえか。北の悪どい王子様がなれるわけねえだろ。なってほしくもねえし。その点、東の太守様なら男の御子様もお生まれになられたし、安定した穏やかな国にして下さるだろう」
「お前ら、なんだかんだ言いながら全然わかってねえなあ。東の太守様は柔弱なお方で剣も上手く扱えない女人みたいな方だって話だぜ。噂じゃあ、しょっちゅう鉱山の鉱夫たちに命じて宝石の原石を採取させては、お抱えの細工師に金銀なんかと一緒に細工させておられるそうだ。美しい宝石のためなら湯水のように俺たちからむしり取った金を使い込むらしいぜ」
「ふん。なら貴様はどの太守様に賭けるんだよ?」
「俺か? 俺は末の西の太守様よ。あの方だけじゃねえか。何だかんだ言っても、先王・グランドラス三世陛下のご気性を受け継いでおられるのはよ。武人としては強いし、西側の国境沿いの小競り合いでもいつも圧倒的な強さで勝っておられるし。出来た御仁だと評判だぜ。先王陛下と違うところと言えば、質素を旨として後宮が華やかではないということかな? それだって大歓迎じゃねえか? 確か後宮に迎えたたった一人のお妃様が近々御子を出産されるとか」
「なんだ誰も南の太守様には賭けねえのか?」
 市井での人気は、東と西の太守が文人派と武人派でそれぞれ取り込んで、二分する形となっている。
 少数派では年齢順でいけば北の太守もあるのではないかという者もあり、大穴は誰も見向きもしない南の太守ということになった。
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