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救出
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「おい! 危ねえぞ!」
突然、首根っこを思いっきり掴まれて砂礫の山から引きずり出された。
そしてそのまま横穴へと引っ張られる。
埋まっていく縦穴からさらに奥へと連れて行かれて、ようやく縦穴を埋めつくした砂礫の影響のないところで誰かの手がルナから離れた。
「大丈夫か?」
それは一人の鉱夫らしき男だった。
らしき、と言うのは、ルナの見える範囲だが、男の腰から下がここで見た鉱夫たちと同じような衣装だったからだ。
男は黙ってルナの頭や肩などから砂を払ってくれた。
「何とか……」
口に入った砂を横に吐き出しながら、ルナはようやくそれだけ答えられた。
脇に原石を置いて上半身をゆっくり起こした。
そして自分でも全身から細かい砂を払った。
男は壁の燭台に火をつけると、それを手燭ごと壁から外して手に取った。
その灯りから、男の顔が浮かび上がってきた。
「あなたは?」
男はルナを最初に案内してくれた鉱夫だった。
その後も定期的に坑道を訪れては、必要な物を持ってきてくれていた。
「とりあえず俺におぶさってくれ。上がれる縦穴の下まで行く。そこからひとまず上へ上がろう」
そう言ってしゃがんでルナに背を向けた。
「ちきしょう! 誰が塞ぎやがったんだ!」
鉱夫は怒り心頭だった。
古い縦穴でも余程のことがない限りは、ここまで埋めてしまうことはないらしい。
そして埋めるにも鉱夫全員にその旨を通達してから、必ず誰もいないことを確認してから慎重に埋めていくのだ。
「何の連絡もなかった。なのになぜ?」
「あの、すみません」
おずおずと怒れる背中に声をかける。
「上にいる人たちにばれないようなところへ出られますか?」
「え?」
鉱夫は意外な顔をしながら振り返った。
「お前、腹立たねえのか? 殺されかけたんだぞ?」
「まあそうなんですけど。とにかく誰にもばれないところに出たいんです」
今、上にいる連中は自分が死んだものと思っているだろう。ひよっとしたら後で遺体を探しにくるかもしれない。
それまでに何とか誰にも知られずにここから出なければならない。
そして一刻も早くこの鉱山地帯からも離れなければならない。
誰が自分を殺そうとしているのかわからない以上、誰も信じることはできない。
かろうじてこの目の前の鉱夫は自分を助けてくれた以上、少しは信じても良いのだろうかとルナは思った。
「誰にも知られないように上に出ることはできるが」
戸惑いながら鉱夫はそう呟いた。
「ではそこまで連れて行って下さい。お願いします」
「わかった」
ルナは採取した原石を懐に入れると、鉱夫におぶさった。
鉱夫はそのまま手燭の灯りを頼りに暗い坑道を進んでいく。
そして一つの縦穴の下までたどり着くと、足元に手燭を置いてルナを背負ったまま縄梯子を上がっていった。
上がりきると鉱夫はそのまま静かに縄梯子を下におろした。
そこで井戸を背に四つん這いになると、近くにある小屋の裏手に回った。
「ここはあの縦穴が見える小屋の裏手だ」
そう言いながらルナを小屋の壁にもたれかからせるように座らせた。
「ありがとうございます」
「おお。じゃあ俺は何があったか見てくるよ」
「いえ。少し待ってください」
ルナは鉱夫の動きを制止すると、静かにするようにと手で示した。
鉱夫は何かを察すると黙って小屋の裏から縦穴の方を見やった。
「何かまだあの縦穴を塞ぐ作業をしてるみたいだな」
「そうですか」
ルナも鉱夫の背中越しに顔を半分出してみた。
わずかな月明かりの下、縦穴の周辺には黒衣に見える衣装に身を包んだ集団がいた。
黒衣の集団が馬車の荷台から大量の土砂を落としていたのだ。
どうやら二人の人物が彼らに命令しているようだ。
(誰だろう?)
身を伏せながら注意深く観察する。
はらり。
二人の人物のうち、眼以外を覆っていた頭巾から顔を覗かせた。
わずかな彼ら自身が灯している灯りがその人物の容姿を浮かび上がらせた。
「嘘……」
息が止まるかと思った。
突然、首根っこを思いっきり掴まれて砂礫の山から引きずり出された。
そしてそのまま横穴へと引っ張られる。
埋まっていく縦穴からさらに奥へと連れて行かれて、ようやく縦穴を埋めつくした砂礫の影響のないところで誰かの手がルナから離れた。
「大丈夫か?」
それは一人の鉱夫らしき男だった。
らしき、と言うのは、ルナの見える範囲だが、男の腰から下がここで見た鉱夫たちと同じような衣装だったからだ。
男は黙ってルナの頭や肩などから砂を払ってくれた。
「何とか……」
口に入った砂を横に吐き出しながら、ルナはようやくそれだけ答えられた。
脇に原石を置いて上半身をゆっくり起こした。
そして自分でも全身から細かい砂を払った。
男は壁の燭台に火をつけると、それを手燭ごと壁から外して手に取った。
その灯りから、男の顔が浮かび上がってきた。
「あなたは?」
男はルナを最初に案内してくれた鉱夫だった。
その後も定期的に坑道を訪れては、必要な物を持ってきてくれていた。
「とりあえず俺におぶさってくれ。上がれる縦穴の下まで行く。そこからひとまず上へ上がろう」
そう言ってしゃがんでルナに背を向けた。
「ちきしょう! 誰が塞ぎやがったんだ!」
鉱夫は怒り心頭だった。
古い縦穴でも余程のことがない限りは、ここまで埋めてしまうことはないらしい。
そして埋めるにも鉱夫全員にその旨を通達してから、必ず誰もいないことを確認してから慎重に埋めていくのだ。
「何の連絡もなかった。なのになぜ?」
「あの、すみません」
おずおずと怒れる背中に声をかける。
「上にいる人たちにばれないようなところへ出られますか?」
「え?」
鉱夫は意外な顔をしながら振り返った。
「お前、腹立たねえのか? 殺されかけたんだぞ?」
「まあそうなんですけど。とにかく誰にもばれないところに出たいんです」
今、上にいる連中は自分が死んだものと思っているだろう。ひよっとしたら後で遺体を探しにくるかもしれない。
それまでに何とか誰にも知られずにここから出なければならない。
そして一刻も早くこの鉱山地帯からも離れなければならない。
誰が自分を殺そうとしているのかわからない以上、誰も信じることはできない。
かろうじてこの目の前の鉱夫は自分を助けてくれた以上、少しは信じても良いのだろうかとルナは思った。
「誰にも知られないように上に出ることはできるが」
戸惑いながら鉱夫はそう呟いた。
「ではそこまで連れて行って下さい。お願いします」
「わかった」
ルナは採取した原石を懐に入れると、鉱夫におぶさった。
鉱夫はそのまま手燭の灯りを頼りに暗い坑道を進んでいく。
そして一つの縦穴の下までたどり着くと、足元に手燭を置いてルナを背負ったまま縄梯子を上がっていった。
上がりきると鉱夫はそのまま静かに縄梯子を下におろした。
そこで井戸を背に四つん這いになると、近くにある小屋の裏手に回った。
「ここはあの縦穴が見える小屋の裏手だ」
そう言いながらルナを小屋の壁にもたれかからせるように座らせた。
「ありがとうございます」
「おお。じゃあ俺は何があったか見てくるよ」
「いえ。少し待ってください」
ルナは鉱夫の動きを制止すると、静かにするようにと手で示した。
鉱夫は何かを察すると黙って小屋の裏から縦穴の方を見やった。
「何かまだあの縦穴を塞ぐ作業をしてるみたいだな」
「そうですか」
ルナも鉱夫の背中越しに顔を半分出してみた。
わずかな月明かりの下、縦穴の周辺には黒衣に見える衣装に身を包んだ集団がいた。
黒衣の集団が馬車の荷台から大量の土砂を落としていたのだ。
どうやら二人の人物が彼らに命令しているようだ。
(誰だろう?)
身を伏せながら注意深く観察する。
はらり。
二人の人物のうち、眼以外を覆っていた頭巾から顔を覗かせた。
わずかな彼ら自身が灯している灯りがその人物の容姿を浮かび上がらせた。
「嘘……」
息が止まるかと思った。
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